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僕とあの娘  作者: 劣煙
2/2

壊れる音

-------

家から自転車で20分程かけて出勤し

忌々しい職場に着いた。

自分の持ち場に行く前に必ずトイレに向かう

敢えて持ち場から遠い場所を選んでいる。

理由は他の人と出くわさない為だ



そうして、やつれきった顔を両手で叩き

ニコッと無理やり笑顔を作る。

こうでもしなければ、指摘を受けるからだ。

作り笑顔のまま、鏡に映る自分の顔は

まるで別人。

重いため息をつくと、いよいよ持ち場へ向かう

さっきトイレの鏡の前で作った偽の笑顔を持ち合わせて。


「おはようございます!」

偽りの自分を演じて大きく挨拶した。

さぁ、地獄の始まりだ。

午前中はまだ例のパワハラ上司は来ない。

そそくさと自分の仕事を処理していく。

まだ入社してあまり日が経っていないが

何も嫌な上司だけしか居ないわけでも無い。

丁寧に教えてくれる上司は居る。

だが、ユニット1、2、3と3つに分かれている

所謂グループみたいなものだ

その中で僕は「ユニット1」に所属している。

ただ…社内では3つのユニットのうち

この僕が所属しているユニット1は社内でも

悪い印象が圧倒的に多かった。

毎日のようにユニット内の社員同士の喧嘩

協調という文字すら見れない、まさに無法地帯のような

ユニットだ。

入社したばかりの時も、ろくに仕事を教えて貰えず

教えて貰ったとしても一言、二言で済まされ


「いやぁ、期待の新人ですよ!仕事も出来ますし!」


などと、やり方もあまりよく分かっていない僕に対しての

ありえない過大評価で

上層部に媚びを売る社員達。

その光景が余りにも異様に見えた。


それは…

「まるで人間じゃないみたい」

--------------

-----------

「……ん……くん………〇〇君!」


ハッとした。

後ろを振り返るとユニット2の宮原さんが居た

宮原さんは入ってきたばかりの頃、右も左も分からなかった僕にユニットは別だが詳しく仕事を教えてくれた気さくな女性だ。


「な、なんでしょうか」


「ほら、もう昼休憩の時間だよ」


パッと時計に目をやるとちょうど昼休憩の時間になっていた

ボーッとしてる僕に宮原さんも不思議そうに言った


「大丈夫?とりあえずご飯食べよう」


「あぁ、そうですね」


そう言って休憩室に行き、昼飯を胃にかきこんだ

宮原さんと世間話でもしてあっという間に昼休憩は

過ぎていった。


それからというものの、橋元と一緒に仕事をすることになった。

橋元というこの男こそが僕にパワハラをしてくる上司だ。

僕よりも体格差があって威圧感で怯えながら仕事をする。

そんなこんなで今日の仕事は終わった。

疲弊した精神と身体を引きずりながら帰ろうとした矢先に

上層部の社員に呼び止められた。


「あの仕事のやり方、本当に分かったの?」

「橋元さんに聞きなさいよ」

「社会人として自覚持ちなさい」など


耳が痛くなるほど指摘の嵐。

僕は元々物覚えもあまり良くなく要領も悪いが

これでも一生懸命やっているのだ。


うるせぇな…ならまずあの男をどうにかしやがれ


なんて言える訳もなく、満身創痍のまま

頭を下げて謝った。

こうするしかないんだ。耐えろ。幸せのために。

奥歯が軋む音が頭に響いた。

ようやっと解放され、ロッカールームで着替えを済ませて

職場から抜け出した。

ボロボロの僕に生ぬるい風が全身を包んだ。

駐輪場には橋元の愛車であるイケ好かない大型バイクが

停まっていた。


ギリギリ…と拳を握りしめ、思いっきり橋元のバイクを

蹴りあげた。




「…ざまぁみろ」





心がまたひとつ壊れる音がした。



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