第六話 ミーナからの手紙
子供の字で書かれた、サンタクロースへの手紙。
「爺さん、こんな大切なもの、オイラが見ちゃっていいのか?」
爺さんは『ホッホッホ』と笑って、ヒゲだらけの口に指を当ててニコニコと笑っている。
手紙を開くと、大きな、たどたどしい文字。うーん、読めるかなぁ?
『く……る……わ、こ……』
あ、『わ』じゃなくて『ね』かな? こっちは『る』じゃなくて『ろ』?
くろねこ?
二通目の手紙を開く。
少し読みやすくなった文字で『くろねこのぬいぐるみ』。
三通目は猫の絵も描いてある。黒い毛皮、緑色の目。差出人は、三通とも『ミーナ』。
ミーナ……。どうして?
「ミーナのリクエストは、毎年『お前さん』じゃよ」
オイラの事を……覚えているの? あんなに小さかったのに。
オイラをゆるしてくれるの? 顔に傷を作って逃げ出したのに。
オイラにまた会いたいと……思ってくれているの?
「ママは……ママはおこっていない?」
「夜通し探しておったよ。冷たくなったお前さんを抱いて『見つけてあげられなくて、間に合わなくてごめんなさい』と、ずっと泣いておったよ」
オイラ……何にも知らないで、すねていじけて、八つ当たりして……! 何年も何年も……バカみたいだ!
黒い気持ちがほどけてゆく。もう誰かの幸せを、ねたまなくていいんだ。どうせオイラなんかって、呟かなくていい。
サンタの爺さんが、鈴のたくさん付いたタンバリンを『シャン!』と鳴らすと、オイラは元の姿に戻っていた。
真っ黒いビロードの毛皮に、緑色の目。長い尻尾に大きな耳。
そうさ! オイラは、ミーナの絵のとおりの、立派な黒猫なんだ!
ただし、実体じゃないみたい。なんだかふわふわ飛んでいる。オイラはあのイブの日に、確かこごえて死んじゃったんだ。
決めた……! オイラはミーナの元へ行く! もう、逃げるのはおしまいだ。
「爺さん、オイラをぬいぐるみにしてよ。ミーナの元に行きたい。なるべく、丈夫で長持ちするやつにして! 少しでも長く、ミーナを近くで見守りたい」
「それで良いのか?」
「うん。それがいい」
「そうさのう、それもまた良しじゃな!」
サンタの爺さんが『ホッホッホ』と笑いながら、タンバリンを『シャンシャン』と二回叩いた。
オイラは新しく、ふかふかのぬいぐるみの身体をもらった。
トナカイがソリの物入れから、ツヤツヤの赤いリボンを出してくれた。リボンは、シュルシュルとオイラの首に巻きついて、蝶々むすびになった。金色の小さな鈴がチリチリと鳴る。
オイラは、ステキなクリスマスプレゼントになった。
「クリスマスイブの晩に、また来いよ! お前のイタズラ、面白かった!」
「そうさのう。イブの晩は、自由に動ける魔法をかけておいてやろう。クリスマスは特別な日じゃからな」
サンタの爺さんも、赤いはなのトナカイも、ずっとだまって見ていてくれた。オイラが思い出すまで、見守ってくれていたんだ。
「ありがとう、オイラ……頑張ってみるよ!」