第五話 サンタクロースの贈り物
全部、思い出した。
そうして……オイラは黒サンタになったんだ。
真っ黒い気持ちを袋に詰めて、サンタの爺さんのソリにぶら下がる。爺さんが幸せをくばって歩くから、オイラのほんの少しのイタズラなんて、誰も気にしない。
お気楽に憂さ晴らしして、ザマアミロって笑ってた。そんな風に八つ当たりを続けているうちに、オイラは色々忘れてしまった。
寒くてハラが減って、悪い夢ばかり見ていたあのイブの夜のことを。
冷たい雨、壊れた教会、ミーナのほっぺの真っ赤な血の玉。迎えに来てくれなかったママ……。
逃げ出してしまった、弱虫のオイラ。
みんなみんな、忘れてしまいたかったから。
黒サンタになったのは、オイラが弱虫だったからだ。黒い気持ちに勝てなかったからだ。だから袋がいっぱいになって、本物のバケモノになっても仕方ない。
「でも……今、ここでは勘弁してくれよぉ……!」
こんな小さな赤ちゃんのそばで、バケモノになったりしたら、赤ちゃんに、ケガをさせてしまうかも知れない。オイラ、柔らかいほっぺに傷をつけるなんて、もう二度としたくないんだ!
「誰か……誰か助けて! オイラをどこか遠くに放り投げてよ!」
『落ち着いて。ほら、大丈夫じゃよ、黒い坊や』
誰かの大きな手が、オイラの頭をそっと包んだ。
ひょいと抱き上げて、背中をトントンと叩いてくれる。目の前に、真っ白いヒゲと赤い服。
……サンタの爺さんだ。
「バケモノになんかならないよ。お前、ただのイタズラ坊やだもん」
赤いはなのトナカイが、ニヤニヤしながら言った。
「そうさのう。ちょっとひねくれ坊やじゃが、やさしい心も持っておるな!」
トナカイが、オイラの黒い袋を前脚で器用に開いてしまう。袋の中に入っていたのは、色とりどりのプレゼントだった。
「サンタさんは毎年ちゃんとお前にも、プレゼントをあげてだんだぞ!」
「オイラ……こんなのもらえないよ」
爺さんの邪魔して、イタズラばかりしてたのに……。
「ホッホッホ。お前さんのイタズラは愉快じゃったのう! 毎年楽しませてもらったわい」
なんだよ、爺さん、気づいてたのか。オイラはバツが悪くなって、黒いぼうしを、はなの先までギュッとひっぱった。
照れくさくて、なかなか顔を出せなくなって、ちょっと途方にくれてしまった。
そうしたら……。
オイラの黒い袋から、ポップコーンが弾けるみたいな音がして『ポポーン!』って、何かが飛び出した
『ミーナが大好き』
『パパとママが大好き』
キラキラ光って、ポカポカと暖かいその気持ちは、クルクル回ってオイラの胸に吸い込まれた。
「やっと大切なことを、思い出したようじゃな。さてさて……」
爺さんがマジシャンみたいな手つきで、もったいぶって袋から出した手紙を、オイラに差し出した。