第四話 クリスマスなんて大嫌い!
オイラは必死で布団を引っ張った。
オイラのせいだ!オイラが乱暴に乗りこえたから、柵が外れちゃったんだ!!
ふにゃふにゃで柔らかいミーナ。まだ首がぐらぐらしている、頼りなくてきっとひとりじゃ生きていられない。
「ママの代わりに、オイラがちゃんと守ろうと思ったのに……!」
ミーナは、オイラの手をすり抜けて、ズルズルとベッドから落ちてしまった。
それだけじゃない。オイラの爪は、ミーナのふにゃふにゃのほっぺに、赤いひっかきキズを作ってしまったんだ。
見る見るうちに傷口のはしっこに、真っ赤な血の玉ができる。赤い玉がポトリと落ちるのと同時に、ミーナがはじけるように泣きはじめた。
「どうしよう! ミーナを泣かせちゃった‼︎」
ミーナがベビーベッドから落ちたのも、ほっぺにひっかき傷を作っているのも、顔を真っ赤にして泣いているのも……!
一から十まで、全部オイラのせいだ。もう、どうしたらいいかわからないよ!
「ごめん! ごめんよミーナ! オイラお兄ちゃんなのに……!」
ママに『お願いね』って、はじめて頼まれたのに!
ミーナに抱きついて、オイラも一緒に大声で泣いた。ママ、早く帰って来てよぉ。オイラじゃミーナを泣き止ませてあげられない。
オイラとミーナでわんわん泣いていると、ママが帰って来た音がした。玄関の開くガチャンって音と『ただいま~』って声を聞いたら、オイラは急に怖くなった。
早く帰って来て、ミーナを抱き上げて欲しかったはずなのに、叱られるのが怖くなったんだ。
叱られる……ママに嫌われちゃう!!
そう思ったら、頭の中がカラッポになってしまった。
オイラは、ミーナの泣き声に慌てているママの横をすり抜けて。
少し開いていたドアの隙間から、走って外に逃げ出した。
走りだしたら、もう振り向くことも立ち止まることも出来なくなって、ママがオイラを呼ぶ声が、聞こえなくなるまで走った。
そうして……気がつくと、取りこわし中の教会の前にいた。
長い階段を一番上までのぼって、クリスマスイブの街を見下ろす。
いつのまにか雨が降り出していた。
冷たい雨で、街の灯りがぼんやりとかすんで見える。
キラキラ光ってキレイだけれど。
オイラには、こわれて捨てられちゃった、おもちゃみたいに見えた。
日が暮れて、雨がだんだんと強くなって、気温もどんどん下がっていく。
真っ暗な教会のテーブルの下で、オイラの吐く息だけが白かった。
今日はこんな天気じゃ、サンタさんは大変だな。
サンタさん、ミーナのところにちゃんとプレゼント、届けてくれるかな?
ちっちゃいからって、忘れられたらかわいそうだ。
オイラのところには……。
オイラは悪い子だから、きっとサンタさんは来てくれない。
だってほら……。悪い子だから、ママだって迎えに来てくれないんだ。
あんなに痛いことをしちゃったから、ミーナもオイラの顔を見たら、怖がって泣くかも知れないなぁ。
良い子は今頃はみんな、ごちそうとケーキを食べて、暖かい部屋で楽しく過ごしているんだろうな。
こんなボロボロの教会で震えているのは、オイラが悪い子だからだ。
ああ、はらへったなぁ。寒いなぁ。
クリスマスなんて、なくなっちゃえばいいのにな。
誰も彼も、浮かれて騒いで……楽しく過ごさないと損だとでも、思っているの?
幸せの、比べっこをしたいの?
幸せな良い子だけが楽しい日なんて、そんなの不公平だよ。
みんな少しは困ればいい。少しくらい困ったって、どうせ幸せなんだろう?
クリスマスなんて、大嫌いだ!!
ねじくれて、ひねくれて、黒い気持ちがむくむく湧いて来て……止まらなくなった。
そして、オイラは黒サンタになった。