第三話 イブの日のおるすばん
あの日は……ミーナが生まれて、初めてのクリスマス・イブだった。ママは朝から大忙しで、たくさんのごちそうを作っていた。
おいしそうな、いい匂い! ピカピカ光るクリスマスツリー。すごく楽しいことがはじまりそうで、ワクワクとソワソワが、代わりばんこにやってくる!
オイラは、なんだかじっとしていられなくて、ママの後ろをついて歩いたり、サンタさんが来ていないか、玄関と煙突を何度も見に行ったりしていた。
そうして、夕方近くになった時、ママがオイラに留守番を頼んだんだ。
「よく寝てるから起きないと思うけど、ミーナをお願いね? マーケットでミルクを買って来るだけだから、五分くらいで帰って来るから!」
ママが、オイラの頭をなでながら言った。
任せてよ! オイラ、ミーナのお兄ちゃんだもん。お留守番なんて朝めし前だ!
玄関でママを見送ってから、オイラは走ってミーナのいる部屋に戻った。
ミーナと一緒の、初めてのお留守番だ!
ちゃんとやり遂げたら、ママは『さすがお兄ちゃんね』って言ってくれるかなぁ!
「悪いやつが来たら、パンチとキックだ!」
それともガブリって、噛みついたほうが良いかな?
ベビーベッドの周りを、ぐるぐる見まわりして歩く。ミーナは両手を耳の横で握って、くーかくーかと眠っている。時々思い出したみたいに、おしゃぶりにちゅくちゅくと吸いつく。
うん! いつも通りで、問題なし。
「ミーナ、大丈夫だよ。ママがいなくても、オイラがいるから、安心してね!」
キッチンと、リビングの見まわりをする。タンスの後ろも、テーブルの下も全部見て歩く。
「よし、悪いやつはいない。これでひと安心だ!」
家中を見まわりして歩いて、オイラはミーナの寝ている部屋へと戻った。ベビーベッドの柵を乗り越えて、ミーナのとなりに座る。
甘いミルクと、洗いたてのタオルのにおい。こもった汗と、髪の毛のにおい。天井でゆっくりと回る、小鳥のついたオルゴールメリー。
ほっぺをツンツンとつついてみる。
ミーナのふにゃふにゃのほっぺをつつくのは、とっても気持ちがいいんだ。
「うーん、全然起きないや。目、開かないかなぁ」
ミーナは寝てると猿みたいだけど、起きてる時はすごく可愛いんだぞ!
まあ、起きてたって『あだー』とか『あぶー』とか、言うだけなんだけどな! でも時々、オイラの顔をじーっと見つめて、ふにゃふにゃって笑うんだ。
もう、ほっぺにかぶりつきたくなっちゃう。
やらないよ? だってミーナは、オイラのお姫さまだもん!
オイラはベビーベッドの中で、ミーナのほっぺをぷにぷにしたり、頭のうぶ毛をはな息でゆらしたりしていた。少しでもミーナの近くにいたかったし、他にすることもなかったからな。
でもそれが、いけなかったんだ。
『ガタガタ! ガコーン‼︎』
突然ベッドの柵が、大きな音を立てて外れて、まだ寝返りも打てないミーナの身体が、ズルズルと動きだす。落ちたベッドの柵に、クマのもようの布団が引っかかってる。
「大変だ! 布団と一緒に、ミーナが落っこちちゃう‼︎」