家の裏の大きな木
とりあえず最後の短編小説です。よろしくお願いいたします。
ある家から一人の少年が飛び出していった。ノースリーブの白い服を着て、買いたての短パンを拵え、肩には水筒と虫かごを、片手にはキレイな緑色をした虫かごを掴んで振り回すように走っていった。見渡す限りの田んぼの中、少年は駆け回っていた。母親が渡してきた帽子をそのまま玄関に置いていったのを少しだけ残念に思っていそうに顔をしかめていた。
山は村長の私有地であった。最初ここに入ることは許されず、それでも何度も進入した。そして、進入した回数と少し少ない回数だけ怒られもした。この諦めの悪いガキに対してついに村長は根負けし、ここに入ろうとするのはお前だけだぞ、と言って侵入の許可が下りたのだった。それ以降、勿論それ以前も、少年は毎日のように山へ来ていた。特に珍しい虫がいるわけでもないが、いつも少年は虫取り道具を拵えて山中を駆け回った。散々駆け回ったのち、少年は山の頂上付近に向かった。そこには1本の大きな木があった。
もう何年になるだろうか。200年とはいかないが100年は超えるほどに生えているような気がする。山の頂上から少し下ったところにその木が生えている。少年はいつもここに来るのだった。ここにきて何をするわけでもなく、ただその木を見上げることがほとんだだった。今日も同じように少年は木を見上げていた。
そのまま10分ほどすると、少年はまた山中を駆け回り、そのまま家に帰っていった。今日は夕焼けがとても赤い日だった。ああ、思い出した。今日で170年になるのだった。明日も彼は来るだろうか。時代が移り行こうとも、ずっとここで待っている。10年後も20年後も今日のように。