年上の喫茶店マスターに、おいしく頂かれる(1200字)
いらっしゃい。
今日も来てくれたんですね。
ありがとうございます。
いつもの席、あいてますよ。
今日はどうしますか?
ブレンド? アメリカン?
はい、分かりました。
ブレンドですね。
うちのって、けっこう深煎りだから、いつも苦いと思うんだけど
ほんと大丈夫?
え? すっきりしておいしい?
いやぁ、嬉しいな。
最近は、うちみたいな店の味は人気がないと思ってたから、
そんな風に言ってもらえるのは、すごくありがたいですね。
今日は何か、サービスしましょうかね(笑)
何でも言って下さい。
できるかぎりサービスしますよ?
えっと、この原稿用紙は……ひょっとして、
あなたが書いたお話ですか?
もしかして、ぼくが昔、作家をしてたって知ってるの?
あ、そうだったんだ(照)
恥ずかしいなぁ。
そうだったら、もっと早く教えて下さいよ。
それで、えっと、あなたのお話を、ぼくが読むんですか?
いいですよ。
ぼく、お話読むの好きなので。
ちょうど他にお客さんもいないし、今、読ませてもらってもいいのかな?
じゃあ、読ませて頂きますね。
( 間 5~10秒くらい)
えっと、お待たせしちゃったかな?
ごめんね、ぼく読むの遅いから、だいぶ待ったでしょ。
すごく素敵なお話でしたよ。
あなたぐらいの年齢で、これだけ書けるのって、ほんとすごいですね。
え、アドバイスが欲しい?
あの、ぼくが作家をしていたのは、もうすごい昔の話ですから、
そんな、アドバイスみたいなのは、今はできないですよ(苦笑)
本もあまり売れませんでしたし。
どうしよう、困ったなー。
ほんとに、ちょっとした感想みたいなのなら、まぁ、言えるかな?
それでもいいですか?
そーですねぇ……、ぼくはあなたの書いたお話、どれも好きですよ。
悲しい終わり方をするお話も多いですけど、
登場人物に対する優しさがすごく伝わってきて。
ぼくは本を読むのは好きですから、
今までいろんなお話を読んできましたが、
こういう思いやりのあるお話を読んでいると、
心があたたかくなって、すごく落ち着くんですよね。
きっとあなたの人柄が、物語にも出ているんでしょうね。
どの話が、一番好きだったか、ですか?
そーですね、一番最後の、恋愛ものですかね。
年齢差のある恋愛ものって、あまり読んだことなかったんですけど、すごく素敵でしたよ。
障害があるほど、愛は盛り上がるという言葉もありますしね。
苦難を協力して乗り越えるカップルは、美しいものだと思います。
あの、……間違っていたら、すみませんね。
このお話に出てくる男女なんですが、
ひょっとして、ぼくたちのことをモデルにしていますか?
……えっと、黙ってるってことは、そういうことのなのかな?
顔、赤いですよ?
ぼくみたいな年上のおじさんでも、いいのかい?
目、とじて。
(キス音)