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予選

「いってきます!」


アイとともにロッテに手を振りロイは大会へ向かった。予選は参加者が多いので早朝から始まる。


アイに街や大会の説明をしてもらいながらロイは少しワクワクしてくる自分に気づいた。ジークたちとパーティーを組み、前線都市近くまで来たのはつい最近のことだった。こっちの方のことはまだ知らないことだらけだ。


そういえばジークはこの大会のことを知らないのだろうか。名誉が得られるこのような大会はジークなら喜んで参加しそうなものだが、逆に名を汚す可能性もある。つまりこの大会はそれだけの猛者が集まるということなのだろう。単なるお祭りではない。


受付を済ませたロイはさっそく腰に青い風船をくくりつけられ大広間に案内された。つまりこの風船を割られると負けということだ。後ろでアイが「がんばって!」と叫ぶ。


ロイはそこに集まっている人数を見て驚いた。有に百人は越えている。この中で生き残るなんてこと、自分にできるのだろうか。


まわりを眺めているうちに始まりの鐘が鳴った。そのときロイは見物の人混みの中に白いフードをかぶった人物を見かけた。


「あ!」


ロイがそういった時、アイが「危ない!」と叫んだ。よそ見していたロイの背後から風船を狙い剣が振り下ろされる。


しかしロイはこの程度の相手なら気で完璧に動きを把握しているので振り返りもせず風船の紐を引き寄せかわした。


そして大ぶりをしてバランスを崩した相手の風船をデコピンで割った。


それからようやく剣を構えたロイは素早い動きで周囲の風船を次々に割っていく。予選に出るような冒険者の中には乱戦の中で周囲に気を配れるような達人はロイくらいであった。気が逸れている相手を狙いロイはどんどん風船を減らしていく。


それが正攻法だとロイは思っていた。しかし他の冒険者からするとロイのやっていることは卑怯だと思われた。そしてロイが気がつくと、予選参加者たちは徒党を組み、ロイひとりを囲っているのだった。


円の中でロイは周囲を見回していた。しまったな、と思った。まだ自分の能力が把握できておらず、それを試しているうちに目立ちすぎたようだと思った。


ロイを囲む円が徐々に狭まる。そこでロイは面白いことを思いついた。あの魔法を使ってみるか。


「今だ!」


指揮をとっているらしい誰かの声でいっせいにロイへ向けて冒険者たちが押し寄せる。しかしロイはあえてその中に留まった。


「あれ?」


そして、変化の魔法を使い、姿を変えてしまった。そして冒険者たちに紛れ、目の前の青い風船をつけた男を指差して「こいつがさっきのやつだ!」と叫んだ。ロイ自身の風船は赤色に変わっていた。


指さされた男は「は?」と言ったがあっという間に襲われた。しかしやられてから「俺じゃねえよ!」と叫んだので冒険者たちは疑心暗鬼になり、青い風船をつけている相手をとにかく襲い始めた。


そしていつしか残っているのは二人になっていた。もとに戻ったロイと、育ちの良さそうな小柄で金髪の男だった。


「せっかくだし名乗りましょうか。私はヒューイ。昨日この大会に出るために冒険者登録をしたばかりです。歳は15」


「僕はロイ。歳は同じく」


「へえ。同世代でこんなに動ける人がいるとは思わなかったな」


「冒険者の中ではこれくらい普通さ」


「なるほど、冒険者もなかなかおもしろそうですね。では、そろそろ決着を着けますか」


そういって、ヒューイは距離をとったまま居合の構えをした。面白い、ロイは思った。飛び込んでやろうじゃないか。その時、ヒューイが笑った。そして目にも止まらない速さで居合抜きをした。しかしロイはまだ間合いの外だ。


その瞬間、ヒューイの斬撃が衝撃波のようにロイへ向かってきた。ロイは一瞬反応が遅れ回避が間に合わない。風船をちらりと見て、ならばと剣に気を集中させる。そしてロングソードを振り下ろした。


ロイの剣からもまた斬撃が飛び出した。二人の間でヒューイが放った横の斬撃とロイの放った縦の斬撃がぶつかり合い十字の衝撃が周囲に広がる。観客が悲鳴を上げる。


砂埃が舞い、二人の姿を隠した。


そしてやがてシルエットが浮かび上がった。


ロイは、短くなった風船の紐を握っていた。ヒューイの斬撃で切られたのだった。頬には横に線が引かれツーと血が流れた。


ヒューイは無傷だった。


しかし彼は自分のすぐ右側の地面に刻まれた斬撃を見つめ、そして肩をすくめた。


「君の勝ちだね」


そういうと、自分で風船を割った。


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