スポンサーの想い
翌朝、ロイはまだ外が薄暗いうちに目覚めた。その一室はおそらくアイの父親の部屋だったのだろう。この親子は父のことを昨日何も話さなかった。話さないことをロイもわざわざ尋ねはしない。みんなが少なからずそれぞれの傷を抱えて生きている時代だ。ロッテの男勝りな感じはアイの父親も兼ねているからなのだろうと想像した。
今更ながら、ロイは今までパーティーに置いてくれたジークに感謝の気持ちが湧いてきた。寂れた田舎町のみなしご同士だった二人。失くなった町に未練は何もない。しかしそれは、ずっと隣にジークがいてくれたおかげだった。彼がいなければ自分なんてとっくの昔に死んでいただろう、とロイは思った。
だからあんな形でジークと別れてしまったことが悲しかった。自分がもっと強ければ、ジークとどこまでも行ける気がしていた。
ふと、何か音が聞こえたような気がした。耳を澄ますと、金属がぶつかる音が、規則的に聞こえてきた。ロイはそっと部屋を抜け出し、音が聞こえてくる方へ歩いた。
その音はは畑の向こう側にある工房から聞こえてくるようだった。中を覗くと熱気が顔を覆った。
「あら、起こしちまったかい?」
「いえ。それよりもしかして、それは僕の剣ですか?」
ロイは目を丸くしてそれを見つめた。ロッテは汗だくの顔に笑みを浮かべ頷く。
「ああよ。あんたみたいなのを見るといてもたってもいられなくてね。どうだい、ふれそうかい?」
それは剣と呼ぶにはあまりにも大きかった。龍を落とす巨人の武器、ドラゴンスレイヤーと呼べる大きさだ。
「あんたのリクエスト通り、できる限り大きなものにしようと思うと、いてもたってもいられなくてね」
「そんな、無理しなくても、あるものでいいんですよ」
それは確かにロイの注文だった。今まで自分には重すぎる剣をふるっていたロイには、ロングソードは軽すぎたのだ。
「そんなわけにはいくまい。うちはそれなりに自分の見立てに自信を持ってる。あんたはこれからすごいことをするよ。傾きかけてるうちの工房の看板になってもらわなけりゃいけないんだからね。これをあんたが振回せたら、たいした宣伝になるだろうさ」
ロイは自分がこれから背負うものを実感し拳を握った。今日は剣術大会の予選がある。無様な姿は見せられない。
「ありがとうございます。必ず使いこなしてみせます」
満足そうに頷いたロッテはそれからまた集中して鎚を振り始めた。ロイはその音を聞きながら日課の筋トレを日が昇るまで続けたのだった。