剣術大会
翌朝、近くを通る馬車の音でロイは目を覚ました。実はパーティーの金の管理はジークがおこなっていたので、脱退に際し、自尊心を満たすことで精一杯のジークはロイに金を渡すというような配慮を忘れていたのだ。
当のロイもショックで金のことなど忘れており、街についたところで手持ちの金が2000ギルほどしかないことに気がついたのだった。それで仕方なくロイは木の上で眠るという芸当を誰に見せるでもなくやってのけた。
初めてくる街だった。前線付近にしては随分と賑わっている。いや、前線より一歩下がっているこのあたりだからこそこの賑わいなのだろう。有能な冒険者たちからの供給と安全性が丁度よい立地であった。
ロイは人混みに酔いながらやっとのことで冒険者ギルドにたどり着いた。その手には束になったチラシを持たされていた。
「あら、見ない顔ね」
「こんにちは、賑やかな街ですね」
「そうでしょう。特にこの時期は特別よ。明日は剣術大会があるからね」
それはロイも先程チラシをもらっていた。おそらく5枚はもたされている。
「それって誰でも参加できるんですか?」
「冒険者なら誰でもね。あんたも出てみるかい?」
受付のおばさんは冗談風にそう言ったが、実力を試したいロイは大きくうなずいた。
「お願いしたいのですが、参加費とかいるんですか?」
「ちょっとあんた本気かい?この大会には毎年前線で戦ってる本物の冒険者たちが出るんだよ?」
そう言いながらも書類を用意するおばさんはさすがベテランといったところだった。参加費は2000ギル。あるにはあるが、今朝はまだ何も食べていない。
「あの、先に素材の買取をお願いしたいんですけど」
「あいよ。まずライセンスカード出してくれるかい」
ロイのライセンスカードを受け取るとおばさんは眉をしかめた。
「ロイっていうのかい、あんたFランクじゃないか。そうすると乱戦の予選大会から出ることになるし、万が一の怪我の保障もないんだけども」
「大丈夫です。素材はここに出せばいいですか?」
ロイはマジックバッグから昨夜倒した魔物の素材を取り出して並べた。そのバッグは荷物持ちをさせられていたロイが、ジークたちのパーティーから唯一持ち出してきたものだった。ただそれは返しそびれたというだけなのだが。
その素材を見たおばさんは目を丸くした。Fランクの冒険者には手が出せない魔物ばかりだったのだ。
「ロイ、あんたほんとにFランクなのかい?」
「そうですよ」
おばさんは少し考えてからリーナだと名乗り、ロイに顔を近づけた。
「あんた、まだ他のギルドに顔出してないかい?」
慄きつつロイは頷く。するとリーナは満面の笑みを浮かべた。
「ならこの街にいる間、あんたの素材を全部ここへ持ってきてくれたら相場より色つけて買い取らせてもらうよ」
そしてリーナはウインクした。ロイは心底ゾッとした。