恐れ
「あいつ今頃死んでんじゃねーかな」
ゴンザレスが真っ赤な顔で笑った。
「ありえるわね。さっきウォーウルフの鳴き声がきこえたし」
アリスも一緒になって笑う。金色の髪が乳房の上を流れていく様は男なら誰でも目を背けられないものだった。
ジークはひとり難しい顔をしていた。彼は、そうなってくれればいいと思っていた。ウォーウルフに、食い殺されてくれ、と。
パーティーリーダーであるジークだけが、ロイの強さを知っていた。ジークは本来パーティー全員に配分されるはずの戦闘経験値を、ロイにふられる分すべて自分に割り振っていた。だからロイはすぐにジークたちの戦いに着いてこれなくなるはずだった。
ジークは昔から、自分にくっついてくるくせに自分より何もかも優れているロイにコンプレックスを抱いていた。だから経験値を持っていないロイには装備できない武器を使いこなし、ロイがついてこれない戦いに挑み続けた。
しかしロイは、どんなにしょぼい武器を使っていても、ジークたちの戦いについてきた。確かにあいつは戦力だった、とジークは思った。この先、あいつの分析力なしに、俺たちは前線でやっていけるのだろうか。
ジークは怖かった。一人になったロイが、経験値を得て、すぐに自分を追い越してしまうことが。3年。3年ロイの経験値を奪い続けた。もう追いつかれることはないはずだ。しかし、ロイなら。
それは期待ではなく、恐れなのだ。大人しく死んでくれ、ロイ。そう思いながら、ジークはグラスを飲み干した。
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その頃ロイは崖から飛び降りていた。そして着地の体勢も取らなかった。
地面に横たわったまま砂埃を見上げ、無傷な自分を確かめる。
ステータスバーを確認すると、外皮が3分の1ほど減っていた。それだけだ。なんの痛みもなく、怪我もない。不思議だった。ウォーウルフ一匹倒しただけでここまで変わるのか。わけがわからない。
そのまま走り出す。全力で走っても、意識して外皮を消費させることでなんの疲れもなくスピードを維持できる。こんな特殊能力を、みんながみんな使っていたのだろうか。
自分の力を試したくて仕方なかった。しかし今夜はたいした魔物に出会わなかった。気がつけば隣町の明かりが見えた。自分は、一人のほうが能力を発揮するタイプなのだろうか。それってちょっと、寂しくないか?とロイは思うのだった。