ひとりの戦い
周囲に気を配りながら夜の街道を歩く。それは意地みたいなものだった。本来魔族の力が高まる夜に街の外へ出るのは冒険者として避けるべきことだ。
もしこれで僕がモンスターに襲われて死んでしまったら、ジークたちはどう思うだろう、とロイは考えた。
高笑いが聞こえたような気がして、もう彼らのことを考えるのはよそうと思った。
その時、首筋に尖った視線を感じた。素早く剣を抜き、闇の中の気配を探る。
ここは前線都市にも近く、街からそう離れない場所に高位のモンスターが出ることもあるのだった。
ロイが追い出されたのはそれなりに名を馳せた冒険者パーティーなのだ。彼らがどう思っていたかはわからないが、ロイはそのパーティーの中で敵の弱点を探り、戦闘がこちらに有利に運ぶように立ち回っていた。今までうまく出来ていたのだ。だから一人になったからといってそれができないはずがない。
ただ、一つだけ不安があった。それは攻撃力の低さだ。相手の弱点をつき苛立たせたり弱らせたりはできる。しかしロイには致命傷を与える攻撃力がなかった。
森の影に黄金の目が光っているのが見えた。
この辺りにいるあのサイズの魔物。おそらくウォーウルフで間違いないだろう。ウォーウルフは群れをなさない。何故なら、単独で狩りをするだけの力があるからだ。魔物ランクはB。そしてロイの冒険者ランクは、最底辺のFだった。
気配を気づかれたことに、向こうも気づいたようだ。それなら正面からいこうか、とでも言うようにウォーウルフは空へ向かって吠えた。殺意が体中にビリビリと伝わってくる。ロイはこの感覚が、実は好きなのだった。
一瞬で間合いを詰めたウォーウルフの鉤爪をロングソードで受け流しかわす。
着地した狼は意外だというようにロイの方を向いて頭を振る。ヨダレが滴っていた。
ウォーウルフにはこれといった弱点がない。しいて言うならばその攻撃力に対して防御力の低さだろうか。しかし素早い動きで一瞬で噛み殺すのであまり関係ないのだろう。彼は常に蹂躙する側に立っている。だから、ロイはウォーウルフと相性がいいのだ。
円を描くように間合いを測り合う。ロイは剣を上段に構え、息を止める。肌が空気の揺れを感じるほどの集中。1つ間違えば、その先は死。
そして、ウォーウルフが動いた。ジグザグに変化をつけ間合いを詰めてくる。残像により群れに襲われているような錯覚に陥る。しかしロイには恵まれた目があった。
力はいらない。ただそこへ置いてくるだけだ。ロイはウォーウルフの動きを完全に読み切り、その動きの先に剣先を合わせた。衝撃。毎日鍛えている足腰で耐える。
肩にのったウォーウルフの口から大量の血が吹き出し、そして、その体から力が抜けた。
ロングソードはウォーウルフの突進力により、その心臓を貫いていた。
大きく息を吐き出す。身に余る重みの大剣を扱っている腕が限界だった。ロイは戦闘でそう何度も剣を振れない。だから常に全力で当たらなければならない。
それにしても相手がウォーウルフだったのは幸運だった。ロイ一人で倒せる魔物はこの辺りにそうそういない。
その瞬間、突然ロングソードの重みが消えた。は?と思わず声に出すほど、ロイはその剣を軽々と扱えるようになっていた。それも片手でだ。
何が起こった?慌ててステータスメニューを開くと、驚いたことに、3年間微動だにしなかった数値が、変わっていた。それも、桁が3つも上がっていたのだ。