脱退
酒場を出ると日はもう暮れていた。星は見えなかった。異国の街でひとりぼっち。それは随分と久しぶりのことだった。
路地裏でしゃがみこみ、自分のステータスメニューを開く。思わずため息が出る。
ロイという名前の下には町を出た12歳のころから何も変わらない数値が並んでいた。どうしてなのだろう。あれから3年、いくつもの戦いをくぐり抜けてきた。Bクラスの魔物とだって渡り合った。腰の剣は何本目の相方かわからない。日々鍛錬を絶やさなかった。それでも、何も変わらなかった。
才能、なのだろうか。どれだけ鍛えても、高品質な武器はロイには重くて持てなかった。単純な力比べならジークにだって負けはしないのに、どうしてかロイだけは初期装備しか手になじまない。
今の剣だって、本当はあまりに重くてうまく扱えないのだった。それでも仲間への見栄や、初期装備の剣はすぐに壊れてしまうことを申し訳なく思い、自分の筋力では使いづらいロングソードを意地で振り回しているのだ。
ステータスにまだパーティーの表示があった。思わず笑ってしまう。リーダー権限で除外してくれなかったんだ。ロイはあくまでも自分の意志でパーティーを去ったことになるわけだ。
脱退にタッチする。するとすぐに承認の返事がきた。笑い声が聞こえたような気がした。
しばらく暗闇の中で蹲っていたが、いつまでもこうしてはいられない。幸い冒険者の心得として荷物は全て持ち歩いている。宿代は、返してくれないだろうからもういいか。
これからひとりでやっていかなければならない。できるのだろうか。けれど、帰る町はもう瘴気に覆われてなくなった。頼れるのは、この3年で培った剣の腕だけだ。
とにかくこの街を離れたいと思い、ロイは門をくぐり夜の闇へ歩きだした。
 




