駆け引き
終わった。横一閃。しかしクレストの大剣に手ごたえはない。予想していた衝撃がなく、体が泳ぐ。クレストはただ、ロイの振り下ろす剣を見つめることしかできなかった。唖然と。
首元に突き付けられた剣。無言でにらみ合うふたり。やがてクレストがふっと笑い、負けを宣言した。息をするのも忘れていた観客から歓声があがる。
クレストは肩をすくめ、手を差し出した。ロイが握ると、ぐっと引き寄せられた。
「このやろう、だましてやがったな」
「へへ」
ふたりはぎりぎりのところで剣劇を演じていた。しかし最後の一瞬、捉えたと思ったクレストの剣は空をきった。それはロイの動きがこれまでの戦いの中でお互いに把握しあった速度をはるかに越えていたからだった。お互い限界のところでしのぎを削っていたとクレストは思っていた。しかしロイにはさらにひとつ上があったのだ。その一瞬、ロイはクレストの想像を越えた。それがふたりの勝敗を決したのだった。
「なめやがって」
ロイはクレストをなめてなどいなかった。あの対応力、適応力があれば、ロイの最後の速度にだってクレストは慣れてしまうのだろうと思った。だからこそ、誤認させる必要があったのだ。そして、クレストもそれをわかっていた。
「アニキー」
肩を組むふたりが振り返ると昨日ロイにおとりにされた男がかけよってきた。
「おう、ノブオ。すまん、負けた」
「おつかれさまでっす!かっこよかったっす!」
「あ、あの」
ロイはおろおろとノブオに話しかける。
「昨日はすみませんでした!」
「そんな、あやまらないでいいっす!ルール内ですし、まず徒党を組んだ俺たちも俺たちだったっす。それにこの勝負でたんまりもうけさせてもらったっすからね」
「は?ノブオおまえ俺が負けるほうに賭けてたのか?」
「お、おいらは多く儲かるほうに賭けてただけっす!アニキいつも迷ったら面白そうなほうを選べっていってるじゃないっすか!」
ノブオが首根っこをもたれ連れていかれるのを苦笑しながら見つめているとアイが「おつかれさまです!」とスイカジュースを持ってきてくれた。
「おめでとうございます、かっこよかったです!」
「ありがとう。でも初戦でこれだと、優勝はきついだろうなあ」
「そんなことないです!」
アイの励ましとともに泊めてもらっている家に帰るふたり。その背中を見つめるものがいることに、激戦で気が抜けていたロイは気が付けなかった。




