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本物

深く息を吐きだし、ロイは集中を取り戻す。体が分断されるかのような衝撃から立ち直る。そうしなければ、生き残れない。久しぶりの感覚に高揚している自分を感じた。


「今のは……」


「ああ、あんたのパクリだよ」


「そういうスキルですか?」


「いや、これはただの特技さ。昔から器用でね、見よう見まねでなんとかなるのさ」


ロイは笑った。油断していた。Aランクいっても、なり立てとベテランとでは大きな差がある。実力まで本物のAランク冒険者と出会ったのは初めてかもしれない。ヒューイに謝ることになるかも。ロイはそう思った。初戦で負けちゃ、怒るだろうな。だから、できる限りのことをしよう。


ロイは体の力を抜いた。ウォーウルフを倒してから、扱いきれない力に慣れるため、力任せの戦いをしてきた。それは本来の戦い方ではなかった。基本に立ち返ろう。自分の剣術に。


ロイの剣術。それはつまり、相手を「視る」ことだった。視線、呼吸、癖、相手から得られる情報を最大限活用し、コンマ数秒先の未来をよむ。そして相手を誘導する。自分が戦いやすい方へ。そうやって、サイクロプスともわたりあった。


クレストの一挙手一投足を見逃さない。意識が研ぎ澄まされる。観客の声が遠のく。必要な環境変数をしぼる。クレストの視線。指の握り。重心の移動。クレストは何かを感じたのか、下唇をなめ気迫を高めた。くる。


今までとは段違いの速さ。クレストはまだ力をセーブしていたのだ。しかしロイは鞭のようにしなる信じられないような大剣による斬撃に対し、ロングソードを軽くあて軌道を修正することでいなしていく。突然の高レベルな戦いに観客は静まり返る。ほとんどのものが何が行われているのか見えなかった。


ひりひりとした感覚が近づいてくる。少しずつロイは傷を負う。薄く切れた頬から血がツーっと流れる。気持ちよかった。ふたりだけの世界。ずっとこのまま続けたい。そんなことまで思う自分はいかれているのだろうか。ロイは笑った。クレストも、笑っていた。しかし終わりはやってくる。


軽くあてていなしていた剣が強くぶつかり、ロイの剣が跳ね上がる。クレストはその隙を逃さない。

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