ヒューイの呼び出し
「おめでとうございます!」
自分以上に喜ぶアイに苦笑しながらロイはヒューイを探していた。すると黒服の執事に肩を叩かれた。
「ロイ様ですね。見事な戦いでした。ヒューイ様がお待ちです。こちらにお越しください」
やっぱりどこかの貴族なのか、と思いながらロイは頷いた。アイはどこか疑わしそうな目で見ていたが料理の準備ができているという言葉を聞くと当たり前のようについてきた。大人しそうな顔をしているがちゃっかりしている。
しかし貴族がどうして冒険者などを目指すのだろう。兄弟が上に何人もいて、末っ子の道楽みたいなものなのだろうか。それにしては斬撃を飛ばしたりとかなりの腕前だった。貴族というのはみんなそんなものなのだろうか。世界はまだまだ広い。
「やあ、すまないね」
ヒューイの手を握ってロイは笑った。
「なんだよその格好」
「うるさいよ」
先ほどの冒険者らしい軽装とは違い、ヒューイはタキシードに身を包んでいた。
「こんな格好で大会に出たらやっかまれるだけだろう?それよりも話があるんだ。まあ座りなよ。そっちのお嬢さんも」
ヒューイにウインクされアイが赤面しているのを見てロイはなんとなくむっとした。しかし目の前の凶悪な匂いには逆らえなかった。
「すごいなこの料理」
昨日のロッテの料理もうまかったが、こちらは見るからに高級食材といった感じのものがプロの手で美しく調理され盛り付けられている。それを見て、尚更ヒューイは冒険者に向いてないなと思った。
「君のために特別に作ってもらったんだ。さっきからこんなので冒険者としてやっていけるのかというような顔をしているね。そもそも、私には冒険者になる理由があるんだ」
「理由?」
「ああ。しかしそれを言うのはもう少し仲良くなってからにしよう。とにかく君は候補のひとりなんだ。この僕を相手にあそこまで戦える冒険者はなかなかいないだろう。だから明日は必ず優勝してくれたまえ」
「ちょっとまって、何の話かわかんないし、どうして君にそんなこと言われなきゃいけないんだ」
「君が負けたら僕が弱く見えるだろう!」
顔を真っ赤にしてそう言うヒューイを見て、ロイは思わず笑ってしまった。自分の都合ばかり話す貴族らしい貴族だが、そんなに悪いやつではないのかもしれない。隣でアイも堪えきれなかったのか、思わず空咳を漏らしていた。
そして剣術や魔法、これまでの冒険の話をしながら、ロイは「どうして呼ばれたんだ?」と改めて思った。実際、ヒューイはどうしてこのロイという少年に自分が興味を持っているのか、まだよくわかっていなかった。
その頃、ロイたちがいる街、ブレッシングタウンの上空には黒い雲が集まり始めていた。




