背中で乾杯
おまえはクビだ、とジークは言った。
どこかで聞いたことのあるセリフだった。そうだ、先週この酒場でメガネをかけた小柄な男がそう言われているのを見た。その時と同じように、誰もこちらを振り向いたりしなかった。みんな聞こえているくせに。
その時のジークたちもわざとグラスをぶつけ合い、何も聞こえなかったようにふるまっていた。酒場の騒がしさが全て僕を責めているようだ、とロイは思った。せっかく楽しく過ごしているのに無能のせいで気分が台無しだ、とか思われているのではないか。
「どうしてそんな急に」
「別に急じゃねーよ。ずっと思ってたんだ。なあお前ら」
ジークが話をふると魔法使いのアリスや盾役のゴンザレスは面倒くさそうに頷いた。
「だってあんたどんな雑魚の攻撃でも一撃で外皮削られんじゃん。それに雑魚くてまともな武器持てないから初心者用の装備壊してばっかでいくつも予備持ってって無駄が多いのよ。はっきりいってお荷物。戦力外。当然でしょ?」
「僕だって戦力になれてたと思ってたんだけど。この前の邪眼蛇だって僕が目をつぶしたから楽に……」
「お前みたいに弱点ついて小細工しなくても俺たちは力で押し切れるんだよ」
ゴンザレスは冷たく言い放つとエールの追加を大声で叫んだ。数は三つ。つまりそれが届くまでに出ていけということだろう。ロイはジークを振り向いた。
「僕が君の幼馴染だから今までおいてくれてたんだね」
「さすが、物分りがいいな。しかし俺たちの子供時代ももう終わりだ。俺たちはこれから前線都市を目指す。これが俺からの最後の優しさなんだよ。幼馴染をみすみす殺したくねえからな」
「わかったよ。今までありがとう」
「新聞読んでせいぜい自慢しな」
アリスの言葉を最後にロイは背を向けた。背後でグラスをうちならす音が聞こえたがもうロイには関係のない世界だった。