兄からの手紙
私は小学生のとき、両親と兄を戦争で亡くし、叔父さんの家で育てられました。
東京大空襲の時に両親が亡くなり、兄と二人きりになり、兄が特攻隊に入ったので一人残された私は叔父さんの家に預けられたのです。
あれは昭和20年の五月。兄から手紙がありました。
「千恵子ちゃん、元気ですか。いよいよお別れです。俺は今からひこうきに乗って沖なわの海に散ります。
おじさんはいい人だから、兄ちゃんは千恵のことを何も心配していない。勉強をしっかりやって、りっぱな大人になってください。
兄ちゃんはもう一度千恵に会いたかったなあ。
千恵、兄ちゃんは今から死ぬが、千恵のことはずっとずっと、どこか遠いところから見守っているからね。では、行ってきます。兄より」
私はこの手紙を宝物のように大事にして、ときおり読み、兄を想います。
兄に喜んでもらいたい一心で勉強を真面目にやり、大学に入ってからも熱心に勉強し、今は某女子大学の教授として国際政治学を教えています。
人類が愚かな戦争をせずに済むためには何が必要かを研究する学問で、おそらく兄は私の仕事を喜んでくれると思っています。