007 玉川上水
次の日から、何かにつけて珠綺さんは、わたしに寄り添うようになってくれた。
おかげでイジメは、ピタリと止まった。
ボッチの弱者しかイジメられない卑怯な連中だ──軽蔑しかない。
そんな恩人の珠綺さんは、休み時間になると、わたしを廊下に連れ出した。
そして、二人で窓の外の遠くの富士山を眺めて過ごした。
昼休みはわたしの机までやってきて、一緒にお弁当を食べてくれた。
それが終われば、二人で図書室に行き、本を読んだ。
わたしはさして興味のない本を読む振りをしているだけだったけど、彼女は何か難しそうな分厚い本を、自身の鞄から取り出して、読み耽っていた。
彼女がどんな本を読んでいるのか、気にならないと言えば嘘になるが、わたしは努めて気づかぬ振りをしていた。
そんな感じで、学校にいる間。
二人が会話をすることはほとんどなかった。ただ珠綺さんが、傍にいるだけだ。
帰りは一緒に駅まで歩き、電車に乗って、わたしの地元の駅で別れた。
珠綺さんは、水道橋住まいだった。
帰り道は、周りに同じ学校の生徒がいれば、珠綺さんは口を噤んだ。
だけど生徒がいなければ、小さな声で話しかけてくれた。
それは大抵、イエスかノーで答えられるような、閉じた質問ばかりだった。
わたしは簡単なことから練習させられているのかなぁ? これが珠綺さんの言っていた“小さな出来た!”を積み重ねることなのかなぁ、などとボンヤリと思っていた。
…………というか、珠綺さんと一緒にいるのは正直言って、苦痛だった……。
親切にしておいてもらって、お前は何様なんだ? という感じだが、彼女に対する苦手意識はいつまで経っても拭えなかった。
別格の完全生命体のような美少女と、いろんな面で平均以下の女……。
彼女の隣にいることで劣等感が刺激され、居心地は最悪だった。
ある日、帰りの電車の中で、珠綺さんに勇気を出して聞いてみた。
「珠綺さん……どうして、こんなにわたしに親切にしてくれるの?」
珠綺さんは、わたしの目をまっすぐに見つめ返した。
その美少女オーラに、思わず後ずさりしそうになる。
◇ ◇ ◇
電車の中では話し辛いということで、わたしたちは三鷹駅で電車を降りて、玉川上水沿いを井の頭公園に向かってゆっくりと歩いた。
初夏の陽射しが桜の葉から無数に零れ、頭上から淡い光の糸が垂れていた。
その光の糸をその身に絡ませながら、珠綺さんはポツリポツリと言の葉を紡ぎだした。




