003 珠綺環
目の前の美少女は────。
珠綺環 17才。
わたしと同じクラスにして、学園随一の美少女。
成績はいつも学年で、五番以内。
スポーツ万能。
性格は……超無口でよく分からない。
というか、珠綺さんの声を聞いたのも、今日が初めてなくらいだ。
そんな彼女はわたしと違って、イジメにあったりはしていない。
凜とした美少女オーラを纏う無口な少女は、どこか近寄り難く、生徒たちはみな畏れ敬うようにして、自然と距離を置いていた。
そして、わたしは珠綺さんのことが、とても苦手だった……。
なんというか、そばに居るだけで劣等感を感じ、萎縮した。女としての圧倒的な性能差に、わたしは卑屈になっていた。
今だって、周囲からどう見られているのだろう?
美少女と野暮ったい女が、テーブルを挟んで向かい合っている。わたしは、いい引き立て役になれているのだろうか?
そんな彼女はテーブルに置かれたマグカップを、しなやかな十本の指で優しく包み、視線を静かに手元に落している。
表情はさっきと変わらぬ、やや緊張したかんばせ。
口角を少し吊り上げ、柔らかな表情を作ろうとしているのがよく分かる。
そんな作為的な表情も美しい。美少女は特だ。
彼女は胸元まで伸ばした甘栗色の髪の毛を、ゆっくりとした流麗な所作で払い除け、マグカップを口元に手繰り寄せた。
何故、珠綺さんがイジメから助けてくれて、ココにわたしを連れてきたのか…………わたしにはその心当たりがあった。
見つめ合う二人の女子高生の間に張られた、静寂の糸が緩む気配はまったくなかった。
沈黙が重く、わたしに圧し掛かっていた。