002 蒼井葵
── 蒼井葵 十七歳
それが、わたしの名前。
立川市のとある進学校に通う、高校二年生だ。
見た目は、地味で野暮ったい。
もちろん彼氏とかなんとか、そんな甘酸っぱい話は何もない。
成績は下から数えた方が、早いくらい。
趣味は……強いて言うと読書。
と言っても、ライトノベルばかりだけど。
好きなジャンルは異世界転生もの。但し、ハーレム展開はNGだ。女をバカにしているとしか思えない。そもそも最近のラノベは……
おっと、話が逸れた。自己紹介の最中だった。
住んでいるところは吉祥寺。
家族構成は両親と二つ下の妹と、わたしの四人家族。
妹とは仲良しだ。わたしと違って可愛くて、成績優秀な自慢の妹。
そして、わたしがどんな人間か、一言で言うならば────“極度の引っ込み思案”だった。
人前に出ると、まったく喋れない。
話しかけられて、答えようとしても、“この空間は、ワタシが発言してよい場ではない”──と誰かに命令されているような感じ?…………と言えば分ってもらえるだろうか?
誰に強制されているかはまるで不明なんだけど、強いて言えば、自分で自分に強いている感じ。
一度、“自分はこの場で、喋るべきではない”──そう思ってしまうと、わたしの口は、口自身が意志を持った生き物のように、自動的に口を閉ざした。
今となっては、いつからそうだったのか、まるで思い出せない。
兎にも角にも、幼少の頃から集団の中に入ると、脳が自然と無口モードに切り替わった。
そして一度、“寡黙キャラ”が定着すると、そこから抜け出すことは難しかった。
そんなこんなで、幼稚園……いや保育園の頃から、今に至るまで……友達は一人もいない。
で、家ではどうかというと、よく喋った。それこそ、うるさいくらいに。
まあ、なんというか……典型的な内弁慶外仏だ。
そんなわたしだから、もちろん。学校では常にボッチだ。
休み時間はトイレに行き、なるべくゆっくりと手を洗い、なるべくゆっくり廊下を歩いて教室に戻る。
そんな感じで、居場所のない、居たたまれない十分間をやり過ごした。
もしテレビで、“廊下をゆっくり歩く選手権”があれば、かなりの上位に食い込める自信がある。
昼休みは一人で手早く弁当を食べ終え、逃げるようにして図書室へ引きこもり、本を読む振りをして時間を潰した。
もしテレビで“本を読む振り選手権”があれば(以下略)……
そして、只のボッチであればよかったのだが、それだけでは済まなかった。
無言を貫くわたしは一部の生徒たちから……ずっとイジメの対象にされていた。
小学校・中学校の頃──。
わたしが喋れないことをいいことに、クラスで起きた〇〇さんの失くし物を、わたしが盗ったことにされたり……
どうせ、反論できないだろうと、面倒な委員をわたしに押し付けてきたり……
休み時間になると面白がって、わたしに「あいうえお」の発声をやらされたり……
今も──。
暇をもて余したスクールカースト第二~第三グループくらいの男女が、休み時間にやってきて、わたしの周りを取り囲み──。
「休みの日は何してるの?」「服はどこで買ってるの?」「好きな芸能人っている?」とか、どうでもいい話を延々と聞かれ。
答えられなくて、困っているわたしを見て……愉しんでいる…………。
そんな時のわたしは……卑屈な笑みを口の端に浮かべて…………自分で自分が嫌になる……。
そんな日常のイジメの風景の真っただ中に、今日のような出来事が起こったわけだ。
そして、今、私の眼前にいる美少女は────。