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ICO SAGA 狼の章  作者: 古賀みなも
第1章 ライゾ
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4 魔法のリュック

「騒がしい上に儂の根を何度も踏みおって、不躾な娘だの」


 先程まで彼が寝そべっていた枝に体を預け、頬杖をついて一部始終を見ていたアッシュが軽い口調で非難すると、テュールははっとして飛び上がり、ぺこぺこと頭を下げた。


「では、姉様(あねさま)。明日の昼には戻る」


 彼の言葉にひらりと手を振って応えると、アッシュは木に溶け込むようにその姿を消した。


「こっちだ」


 口をぽかんとあけて巨木を見上げているテュールに告げる。


「あっ、あの、ええと、ここに戻ってこられるのは明日の昼なんですよね?野営に使うものや食料が入っているので、さっき置いてきたリュックは持って行こうと思うのですが」


「あんな大きなものをか?お前は行商に行くわけではないのだろう。食事の時には魚を釣るつもりだが」


 異を唱えかけたところで、リュックの口から(こぼ)れていたうまそうな匂いを思いだす。


「お前、肉を持っているようであったな」


「え?ジャーキーとベーコンでしたら持っていますが、どうして分かったのです?」


「……釣った魚をお前に与えたら、お前が持っている肉を、俺にも分けてくれるか?」


「ええ、もちろんです」


løfte(ラフタ)


「え、え?今なんて言ったんですか?」


「姉がたまに使う古い言葉で、約束、だ。荷物は俺が持ってやろう。それなら歩みも遅くなるまい」


 そう言って歩き始める。


「いえ、そんな、大丈夫です!見た目はあの通りですが、すごく軽いんですよ!」


 遠慮をしているのだろうとテュールの言葉を聞き流しながら空き地へ向かう。

 森が急に途切れたような、そこだけ木がまばらにしか生えていない10㎡ほどのささやかなこの場所は、日中、小腹が空いた時などに炊事場として利用している。アッシュの木のすぐ側で火を焚けば、当然の如く姉は機嫌を悪くする。その対価が炙った茸では割りに合わないからだ。


 空き地の隅にショートソードと一緒に置かれていたリュックを無造作に持ち上げると、その軽さに驚いた。ぎっしり荷物が入っているようで、大きく膨らんでいるのにも関わらず、全くと言っていいほど重さは感じられないのだ。

 疑問に思って何度も上げ下げしていると、小走りで追いついてきたテュールが口を開いた。


「ね?軽いでしょう?」


「不思議だ」


「これ、物の重さを固定する魔法の力を持っている人が作った物なんです。だからどれだけ物を入れても、リュックの布の分の重さしかないままなんですよ」


「ふむ……魔法の力とやらは不思議なものだな。試していいか」


「どうぞ。出した瞬間に元の重さを取り戻すので気をつけてくださいね」


 木の取っ手がついた金属の塊を掴み、ゆっくりと引っ張り出してみる。それはリュックの口を離れた瞬間、元の重みを取り戻した。彼にとっては大した負荷ではなかったし、事前に少女も忠告してくれたおかげで取り落す事はなかったが、それでも妙な感覚であった。


「便利でしょう?行商を生業としているジャンさんも、魔法のリュックを使っていたのではないでしょうか」


「いや、あいつの荷物は見た目以上に重い」


「あぁ、では物を小さくする魔法がかかったリュックではないでしょうか。中に入れた物は小さく縮むので、沢山荷物を運べます。行商の方はよく使いますよ。変わるのは大きさだけなので、入れる程にどんどん重くなりますが」


「なるほどな……変わった形の盾だ」


「えっ?盾??これはお鍋ですよ!お料理に使わないんですか?」


 テュールはきょとんと目を丸くする。


「料理」


「普段はどんなものを食べてるんですか?」


「塩をふって焼いた魚や肉、果物や木の実だ」


「味付けは、塩だけなのですか?」


「全て森の恵みだ。不足はない」


「……もしかしたら、私が持ってきているものはあなたのお口には合わないかもしれません」


 先程の約束を思い出したのか、テュールは不安そうな表情を浮かべた。


「そうだったとしても俺がお前を責める事はないから安心しろ」


 鍋とやらを元に戻し、リュックを肩にかける。


「あっ、自分で持てます!」


「重さがないとしても、自分より小さい者に荷物を持たせて歩くのは居心地が悪い」


「で、でも」


「時間を取らせてすまなかったな。行くぞ。村からここまでは魔除けと獣除けの道があっただろうが、ここから先は自分の身は自分で守るしかない。森も一層深くなる。はぐれるなよ」

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