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ICO SAGA 狼の章  作者: 古賀みなも
第1章 ライゾ
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22 その炎は儚く哀切に

主人公である〝彼〟目線に戻りました。

 今日も良い夜だった。野兎を2羽捕まえた後、大きなエルクを一頭狩る事ができた。森に感謝し、エルクに感謝し、狼達は命を繋ぐ。

 食事をしている家族に一言言い置き、彼はルァの為に野兎を持って川原へ向かっていた。近付くにつれ、テュールのリュックから溢れていたうまそうな匂いが豊かな香ばしさを増して漂ってきている。自分でも気付かぬうちに、自然と小走りになっていた。

 下生えを抜け、川原に出る。ベン・ニーアと、寝そべっているルァに見守られながら、焚き火の側に座っているテュールの背中が視界に入った。彼に気付いて頭を上げたルァの目線を追い、振り返ったテュールと目が合った。


「おかえりなさい」


 微笑むテュールに軽く頷き、兎を両方ともルァに渡す。彼女はそれを咥えて少し離れた所に行き、幸せそうにゆったりと尾を振りながら食事を始めた。


「怪我はない」


 黙ったままこちらを見ていたベン・ニーアに告げると、彼女はほんの少し表情を緩めた。幼子ではないのだから安心して欲しいと言ってはいるものの、相変わらず心配ばかりしており、毎晩怪我の有無を確認してくる。


 彼女は数年前にふらりとこの川辺に現れた。外見の特徴をたまたま滞在していたジャンに話せば、それはベン・ニーアだと彼は言った。出産の時に命を落とした女性が妖精となったものであるそうだ。生きるはずであった年月を妖精として過ごした後、ひっそりと消えていくのだという。彼女達が洗う服は死期が近い人間のものであり、村の人間達はベン・ニーアを死の使いだとして恐れているというが、それを聞いても彼はなんとも思わなかった。

 死は平等に、しかし唐突に訪れるものでもある。生まれつき体の弱かった弟が軽い微睡みの間に冷たくなっていたり、逞しく立派に育った妹がふとした不注意で命を落とすたび、唐突な別れに愕然としながらやるせない悲しみを家族と分かち合っていた彼は、死を事前に教えてくれるのは、むしろベン・ニーアなりの善意なのではないだろうかと感じたのだ。


「火はまたルーン文字とやらで起こしたのか?」


 テュールの向かい、ベン・ニーアの隣に座る。彼女からは冷たい水の匂いがする。どれだけ火の側にいても、その肌に温もりが灯ることはない。


「はい、ウィル・オ・ザ・ウィスプの炎を料理に使うのは、ええと、なんていいますか、恐れ多いというか」


「炎の色が違うだけだがな」


 ベン・ニーアの多くは人里近くの水辺に現れるらしい。何故このような森の奥深くにいるのか、彼女自身もわかっていないようであったが、ジャンはここに漂うウィル・オ・ザ・ウィスプ達に招かれたのでは、と言っていた。

 この澄んだ青い炎は、幼い内に亡くなってしまった子供の魂だという。その寂しさから人を死地に誘う事もあるそうだが、彼にとっては昔からの遊び相手であり、火を貸してくれる友人である。

 いつも気まぐれに漂っている彼らは、確かにジャンの言葉通り、ベン・ニーアが現れてからは嬉しそうに瞬きながら彼女に纏わり付いていた。

 現れた当初は、彼の問いかけに答えるでもなく、ただひたすらに悲しげな顔をして俯いていたベン・ニーアだが、やがてウィル・オ・ザ・ウィスプの光の中についぞ抱くことができなかった我が子を重ねるようになったらしく、ふわふわとした青白い炎達を優しい眼差しで見つめるようになった。今でも悲しげな顔つきこそ相変わらずだが、纏っている雰囲気は随分と和らいできている。


「もう料理とやらはできたのか?」


「あっ、はい!あの、普段塩しか使ってないと聞きましたので、お口に合うか、やっぱり不安ですが」


「うまそうな匂いだ。何を作ったんだ?」


「はい、お鍋に入っているのはベーコンと乾燥野菜のスープです。ええと、あなたの隣に座っている妖精さん……?が生えている場所を教えてくれた茸を、お塩とハーブで炒めたものも作りました。串に刺して炙っているのはジャーキーです。ビスケットも沢山ありますので、いっぱい食べてください」


「糧と、手間を掛けてくれたお前に感謝して頂こう」


「器もスプーンやフォークも一つずつしかないので、先に使ってください」


 すぐさま手を伸ばしたいのを堪えながら礼を言う。


(さて、何から食べようか)


 食欲を刺激する香りに、つい緩みそうになる口元を必死で引き締めた。

ウィル・オ・ザ・ウィスプは藁の松明持ちのウィルの話が好きなのですが、(悪魔が石炭をくれるってなんだか人情味を感じてしまう)ベン・ニーアと合わせて登場させるに当たり、今回は洗礼前に亡くなった子供の魂という説の方を使わせて頂きました。

ところでwill-o'-the-wispなのに、ウィルオウィスプって呼ばれることが多いのは何故なんでしょう。小学生の頃にハマって何周もしたゲームではウィルオウィスプだったので、theに気付いたのは大人になってからでした。一人で衝撃を受けていたのですが、ザは日本語読みでは省略してもいいのかな?

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