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俺はゲンさんの隣に座る。
「そうさな、坊主は酒は飲めるか?」
まあ、別に飲めなくはないな。
「はい、飲めますよ」
「ならまずはエールじゃな!」
ゲンさんはカウンター越しにいるマスターだろう人にエール2つと適当にツマミを頼む。
「あいよ」
すると、なみなみ注がれたエール2つとツマミが目の前に置かれる。
早すぎる! ビックリしたわ。
予知してたの? それとも作っておいてるの?
「ゲン。また新人連れてきたのか」
「マスターよ、こうやってどんどん常連が増えていくんじゃ。それに1人よりは誰かと飲む方が楽しいじゃろがい」
この2人、知り合い、いや、仲がいいみたいだし友達なのだろうか。
「そうだな。俺はここのマスター、ジャックだ」
「儂はゲン。鍛冶師じゃ」
2人の目がこちらを向く。
「俺はログって名前でやってます。えっと、今日こっちに来ました」
「ああ、よろしくログ」
「よろしくログ坊。じゃ、新たな冒険者に」
「「乾杯!!」」
「か、乾杯!!」
いつの間にかマスターもエールのなみなみ注がれたジョッキを持っていた。
2人の息の合い方に押されながら頑張ってついて行く。
なんか、楽しくなってきたんだ。
周りの影響か、2人の人柄なのかは分からない。
「んっんっんっ、カーッ! よし! マスターいつもの新人セット2つじゃ」
「んっ......ふぅ。あいよ、ちょっと待ってな」
マスターはゲンさんの飲み切ったエールを新しいエールに取り替えて仕事に戻った。
というか、2人とも一気飲みかよ。凄いな、俺は半分も減ってない。
結構このジョッキ大きいぞ、生中頼んだことあるけどそれよりも1回り2回り? デカい。それになみなみ注がれたのに......やばいな。
「ハッハッハ、ログ坊はやっぱりまだまだ若いなぁ」
「いやいや、2人が凄いんですよ」
俺は少しづつ飲んでいく。
ゆっくり飲む方が好きなのだ。
「ログ坊、このツマミ、食べてみな」
ゲンさんは何かの串焼きを勧めてくる。
俺は、それを手に取り口に運ぶ。
美味しい、肉があっさりしているが少し臭みがある。塩で味付けされているのが凄く好みだ。
でも、とりあえずわかる。絶対に食べた事ない肉だ。鳥に近いけど絶対違う。この臭さは恐らく濃い血の臭さだ。
「あむ......ふむ、これはリザードマンの串焼きじゃな。トカゲのようなもんじゃ」
これがリザードマンの肉の味か、美味しいな。
多少の臭さは恐らく肉食だから、そこからきているのだろう。
「お前さんはもしかして強いのかもしれんな。美味しそうに食うとる」
ゲンさんは笑いながらこっちを見ていた。
だがちょっと待ってくれ、そのセリフで行くと今から食べさせられていく物が予想ついてしまった。
「ハッハッハ! 楽しみにしておけい。この世界には前世にない未知が沢山あるんじゃぞ!」
俺は楽しいような、不安なような、2つの気持ちに頭を抱えていた。
「楽しそうだな。新人セット2つおまち!」
俺が頭を抱えているとマスターが料理をもってきた。
そして、目の前にデカい皿に色んな料理が乗っている物が置かれた。
「気になるヤツから食べてみな。儂が何の肉か教えちゃる」
ゲンさんは笑いながらこちらを見ている。
いいだろう、俺は特に嫌いな物は無かった。
普通に前世でもゲテモノを食べたりした。
かかってこい! 俺は逃げない! てか、ちょっと楽しみだぜ!
角煮は、オークの角煮だった。凄い臭いけど長い事煮込んで臭みを味の1部にしている。
サイコロステーキは、ミノタウロスのサイコロステーキだった。硬い牛肉って感じで、でも味は凄く美味しい。
唐揚げは、バンパイアバットの唐揚げだった。すげぇ臭くてビックリした。魚の血合いのもっと強い、血が濃いのだろうか、バンパイアバットって名前だし。
煮込んだ骨付き肉みたいな奴は、ビッグフロッグの煮込みだった。カエルの肉は鳥肉に味が似ているらしいが、その通りだった。あっさりしていてめちゃくちゃ美味しい。全く臭くないし1番好きかも。
つくねは、ハイエナフィッシュのつくねらしい。臭い魚って感じだ。とは言ってもバンパイアバットせいで口の中おかしくなってるから気にならない。味は悪くない。
最後に赤身の見えているステーキ1切れ。レアって言うんだっけ?表面だけが焼けている肉。でもこれは本当に表面が少し焼けているだけだ。なんか言い方があった気がするけど、うーん忘れた。
口に入れるとビックリした。いや、これは、すげぇ。
美味すぎると言うか、本気で言葉に困る。
殆ど焼いてないのに温かかった。いや、結構熱かった。
美味しい......不思議な肉だな。
「ログ坊は何でも食べるのぅ。美味しいものは美味しそうに、不味い物は不味そうに。見ていて飽きないわい。でも、流石にこの肉はやっぱり皆、同じ反応するんじゃな」
「そうだな。これを観るために赤字覚悟で出してるし、この表情が見たくて料理やってっからな」
赤字覚悟? って事はもしかして凄い肉なのか?
「それはな......ドラゴンの肉じゃよ」
ゲンさんはニヤっと笑う。
まじか......俺、この世界に来た初日にドラゴン食べちゃったよ......。
ドラゴンってこんなに美味しいのか。
「ログ坊は面白い。顔見るだけで言いたい事が分かってしまうのう」
「そうだな。直した方がいいと思うが、いや、そのままがいいな。いい顔してるぜ」
そんなに顔に出やすいのか。さっきもジュンに言われたばかりだし。
やっぱり、この世界に来ても魂というか心は変わってないんだな。
俺は付け合せの野菜や果物も全部食べる。
「美味しかったです。ありがとうございます」
「いいってことよ。ここは安いのから高いのまで置いてあるから気軽に来てくれ」
「朝から夜中までやってるから10G持って食べに来るんじゃな。最初は皆そこから始まるんじゃ」
「来た時は俺やウェイトレスに、メニューとか無いから○○Gでおまかせって言ってくれ」
「ありがとうございます。明日も朝ごはん食べに来ますね」
少し頭の中で計算してみた。
1日大体50Gあれば生きて行けそうだ。
どのくらい稼げるかはわかんないけど、みんなに感謝しかない。
「そうじゃった。明日から迷宮なんじゃな。試練の迷宮じゃよな?」
「はい、一覧はまだ見てないんですけど。大黒柱よろずのジュンさんに最初に解放されている迷宮なら試練の迷宮って言われました」
「その通りじゃ。じゃが試練の迷宮って名前がついている割には序盤は簡単じゃ。上に行くほど難しいだけじゃ」
上か、頑張って行きたいな。
「大黒柱のジュンって言ったら、2年前にゲンさんが連れてきた人だな」
「あやつは凄い勢いで出世しおったな、妹の為にな。良い兄じゃ」
ジュンには妹がいるのか?
「知らんかったか。まあ今日会ったばかりじゃしのう。可愛い妹がおるぞ、凄い人見知りのな」
そうなのか、いつか会うかもしれないな。