1話 ストア少年 家出を決意する
魔法と剣の世界、そう、みんな大好きな異世界の世界にはそれとは別にスキルというものがある。
生まれながらにして獲得できる天性の能力、それがスキル。
スキルの起源は先祖代々続いてきた職業の家系より生まれ、異世界独自の能力になった。
魔法使いの家系には魔力増大や高速詠唱、鍛冶屋には炎耐性や剛腕などのスキルを持った子供が生まれ職業によりスキルが固定化されることとなった。
そのスキルの中でもレアなスキル、リセット(状態異常耐性)を持ったものが生まれたその名はストア・ドラック、薬師の23代目のいつも一生懸命で元気すぎる男の子であった。40話ぐらいで話に出てきます。
時代の寵児になれるかは本人の希望次第。
山山山見渡す限り山しかない山の中で一人の少年が薬草を採取していた。
彼の名はストア・ドラック、15歳で23代目になる薬師の息子だ。
そんな彼の背後から忍び寄る影があった。
それは独り立ちして新たなテリトリーへ侵入を試みた1.5Mの大きさのウォーターパンサーだ。
ウォーターパンサーは魔力はほとんどないが攻撃するときに水を口から吐き出し目潰しをして攻撃してくるやっかいな敵だ、時には木の上からまたは影に潜んで後ろからも。
冒険者は普通は仲間を組んで行動するのは後ろから攻撃されると対処できなくなるからに他ならない。
ウォーターパンサーはジリジリと近づいて飛びかかれる場所まで忍び寄っていた。
その時ストアは穴を掘り短槍を埋め込んでいた。
そしてウォーターパンサーが飛びかかった瞬間に素早く横に移動して剣をかまえたがウォーターパンサーは単槍に貫かれて暴れまわる。
致命傷を負っているウォーターパンサーにとどめを刺そうとするストアに水を吐き出しながら襲いかかるウォーターパンサー、ストアは素早く避けて着地し振り向こうとするウォーターパンサーの首に剣を突き込み動脈を切ると血が吹き出しヨロヨロとよろめきウォーターパンサーは倒れて動かなくなった。
ストアはウォーターパンサーの死を確認すると散らばってしまった薬草を集めて回った。
8歳のときから森に入り魔物の気配を感じながら育ってきたストアに独り立ちし始めたウォーターパンサーの殺気を消せない攻撃など通用するものではなかった。
埋め込んで攻撃する方法も子供で力が弱かった時に対抗手段として教えられたものだった。
この一帯にウォーターパンサーが住み着いていないのもストア家の者が駆除し続けたからだった。
ストアは笛を取り出し笛を吹くと半時もすると父のチェーンがやってきた。
「ああ 父さん ウォーターパンサーが襲ってきたから倒したんだ」
「怪我はしてないみたいだな これかぁ 小さいな独り立ちしたばかりみたいだな」
「そうなんだけど 一緒に持って帰ったら薬草がダメになるから呼んだんだよ」
「そうだな 薬草はお前が持って帰ればいい」
「うん」
ストアは二人分の薬草を背負い、父のチェーンは30キロのウォーターパンサーを背負って山道を帰っていった。
これがストアの森での日常である。
ちょうど大陸の中央にある山に囲まれた小さな盆地にあるウルルはおらが町が世界の中心だというのが自慢の町。
いくら世界の中心にあっても交通の要所・要路ではないので栄えているわけではない、
しかしこの町の付近に来る冒険者が効果抜群のポーションが格安で売っているということで必ず立ち寄ることで有名な町だ。
そんなウルルで少年ストアは暮らしていた。
ストアは165センチで中肉中背の黒目黒髪の平均よりちょっと背が高くちょっとだけイケメンの少年。
小さいときから薬学の勉強に仕事、稽古をして薬草採しかも魔物の討伐までさせられて、自分がどんな容姿をしているのか考えたこともないピュアな少年。
自分では目立ってないと思っていたのだがウルルの名士の家系のお坊ちゃんなのでストア少年は女の子からの熱い視線を受けている。
そんなことは当然、何も知らないでただ毎日を一生懸命に暮らしていた。
「ほっほっほ 健康が一番じゃ」 とのたまう御年110歳の高祖父母のひいひいじいさんのショップ・ドラックは今日も元気だ。
「おやじには負ける」が口癖のひいじいちゃん、ヘルス・ドラック、御年85歳も今日も元気だ。
「なにをおっしゃいます 全然負けてませんよ」というのがじいちゃんヘルシー・ドラック、御年60歳も今日も元気だ。
そしてストアの父親のチェーン・ドラック、御年40歳も小僧呼ばわりされながらも今日も元気だ。
ストア・ドラックは15歳、異世界では成人になる歳になった。
ストア的にはやっと15歳になったという気分だった。
ドラッグ家は家訓で病気になって薬を飲むのは邪道、健康になる為に薬を飲まないといけないということで健康薬(健康丸)を自ら飲み続け、日夜改良して、売り続けているのだが、ほとんど売れない、毎日、薬を飲み続けるのはお金がかかるからだ。
そういう訳でもうひとつの商品のポーションが売り上げの大部分を占めている。
冒険者に大人気なのだが売り上げの大部分は健康丸の改良に使われるのでお金が貯まらない、貯めようとする気がない。
ストアは8歳頃から家の手伝いを始めポーションだけは一人前のお墨付きを得られるまでになった。
ストアは家業を手伝いながら鬱々としていた。
このまま家にいたらと考えたら、120歳までこの家に縛り付けられそうだからだ。
だから15歳になったら家を出ようと決意していた。
そしてそれまでにはポーションをちゃんと作れるように日夜努力を惜しまなかった。
ストアは15歳までにするべきことはしたと考えて仕事終わりに集まった男家族の前で言ったのだった。
「俺は家を出たい 色んな世界を知りたいし 他に何ができるのかも知りたいんだ」
「ほっほっほ ストアもそんなことを言い出す歳になったんじゃな」
「わしらもそんな時期がありましたな」
「うんうん」
「息子よ俺も25までは家出をしてたんだよ」
「えっ、父さんもそうなの?」
「ママと結婚してお前ができたから里帰りしたんだよ」
「そうだったのか」
「家を出たいんなら、よく聞いておけ、外の世界は魔物で一杯だ」
「しかも戦争中の国もたくさんある」
「だからまずお前は首都のハートビートの冒険者養成所で知識と技術を学べ、そこからは自分の好きな道を進めばいい」
「ほっほっほ 旅立ちの宴をするかのぉ」
「さみしくなるな」
「うんうん」
こうして男の家族には家を出ることを許可されたストアであった。
作業場から帰ってから、キャラウェイひいばあちゃんやエルダーばあちゃんに、ママのアンゼリカにも家出することを伝えると。
「ストアも嫁探しの旅に出るかのぉ」
「あんりまぁ あんなに小さかったのにもう嫁探しを始めるのかいな」
「気が早いですよお二人とも」
「そうだよ、どうして嫁探しになるんだよ」
「ママが最高の料理を作ってあげるから、この味が恋しくなったらはやく帰ってきてね」
女性陣にも伝えたのだがあまりにも簡単に許可が出たので、一世一代の決意はなんだったのかと思うストアであった。
そしてその夜はご馳走を食べてみんなの家出時代の昔話を聞いたのだった。