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スローライフ  作者: チョモランマ草ニキ
1/1

邂逅

死んだ俺がやってきたのは魔族も人間も大半が死に絶えた世界。「魔族と意思疎通ができる力」を持つ俺は、たまたまであったスライムさんに拾われた。

 突然だが、俺は死んだ。

 死因としては圧死が適当だろうか。仔猫を愛でていたら突然降ってきた鉄骨に潰された…らしい。厳密な記憶はない、ただ降ってきた鉄骨を見て慌てて仔猫を安全そうなところに放り投げた。そこで俺の記憶は途切れている。なら、多分死んだと考えるのが適当だろう。

 さて、なんで死んだ筈の俺がこんな風に語っているのかってなると、またこれがよく分からない。俺は確かにビルが立ち並ぶいつもの街にいたはずなのだが、俺が今寝そべっているのは明らかに閑静な小高い丘の上だった。

眼下を見渡せば現代風のものはほとんどなく、自然が一面に広がっている。民家の類も見当たらない。

 「おいおい、どうしたもんかな……」

 このままここで呆けているわけにもいかないが、如何せんやることもできることもない。

 一応太陽のようなものはあるが、今が何時かもわからないし、方角も分からない。いや、抑々どこに何があるかも俺には一切分からない。

 僥倖だったのは気候がある程度安定していることだ。暑くはないし寒くもなく、たまに吹く風が涼しく感じられる程度だ。雲行きも怪しさは感じられないから雨が降るということもないだろう。

 ここで数日寝て過ごし誰かが通りかかるのを待つという手もあったが、

 「さて、行くか」

 俺はあえて歩き出すことを選んだ。じっとしていても何も始まらない。まあ、これで死んだらそん時はそん時だ。拾った命くらい捨ててやろう。

 そんな時、不意に近くの茂みが音を立てて揺れた。そちらを一瞥すると、濁った緑色の粘着質な不定形の物体が姿を現した。

 ――化け物だ。

 面白いことに俺は声が出せなかった。人間不測の事態に陥った時は思考が停止するって話は本当だったんだなぁ。

 「うわあああああああ!!!!ば、化け物ぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 思考が追い付いた時、俺は声を上げて走り出していた。

とにかく逃げなきゃという考え以外は頭の中から完全に消失していた。拾った命を捨てる覚悟ってのは一体何だったんだろうな。

何かに躓き盛大にこけた。無我夢中で走り続けていて気が付いたら俺は森の中を走っていたらしい。足元にはでかい根が顔を出している。そんなことはどうでもいいと立ち上がろうとしたが、脚に明確な違和感があるだけで立ち上がれない。見ると大振りな枝が俺の左脚を貫通していた。

 「あああああああああああ!!!!」

 痛みは遅れてやってきた。熱い、左足に焼け付くような衝撃が走る。もがけばもがく程、のたうち回る程に枝は脚を抉り、傷口を拡げていく。

 しばらく暴れた結果ある程度傷が拡がったのか枝は脚から抜けたが、その時点で出血量が多過ぎた。地を這ってでも逃げようとした俺だったが、途中で意識を失った。


 頰を撫でる暖かい感覚で目が覚めた。目が慣れるまでは時間がかかったが、そこが洞窟のようなものである事が分かった。辺りを見渡すが特になにがあるわけでもない、俺は床に寝かされていたらしい。

 誰が運んでくれたんだろうか、もしかしたら見かけてくれた人が居たのだろうか。

 期待していた俺だったが、入口と思われる場所から聞こえた音でそれは打ち砕かれた。

 グチャグチャと水気を帯びたものを引きずるような、そんな音だった。

 息が荒くなる、いやまさかそんな筈はない。確かに俺は逃げ切った筈なんだと思考が頭を駆け巡る。果たして俺の目の前に現れたのは件の化け物だった。

 「あ、あ、ああああああ!!」

 半狂乱になりながら俺はその場から逃げ出そうとしたが、できなかった。

 左脚が動く気配がない、気絶するまで感じていた激しい痛みもない。どこかで俺はこんな感覚を味わった事がある。

 そうだ、麻酔だ。部分麻酔をかけたあの感じだ。

 現状を把握するのに多少なりとも冷静になった俺はもう一度周りを見渡してみるが、入口と呼べるものはそいつが入ってきた一つしか存在しないようだ。なら、俺にできることはただ一つだ。

 「ほら、食えよ」

 無駄な抵抗はやめた。どうせ足掻いたところで俺が助かる見込みはない。入口が塞がれちまっていて、左脚は動かない。これでどうしろってんだよ。

 化け物はゆっくりと俺へと近づく、その体から一本触手のようなものが伸びている。嗚呼、俺は今からこいつで食われるんだろうな。俺は目を固く閉じ、これから起こることを見ないようにした。

だが、いくら待っても俺の体に痛みはない。目を開けてみるとそいつは触手で俺の傷口を撫でていた。

 「お前、何やってんだ??」

 あまりに不可思議な光景に俺は疑問を呈した。

 「この手の傷にはこの薬草が効く。麻酔はかけてるから痛くはないはず、だからじっとしててね。」

 そいつはおおよそ人間とは思えない声で、はっきりと俺に理解できる言語を発した。

 「うがああああああああ!!!!喋ったあああああ!!!!!!」

 これが俺とスライムさんとの出会い


 それから俺とスライムさんとの生活が始まった。片脚を負傷している俺はまともに動くことができないから、スライムさんの採ってくる野草や木の実の類を食べ、薬草を塗って完治を待つ。

 今もこうして帰り待って寝ているだけで飯と薬にありつけるが、どこかモンスターから施しを受けるってのに違和感を禁じ得ない。

 「起きてたのか??」

 そうこうしているとスライムさんが戻ってきた。体の中に結構な量の木の実を溜め込んで。

 「なあ、俺はそんなにいらないから、あんたも少しは食ったらどうだ??」

 「私は水分さえ確保できれば栄養なんて言うものは必要ない。それよりも君の脚を治すことが先決だ。ほら、食べるといい。その間に薬を塗るよ。」

 相変わらず人間とは少し違った声音、しかし穏やかにスライムさんは言う。

 「なあ、どうして俺にそんなに優しくしてくれるんだ?」

 抱いていた疑問について訊いてみる。

 「君みたいな人間初めてだからね。」

 「そうなのか?」

 「ああ、モンスターと意思の疎通ができる人間なんて今まで会ったことないよ。」

 そういうものなのか。この世界のことはよく分からん。

 「俺みたいに気が付いたらこの世界にいたって奴は他にはいないのか?」

 「いる、というよりもしょっちゅうやってくるよ」

 「え!?」

 驚いた、じゃあもしかしたら俺みたいな奴に会えるかもしれないってことか。

 「どこにいるか分かるか?」

 「さあね、少なくともこの森で出現したのは君が初めてだよ。普通は町の方に行く筈なんだけど。」

 「町まではどのくらいだ??」

 「行く気かい?その脚が治ってからだろうけど止めときな。」

 「なんでだよ!?」

 ああ、いかん。気持ちが昂ってつい声を荒げてしまった。

 「はぁ……ここから君の走る速度を永遠に維持できて五日。それがここから一番近い村までの距離。」

 スライムさんはどこか呆れたように口を開いた。

 「そんなに遠いのか……」

 「それに、モンスターの中には人間に殺意を持ってるものもいる。迂闊に外に出たら殺されるよ。」

 改めてファンタジーみたいな世界だな。

 「この世界でも勇者と魔王みたいな奴等が戦争でもいしてんのか??」

 「魔王は死んだよ。勇者もね。」

 「同士討ちか?珍しいな。」

 てっきり神的な何かが正義が勝つように調整していると思ったが。

 「じゃあ少し昔話をしようか。どうせもう外に出る必要もないし。」

 スライムさんは淡々と語りだした。

 ――

 今から五年も前のことだ。勇者と呼ばれる存在が突然現れた。当時人間、魔族間で行われていた戦争は魔族側が圧倒的に有利だった。だが勇者の出現で状況は一変した。なんせ、勇者は一人じゃなかったからだ。総勢百人を超える勇者のみで編成された軍は瞬く間に下級魔族を殲滅した。生き残った幸運なもの達もその後の劣勢と過酷な状況に次々死んでいった。

 状況を鑑みた魔王は短期決戦を仕掛けた、まあそれも勇者側に漏れていたけど。

 魔族と人間の国境で行われた戦は苛烈を極めた。その中で何人もの勇者が、何体もの魔族が死んでいった。三日間続いた戦争は互いの切り札で幕を閉じた。その際に生じた衝撃で国境には巨大なクレーターができた。戦場からは魔族が五体、勇者が三人だけ帰還してそれ以外は全滅した。

 ――

 「人間も魔族もこの世界ではほとんど生きていない。自身の種族の大半を殺したんだ、互いに殺意を燃やすものがいても不思議じゃない。それに、この世界で生き残っているってことはそれだけの手練れってことさ、これでも外に出るか?」

 俺は首を横に振った。

 「だけど、どうして未だに別の世界から人間がこの世界に来るんだ?もう戦争は終結したんだろ?なら態々そんなことする必要もないだろ。」

 「私達魔族は多種族間でも交配することができる。君達はそれができない。言うなら今から私と君で子を成したとしたらそれは区別の上では魔族だ。人間は人間同士としか繁殖できない、しかも人間は数が少なく子を成したとしても数が増えない。ならどうするのが一番効率がいいかな??」

 「「違う世界で死んだ人間をこちらの世界に転移すること」」

 そうか誰かが死ねばこっちに運ばれる。だからこの世界では転移してくる奴が珍しくないんだ。だが、

 「この世界で生きていけるのか?この世界はそこそこ過酷なんだろ??」

 「場所による。人間が住んでる街にほど近いところに転移できればそのまま住民になればいい。でも、君みたいに魔族側に転移したなら運が良ければ生き残るけど普通は死ぬ。」

 「転移した先で野垂れ死になんて勘弁してほしいな。」 

 まあ、俺もスライムさんに会わなかったら今頃毒でも食って死んでいただろうけど。

 「俺は幸運か?」

 「この世界に転移した人間の中では最上級にね。―――随分と、昔話に花を咲かせてしまったな。」

 見ると洞窟上部の穴から月が覗いている。

 「さあ、もう寝るといい。十分な休養を取らなければ体に毒だ。」

 俺達はそのまま眠ることにした。

 

 


スライムさんどこから声出してんだ??

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