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アリシアVSアルテ(1)

 ホームの玄関でアリシアと――湧磨と同じくらいに背が高くなり、大きな胸がさらに大きくなって、髪が腰ほどまで長くなった純白ビキニ姿のアリシアと落ち合い、ほとんど丸出し状態のお尻の後についてリビングへと入る。そして、


「…………」

「…………」

「…………」


 ソファに座り、大きなモニタで戦い(オークシヨン)を見ていたゆりりんのその姿を見て、湧磨とアリシアは石のように固まった。ハッとこちらを向いたゆりりんもまた、同じくピキッと石化した。


 ゆりりんは、まさに素っ裸だった。


 テーブルの上に細い両足をでんと伸ばし、両手をソファの背もたれに引っかけて、まるで一人暮らしを謳歌する男のような勢いで恥じらいを捨て去っているゆりりんを見て、湧磨はドキリとすることもできずにただパチパチと目を瞬いたが、


「あっちを向きなさい、この変態!」


 顔を掴まれ、首の骨を折られるようにアリシアに後ろを振り向かされる。湧磨は声にならない悲鳴を上げてから、


「アリシア、お前……俺をフクロウか何かだとでも……! っていうか、おかしいのはゆりりんだろ! なんでいきなり全裸なんだよ!」

「い、いいい、いやいや、これは違うみゅん! ちょっと着替えようかなって思った時に、ちょうど二人が入ってきただけだみゅん! 本当だみゅん!」


と、慌てきった様子で言ってから、


「そ、それより、二人とも、急にどうしたんだみゅん?」


 そう尋ねてくる。そっとそのほうへ目を戻すと、そこには黒いタンクトップに真っ赤なホットパンツ姿の、いつものゆりりんがいて、ホッと息をつく。


「こちらのほうこそ色々と訊かせていただきたい所ですけれど……今はそのような時ではないからやめておきますわ」


 アリシアは渋面を作りながら額を押さえ、それから睨むような眼差しでゆりりんを見据え、


「ゆりりん、今から戦い(オークシヨン)を開きますわよ」

「戦い(オークシヨン)を? 開く?」

「ええ。ですから、そのセッティングをして頂戴。出品者はあなたで、入札時間は一分もあれば充分ですわ。それから、入札(エントリー)者はわたくしと例のチートプログラムに限定しておくこと。余計な邪魔が入らないように、チーム内での通信もオフでお願いいたしますわ」

「アリシアと、チートプログラム? ……ああ、なるほどみゅん」


 と、ゆりりんはちらと湧磨を見ながら呟き、神妙な顔つきでアリシアに尋ねる。


「ちなみに、もうなんとなく解ってるけど……出品物は?」

「お察しの通り、『ユーマ』ですわ。この人を賭けて、わたくしと彼女で戦わせていただきます」


 アリシアは淀みなく堂々と言い切る。その決意の固さを既に知っている以上、今さら湧磨が言うことなどない。こういう時にどんな顔をしていればよいか解らず落ち着かないが、ともかく黙ってゆりりんを見返すと、ゆりりんは腕組みしながら目を逸らし、


「そっか……。うーん……でも、ゆりりんはやめておいたほうがいいと思うみゅん」

「なぜ? このわたくしが負けるとでも?」

「正直、そういう心配もあるけど……ただ単純に、これ以上、彼女に刺激を与えるのはマズいような気がするんだみゅん。万が一、いや万々が一だけど、もし、その……」


 もしもアルテに自我が芽生えたら、どうなってしまうのだろう。そのさき一体、何が起きるのだろう――


 ゆりりんはそう危惧しているに違いない。その恐れの気持ちは湧磨にもよく解った。しかし、アリシアはゆりりんに詰め寄って、


「お願いですわ、ゆりりん。仰る通り、これは危険な選択かもしれない。でも、わたくしはもうこうするしかありませんの。絶対に、彼女と戦わなくてはいけませんの。でなければ、わたくしは……!」


 と、心の底から声を絞り出すように訴える。ゆりりんはそんなアリシアをどこか憐れむような目で見上げ、小さく嘆息してから立ち上がった。


「……アリシアがそこまで思ってるんなら、ゆりりんは何も言えないみゅ。解ったみゅん。戦い(オークシヨン)の準備をするみゅん」


 デスクについて、手慣れたその作業を淡々と済ませ、背後のアリシアを振り返る。


「何が起きるかは解らないけど……ゆりりんもできる限りのことはするみゅん。アリシアも、覚悟はいい?」

「無論ですわ」

「うん。じゃあ……入札(エントリー^)募集、開始みゅん」


 と、ゆりりんがエンターキーを押すと、既に手元でメニューウィンドウを開いていたアリシアはそれを操作して、すぐに入札(エントリー^)を完了させる。


「……さて、誰の想いが一番、強いのかしらね」


 こちらを見ることもなく険しい表情で呟き、アリシアはリビングを出て行った。すると、ゆりりんがイスをくるりと回転させてこちらを向き、苦笑する。


「一体、あれから何があったんだみゅん? まあ、大体の想像はつくけどさ」

「その察しの通りだとは思うが、実際、俺自身がそう訊きたいくらいだ。まさか俺の人生に『告白される』なんていう出来事が起きるなんて想像したこともなかったからな。しかもよりにもよって、一回、振られたアリシアからされるなんて」

「あはは……。まあ、人は人生に三回くらいモテる時期があるっていうし、たぶん今がそれなんだみゅん。でも、ところで清里くん、もしアリシアとつき合うことになったら、君は一体どういう心構えでアリシアと接していくつもり?」

「こ、心構え……?」

「うん。まあ、十中八九、この戦い(オークシヨン)にアルテは入札(エントリー^)してこないみゅ。そうなると、アリシアは不戦勝でキミを――うみゅ?」


 と、ゆりりんが妙に厳めしい表情でこちらを睨み始めた時、ゆりりんの前に通知アイコンが表示された。『トウテツ』というアカウントからのコールである。ゆりりんはやや躊躇うように間を置いてから『応答』ボタンを押し、


「しもしも?」

『おい、テメエ! 今度は何しやがった!』


波形と同調して響いたのは、忘れもしない、チーターの怒鳴り声である。この『トウテツ』というアカウントが、チーターの本アカウントなのだろうか。そうだとして、なぜゆりりんがチーターの本アカウントと直接、連絡を取ることができているのだろうか。


 まだよく知らないが、エクスマキナでは誰とでも自由に通話ができるようになっているのだろうか。


 ゆりりんはその声にさして驚いた様子もなく、


「何がだみゅん? ゆりりんたちは別に何もしてないみゅん」

『嘘つくんじゃねえよ! どうせお前らだろうが! 俺のプログラム操ってクソみたいな戦い(オークシヨン)に入札(エントリー^)させやがったのは! テメエ、一体どこにクソウィルス仕込みやがった!』


 え? と、ゆりりんは小さく驚きの声を発しながら、イスを回転させてモニタへ向き直る。そして、


「嘘……? ホントに……?」


 と、微かに震えるような声で呟く。それを見て、湧磨はモニタを覗き込む。と、湧磨自身が出品物である戦い(オークシヨン)のその詳細ページ、入札(エントリー^)者の欄には、『アリーローズ』ともう一人、『Alte』の名前があった。


「た、確かに、この戦い(オークシヨン)を開いたのはゆりりんだけど、入札(エントリー^)はキミが自分でやったんじゃないみゅん?」

『知るか。今、いきなり勝手に入札(エントリー^)されたんだ。っていうか……な、なんだよ? お前がやったんじゃないなら……ど、どういうことだよ?』


 チーターの声もまた、微かに震え始めていた。


 モニタの一つにアリーナ――海原を進む巨大な船の姿が映し出され、ほどなく、その真っ赤な甲板上にアリシアとアルテがほぼ同時に姿を現す。


 今さら止めることはできない。既に賽は投げられていた。

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