トラブルはいつも向こうから
本日は第九十三話を投稿します!
今回は前回に引き続き「銀の林檎亭」での様子から。そこでウィルを襲うハプニング(?)
そして前前々回に話題に登ったある人が登場します!
-93-
──ペチペチ
────ペチペチペチ
『マスター、そろそろ起床時間です』
何やら俺の頬を叩いているみたいな感触を感じ、俺は身動ぎする。
「う、うーん」
──ペチペチペチペチ
────ペチペチペチペチペチ──チュッ♡
頬を叩かれる感触とは違う、柔らかな感触を唇に感じて俺は思わず目を開けた。
ぼんやりした視界に超近接で飛び込んでくる整った顔のコーゼスト。良く見ると俺の唇に自分の唇を重ねている────?!?
『あ、おはようございます。お目覚めになられましたね』
──ガバッ!!
「ちょ、お、お前は何をした!?」
思わずベッドの上に跳ね起きる俺。言葉がしどろもどろになるのは勘弁して欲しい。一方のコーゼストは跳ね起きた俺の頭の上をふよふよ舞いながら
『それは当然──マスターの起床の補助をば』
「いやいや、さっきは何をしていたんだ?!?」
しれっと答えるコーゼストに改めて詰問する俺。するとコーゼストは
『わかりませんでしたか? 目覚めの口付けです』
またもやコーゼストがしれっと答える──お、お前わ〜!
「なんて事しやがるんだ!!」
『お気に召しませんでしたか? やはり濃厚な方が良かったでしょうか?』
「ちょっ、おまっ?!」
『それはまぁ冗談なんですが』
予想外の答えに思わず赤面する俺を見て、悪戯が成功したみたいな顔をしてほくそ笑むコーゼスト。朝っぱらからこんな風に騒いでいたら、何時もの如く俺の膝に抱き着いていたヤトが「んむぅ?」と目覚め
「あ、御主人様おはよう……って顔紅いね?」
いつも通りの挨拶を交わして来る──但し一言が余計であるが。
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朝からとんだ羞恥に晒され、すっかり目が覚めた俺はヤトに退いてもらい、ファウストとデュークを膝から下ろすとベッドから起きて手早く身支度を整え、アンが寝惚け眼を擦って起きて来たのを見ながら顔を洗う為に宿の裏庭にある井戸に向かう事にした。
部屋から廊下に出ると階下の食堂から空腹を刺激する芳しい香りが漂って来た。とりあえず裏庭を目指そうとして歩き始めると、他の部屋の一室の扉が開いて女性が姿を現した──但し寝間着姿であるが。
長い金髪を後ろで一纏めに束ねたその女性は、やはり眠そうに目を擦りながらこちらを振り向くと
「えっ? う、ウィル?」
驚いた顔をする女性──エリナベル。そしてあちこち肌蹴て色々と露出度が高い自身に気が付くと「キャッ!」と声を上げて胸元を手で押さえながら
「お、お、お、おはよう」
と朝の挨拶をして来たので俺も
「お、おぅ、おはよう」
と返事を返す。勿論エリナの乱れた様は目を逸らしていたので、一瞬チラリと見ただけである──繰り返して言うが一瞬チラリとだけである! 大切な事なので2回言わせてもらう!!
兎にも角にも扉の影で頬を赤らめているエリナに声を掛ける。
「あーっと、何処かに行くつもりだったのか?」
「えっと……顔を洗おうと思って……」
とモジモジしながら答えるエリナ。昨日とは違う顔をしているのを見て、少しドキリとする。
「なら俺と同じだな。何なら一緒に行かないか? 俺が案内してやるよ」
俺がそう言うとエリナは少しはにかみながら頷いたので、連れ立って階下に降り井戸で顔を洗った。エリナに先を譲って釣瓶で水を汲んでやったのは言うまでもない。
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朝は続けざまに思わぬ出来事に見舞われたが、それ以上は何も無く朝飯を食べた後、『白の一角獣』と『月明かりの梟』の面々と連れ立ってギルド本部に出向いた。食事時からエリナの視線をずっと感じるのは何故だろう?
昨日と同じ部屋に俺達が揃って入ると、少し遅れて『竜牙』『蒼の深淵』『炎精霊』の面々が入室して来た。
何となくだが入って来た時にそれぞれのメンバー達に睨まれた気がするのは気の所為だろうか?
そんな事を思っていたら程なくして
「皆さんお早うございます。本日もよろしくお願いします」
作法の教育係であるファルトマンが入室し、本日の勉強会が始まった。さて、何れにしても今日で作法の勉強会も終わりだし頑張るとするか!
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──────
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「──ではこれで作法に関する教義を終えたいと思います。皆さん2日間お疲れ様でした」
そう言ってファルトマンが席を立ち、部屋を出て行くのと入れ替わりにセルギウス殿が入って来る。
「皆んな、2日間ご苦労様。不慣れな作法の勉強を良く頑張ってくれたね。まぁ今回のは国王陛下に謁見するのに必要な最低限の作法だけだけど。兎に角ご苦労様、これで君達は3日後に開かれる叙爵式までは自由だからゆっくりして欲しい。但しあまり羽目を外さない様にね。それと冒険者ギルドから今回の叙爵する冒険者パーティーには準備金が支給される事になっているので、帰る際には受付帳場の窓口に必ず寄ってくれたまえ」
そこまで聞いて誰かがヒューッと口笛を吹いた。てっきり準備は自前だと思っていただけに有難い話である。
「では忘れない様にね」と言う台詞を残してグラマスが部屋を出て行った。その後に続いて『竜牙』『蒼の深淵』『炎精霊』『月明かりの梟』の面々が、早速手続きをする為に部屋を出て行く。
部屋には俺達『黒の軌跡』と『白の一角獣』が残っていた。まぁ急いで行ってもどうせ混雑するだけだし、貰える事には変わりないんだが。エリナ達も同じ考えだったらしく「少し経ってから窓口に向かう」との事だった。
それじゃあ暫くは他愛のない話で時間を潰すとするか………… 。
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1時間ほど経って階下の受付帳場に向かい、準備金を受け取った俺達とエリナ達『白の一角獣』。丁度昼時になったので昼飯を食べるのを兼ねて、エリナ達と『銀の林檎亭』に戻る事にした。因みに準備金として受け取ったのは金貨10枚だった。相場がわからないので高いのか安いのかさっぱりわからない。
「ねぇ、ウィル達は何か準備とかはするのかしら?」
『銀の林檎亭』に向かう道中、エリナが傍に来て尋ねてくる。どうでも良いがやたら身体が近いんだが?
「うん? まぁそうだな……精々既製服を新しく買い揃えるぐらいかな?」
それに対して気軽に答える俺。何となくアンさんの視線がキツいんだが? そう言うとエリナが急にモジモジすると
「そう…… 。ねぇもし良かったら一緒に買い物に行かない? あ! も、勿論私達とよ!?」
との申し出である。そうだな……
「それは構わないが……」
そこまで言いかけて背後のアンから凍結地獄より冷たい視線を浴びせられ言葉に詰まる。俺は咳払いをすると
「と、とりあえず、その話はアン達と相談してから答えるよ」
と言うに留まった。するとエリナも「え、ええ」と若干及び腰になっている。どうやらアンさんの全てを凍てつかせる視線に気付いたみたいである。その後はお互い気不味くなり、無言のまま『銀の林檎亭』に着くまで一言も発する事は無かったのであった。
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まるで昼飯を葬送の様な重苦しい空気の中で食べた後、とある事を思い立ってアン達と出掛ける事にした。
「……一体何処に行こうと言うのかしら」
ギルド本部を出てからずっと不機嫌だったアンが訊ねて来る。
「少し付き合ってくれ……手間は取らせないから」
そう言うと口を噤む俺。一方のアンも口を噤む。途中花売りの少女から小さな花束を買い、市街地を抜けて王都の北の外れにある地区まで来ると再びアンが口を開く。
「ここ、は……?」
流石にここが何処なのか見渡せば判るだろうが、敢えて訊ねて来るアン。
「共同墓地だ」
俺は一言そう答えると墓地の門を潜り中に進み入ると、真っ直ぐ1箇所を目指し歩いていった。あとから遅れてアンとルアンジェが付いて来る。
やがて──俺は歩みを止める。そこには粗末な木の墓碑が立っているだけの墓が── 。
「ねぇウィル……このお墓はもしかして……」
「俺の母さんだ」
俺はアンに短く答えると墓碑に花売りから買った花束を捧げ、左膝をつき左手を胸の真ん中に当て頭を垂れて、深く黙祷する。暫しの沈黙のあと俺が顔を上げると両手を胸の前で組み黙祷するアンと、俺同様に頭を下げて黙祷するルアンジェの姿が。束の間、黙祷が明けアンが静かに口を開く。
「この前の話で聞いていたけど……ここにウィルのお母さんが葬られているのね……」
「ああ……ここに俺がこの手で穴を掘り、俺ひとりで葬送した。この墓碑も俺がこの手で刻んだんだ」
墓碑は刻んだ文字も掠れ多少古ぼけてしまっているが、墓の周りは雑草も無く手入れが行き届いていて、誰かが花を手向けてくれたみたいである。恐らく墓守の爺さんがキチンと面倒を見ていてくれたらしい。俺は墓碑に手を掛けると
「母さん、また来るな……」
とひと言呟き今一度頭を下げてから、そっとその場を後にした。遅れてアン達も墓碑に頭を下げると俺に続いて来る。
「ウィルはどんな祈りをお母さんに捧げたのかしら?」
俺の横に並び立ち、そっとアンが尋ねて来る。
「……当然自分が息災でいる事と、冒険者として最高位になれた事と、そして」
「そして?」
「アンやルアンジェやコーゼストやヤト達の事を話して、もう独りじゃないから安心して欲しい、と報告したよ」
それを聞いたアンは俺の右腕に自分の腕を絡めながら「そう……」と嬉しそうに呟く。後ろからはルアンジェが黙って付いて来ていた。
やがて共同墓地の門まで来ると、1人の若い女性が向こうからやって来るのが見えた。
一見すると質素なドレスを着て花束を抱え、何処かの商人の娘の様な出で立ちだが、その身に纏う雰囲気は明らかに貴族のものである。鍔の広い帽子にベールが掛かっていて顔はわからないが── 。そんな女性が俺達に軽く会釈しながらすれ違い────
「ウィル兄……様……?!」
すれ違いざまにそんな台詞を投げ掛けてきた──ちょっと待て! その声は……!?!
思わず驚いて振り返る俺に、その女性がベールを捲り
「あぁ、やっぱり! ウィル兄様ではありませんか!!」
紅玉色の瞳を輝かせ、喜色に溢れた表情で抱き着いて来た! その拍子に被っていた帽子から纏めていた白金髪の髪が零れる。
「あ、アドルか?!?」
俺は胸に抱き着き擦り寄る女性──アドルフィーネに対し、辛うじてその名を呼ぶ事しか出来なかったのだった。
何と言うか……コーゼストは意外と大胆?! そしてあらぬ姿をウィルに見られたエリナベルの様子に変化が?
前前々回に話題に登ったのはウィルの異母兄妹のアドルフィーネの事でした! この妹が嵐を巻き起こします!
☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」も連載中です! 地球のの民間軍事会社の傭兵の男性クリスと、異界から来た大魔導師の女性ルーツィアの2人が主人公の物語です! 是非ともよろしくお願いします!
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