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ハプニングは突然に

本日は第九十話を投稿します!

ウィルの独白が終わった後のアン達の反応と共にトラブルの予感が……!

 -90-


 俺の長い独白が終わり、誰も(しわぶ)きひとつ立てずにいた。


「そんな過去があったのね……」


 長い沈黙のあと、アンがぽつり(つぶや)いた。その目に(うっす)ら浮かんでいたのは涙だったのか。


『でも過去に()ける様々な経験がマスターが権力を嫌う理由なのだと理解出来たのは僥倖(ぎょうこう)でした。あと女性に対する惰弱(ヘタレ)な理由も』


「ちょっと待てコーゼスト、その惰弱(ヘタレ)ってのは何なんだ?!」


『事実ではありませんか。アンに対する態度を見ていればわかります』


 むぐっと反論に(きゅう)する俺と顔を紅くするアンとドヤ顔のコーゼスト。何とも言えない空気に包まれる中、ルアンジェが口を開いた。


「でも話してくれた事には感謝」


 そう言ってこちらに薄い笑みを向けてきた。何となくだがコーゼストの突っ込みで重苦しかった空気が(なご)んだ気がする──不本意ではあるが。


「まぁ良くわからなかったけど、御主人様(マスター)が大変だったと言う事だけはわかったわ!」


 ヤトはヤトでそんな風に胸を張って元気良く答える。ある意味鷹揚(マイペース)なヤトである。


「まぁ過去は過去であり、今の俺はここに居る俺だ。それ以外何者にもなれないからな」


 そう言う俺は自身の台詞に少し照れを感じ、思わず頬を()いていた。


「そうね。誰も産まれは選べないけど、(おのれ)の生き方は自由に選べるんだからね」


 長い睫毛(まつげ)に付いた涙を(ぬぐ)いながら、アンが俺の言葉に言葉を(つな)げる。


「私も己の生き方を己自身で選んだから……苦労はするけど後悔はしてないわ」


 そう言いながら(うる)んだ翠玉(エメラルドグリーン)の瞳を俺に向けて微笑むアン。


 その姿に思わずドキリとしたのは秘密である。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「でもそれなら、ウィルがオリヴァー達と何処(どこ)で知り合ったのか不明」


 ルアンジェが的確な質問を投げ掛けて来た。確かに今の話には出なかったからな…… 。


「ああ、それはですね。私とイグリットはウィル坊ちゃんの母君マリアネラ様の使用人だったのです。マリアネラ様が本宅に上がられたのを契機に2人共に(いとま)を頂き、この『銀の林檎亭』を開いたのです。それで坊ちゃんは開店当時に何度かお忍びでお泊まりになられていたんですよ」


 俺が答える前にオリヴァーがルアンジェの疑問に回答する。それを聞いたルアンジェは「ん、納得」と答えに満足したみたいである。ただオリヴァー、呼び方が坊ちゃんになっているぞ…… 。


「それで──ウィルさんは向こうのお屋敷には行かれてないんですよね?」


 不意に話が変わりさっきの質問を繰り返すイグリット。


「いや……そもそも行く必要も無いからな」


 俺が疑問符を貼り付けたみたいな顔で答えると、イグリットとオリヴァーが顔を見合わせ頷き合い


「実は……お屋敷の方で騒動がありまして、ランベリク様とダニエリク様は廃嫡(はいちゃく)されました」


 とオリヴァーが目の前で爆裂魔法(エクスプロージョン)級の衝撃発言をしたのである!


「なんだって!? あの2人が()()されただと?!」


 衝撃を受け思わず椅子から立ち上がる俺。()る様に立ったので大きな音を立てて倒れる椅子。アンも同様の衝撃を受けたみたいに硬直(フリーズ)している。


「……一体何があったんだ?」


 何とか気持ちを落ち着かせてオリヴァーに(たず)ねると


「そうですね、何処(どこ)から話していいものか……」


 そう断ってオリヴァーの口から訥々(とつとつ)と語られた話は────


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺が王都を離れてから1年後、ヴィルジール伯爵家に王城から司法官が伯爵家の継嗣(けいし)(跡取り)に問題有りとの疑義(ぎぎ)の確認の為、騎士団を引き連れてやって来たのだそうだ。


 何でもランベリクとダニエリクの2人が卑劣(ひれつ)な手を使い、俺の母マリアネラと俺を亡き者にしようとしたとの密告があったらしい。


 司法官は調査の前に被疑者に神の名において宣誓(せんせい)させるのだが、なんと2人はそれを拒否したのだ。つまりそれは自分達の罪を認めた事に他ならないのであり、即座に同行の騎士団に捕縛された2人は、その日のうちに王城に護送され査問官による厳しい取り調べを受け、(おの)が罪を全て認めた。


 それによりランベリクとダニエリクの2人は廃嫡され、翌日には犯罪奴隷として鉱山での重労働刑に(しょ)されたとの話だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺はオリヴァーの話を(なか)呆然(ぼうぜん)として聞いていた。まさか俺が伯爵家を去った後にそんな事があったとは。だがすると──


「──今の伯爵家は誰が()り仕切っているんだ?」


 当然の疑問を口にする俺。だがそう言いながらも1つの可能性に思い(いた)り、思わず心の中で打ち消した──そんな事は無いはずだと。


 だがオリヴァーの言葉がそんな思いを呆気(あっけ)なく打ち砕いた。


「はい、今はアドルフィーネ様が国王陛下から御承認されて家督を継がれております」


「アドルがか?!?」


 あまりの衝撃に思わず声が上擦(うわず)る。ハッキリ言って、あの2人が廃嫡された話より衝撃を受けたのは確かである。


「それが……アドルフィーネ様には()()()()()()がお有りだったみたいで、国王陛下はその才をお認めになられ領地運営をお任せになられたと聞き(およ)んでいます。また周りの者が色々と手助け(フォロー)しているみたいなのです」


 オリヴァーの話を聞いて、俺はルアンジェがいつの間にか戻しておいてくれた椅子に力無く腰掛ける。


 ()()アドルフィーネにそんな才能があった事には驚いたが、それ以上に女伯(コンテス)になっていた事にである。まぁ俺とは歳が3つ違いなので今年で22歳になる筈だから、問題は無い……のか?


「それで……アドルは元気なのか?」


 呼吸を整えてオリヴァーにそれだけ訊ねる。思えば最初に聞くべき事だったと自戒しながら。


「それはもう、お元気でいらっしゃいます! それにとてもお綺麗になられましたよ!」


 問いに答えたのはオリヴァーでは無くイグリットだった。そう言えばイグリットは幼い頃のアドルフィーネと良く遊んでいたな…… 。


 まぁ俺が伯爵家を出る前に最後に会った時ですら美少女だったんだから、さぞかし美人になっているんだろう……って、今のアドルフィーネを知っていると言う事は!?


「……まさかアドルは『銀の林檎亭(ここ)』に来ているのか?!」


「いえいえ、前に一度だけお見えになられただけですが?」


 内心焦りながらアドルフィーネの来訪を訊ねた俺に、オリヴァーが安心できる答えを返してくれた。それを聞き今度は内心ホッと胸を()で下ろす。少なくともここに居てもアドルフィーネに会う事は無さそうである──が今までの話を聞いてふと、ひとつの疑問に行き着いた。


「確認なんだが……アドルは結婚して無いの……か?」


「はい、(いま)だ婚約者も居らずお独りだそうですよ」


 オリヴァーからの返答を聞いて俺は思わず頭を抱えてしまった。俺が伯爵家を去ってから9年経って、流石に大人しく結婚したものだと思っていたんだが──まさか未だに俺に未練を持っているのか?!


 これは何か揉め事(トラブル)の予感しかしないんだが?!?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 とりあえずこの話はここまでと言う事にして俺は話題を変える事にした。


「そう言えば子供は?」


 ふとオリヴァー達夫婦の事が気になって、ちょっと不躾(ぶしつけ)な事を聞いてみた。


「おかげさまで女の子と男の子の2人に恵まれました。8歳と7歳ですが何時(いつ)も夕方から店を手伝ってくれてますよ」


 少し照れながらオリヴァーが嬉しそうに答える。いつの間にかイグリットは奥に引っ込んでいた。


「そ、そうか、遅ればせながらおめでとう」


 俺もつられて照れながら遅れた祝福の言葉を送り、照れ隠しでまたもや話題を変える。


「しかし、ここは少し奥まってるとは言え来店するお客さんが少ないと思うんだが?」


 俺の立て続けの不躾な質問に、今度は奥から戻ってきたイグリットが答えた。


「いつも午下(ごか)(午後)の始まりの頃はこんな感じですよ。泊まりのお客さんはだいたい午下3時を過ぎると見えられますねぇ」


「つまりは俺達が早く入館手続き(チェックイン)をしただけか。それにしても最初にヤトを見て、良くパニックにならなかったな?」


 またひとつ納得し、別の質問を投げ掛ける俺。


「流石に固まってしまいましたが、魔物調教師(デモン・テイマー)の方も(たま)に泊まられるので問題はありません。ただ流石にラミアを連れてこられたのはウィルさんが初めてですけどね。それに妖精をお連れの人も初めてです」


 この質問にはオリヴァーが苦笑混じりに答える。一方話題のヤトは「私がどうかしたの?」とキョトンとした顔でこちらを見ていた。どうでも良いが、さっき奥に引っ込んだイグリットに焼いてもらっていたステーキ皿から手を離せ。そしてもう一方の話題の主コーゼストよ、何故(なぜ)にそんなにドヤ顔なんだ?!


「そうか。(しばら)厄介(やっかい)になるつもりだったから気にしていたんだが……」


 (ちな)みに他の宿泊客にしても大体が冒険者なので、ヤトが従魔(フォロー)だと判ればパニックになる事も無いから大丈夫だとオリヴァーが気を利かせて言ってくれたので、ここはその言葉に甘える事にした。


 そして改めて1週間の予定で料金を前払いする。大部屋1泊銅貨6枚、従魔(フォロー)の分は1体1泊鉄貨7枚なのでファウスト達の分も含め銅貨2枚と鉄貨1枚、〆て銀貨5枚と銅貨6枚と鉄貨7枚の支払いである。


 正直言って用事が済んだら早くラーナルー市に帰りたい。長居をすればするほど揉め事(トラブル)に見舞われる確率が高いからだ。でもまぁ後5日は居なくてはならない訳だし、何事も無い事を願うばかりである。


 そんな事を思いながら俺は、皆んなと一緒に遅い昼飯をいただく事にした。(すで)にヤトは3皿目のステーキを受け取っていたが──あまり食べると追加料金が取られるんだが?!


 多分明日からは多忙になるだろうしな──面倒くさいが。



ウィルのある意味壮絶な過去の話でした。とかく権力争いは醜いものです。

次回からは叙爵に向けての準備の話をします。



☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」新連載開始しました! 隔週木曜日15時更新しています!

民間軍事会社の傭兵の男性と異界から来た大魔導師の女性の2人が主人公の物語です。是非一度御一読下さい!


http://ncode.syosetu.com/n259fr/

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