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回顧と古傷

本日は第八十九話を投稿します!

今回は予告通り、ウィルの過去が語られます。話の後半はウィルの独白のみになります。

 -89-


 部屋に腰を落ち着かせてから階下に降りて、オリヴァーとイグリットに今までの事を洗いざらい話す。


 コーゼストの話は勿論(もちろん)の事、ヤトやファウストそしてデュークの従魔(フォロー)の事、ルアンジェの事、それにアンとの出会いも交えた話をだ。


「──そして無事Sクラスに昇級し、俺達は今回叙爵式(じょしゃくしき)の為に久しぶりに王都に来たんだ」


 ()(つま)みながらも長い話を何とか締め(くく)る俺。喉を(うるお)す為に飲んだ薄荷(ハッカ)水が染み渡る。


「坊ちゃんも本当に様々な経験をされたんですね……」


「本当に……私達の思いもよらない事ですねぇ……」


 オリヴァーとイグリットは俺の話をそれなりに理解し、呆れとも感心ともつかない溜め息を漏らす。


「それでコイツが、さっきの話に出たコーゼストだ。見た目はこんな()()()()()をしているが、言う事は()()えげつないぞ」


 俺は左肩にちょこんと座るコーゼストを指差しながらオリヴァー達に紹介と言う名の注意喚起(ちゅういかんき)をする。


『何ですか、その紹介の仕方は?──改めてオリヴァー様とイグリット様、(よろ)しく御願い(いた)します』


 片やコーゼストは不機嫌としつつもオリヴァー達にキチンと頭を下げると言う器用な事をしていた。


「それとこいつが俺の従魔(フォロー)のラミアのヤトだ。こんな(なり)だが根は良い奴だから安心してくれ」


 次にヤトに手を向けてオリヴァー達に紹介する。


「さっきは悪かったわ! 御主人様(マスター)(いち)(しもべ)のヤトよ! よろしくね!!」


 ヤトはヤトでオリヴァー達に謝罪を入れつつ元気良く挨拶をする。それを見ていたコーゼストは


『何でマスターは私の紹介とヤトの紹介に格差をつけるのでしょう?』


 とジト目で俺を(にら)んでくる。


 今までの自分を(かえり)みると良いぞ、コーゼスト!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁ……それにしてもウィル坊ちゃんがSクラス冒険者とは……」


 アンとルアンジェの紹介をひと通り終えて、改めてオリヴァーが感慨深げに(つぶや)いた。

 ついさっきルアンジェが自動人形(オートマトン)だと聞いた時より驚きの感情が込められているのは何故だ?


「俺が一番驚いているんだけどな……」


 これは嘘偽り無く事実である。それは昇級から1ヶ月半()った今でも同じだ。


「大丈夫! 御主人様(マスター)は強いんだから!」


「ん、そうウィルは強い」


「ですね」


 ヤト・ルアンジェ・アンが俺への賞賛を異口同音に言い、俺は苦笑を浮かべた。


「はははっ、坊ちゃんは皆さんに(した)われておりますなぁ」


 オリヴァーが笑顔でそんな事を言うので俺は苦笑を深める。その呼び方はなぁ…… 。


「なぁオリヴァー、その『坊ちゃん』って止めないか? 俺ももう25歳になったんだが……」


 少し照れて頬を()きながら懇願(こんがん)してみると、オリヴァーはふむ、と考えて


「それでしたら……『ウィル様』では如何(いかが)でしょうか?」


「いや……『様』も要らないんだが」


「「いえいえ! そうはまいりません!」」


 俺とオリヴァーの会話にイグリットも参加して来て2人ともに「そうはまいりません」の一点張りだったが、何とか納得してもらい「ウィルさん」にしてもらった──やれやれ。


『良かったですね。ウィル坊ちゃん』


 コーゼストがにやにやしながらわざとらしく言ってくる──さっきの意趣返しかよ?!?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そう言えば、(ぼっ)ちゃ……ウィルさんはお屋敷にはまだ行かれてないんですね」


 話の途中に来た宿泊客の相手を終えたイグリットがそんな事を言ってきた。仕事の邪魔をしているみたいで申し訳ない…… 。


「? ウィル、何、お屋敷って?」


 イグリットの台詞を聞いたアンが疑問を投げ掛けて来る──まぁ、覚悟はしていたが。

 一方、アンの反応を見たイグリットは失言だったと気付いたみたいで盛んに「申し訳ございません!」と頭を下げる。それを(なだ)めながら


「さっき銀の林檎亭(ここ)に入る前に少し話したが……この王都は俺が生まれた場所なんだよ。コーゼストには少し話した事があるんだが俺は貴族の出なんだ。それも伯爵家のな……」


『その話は一番最初にマスターと出会った時に私も少し聞いていましたね。(ただ)(いま)だ一度も詳しく聞いてませんでしたが』


 俺の肩に腰掛けながらコーゼストが思い出した様に手助け(フォロー)して来るが……そんなどうでもいいフォローは要らんぞ、コーゼスト?


「そうだな……良い機会だからアン達には話すとするか……まぁ(ほとん)どは、俺の身の上話なんだが……」


 一瞬逡巡(しゅんじゅん)したが、俺は昔話を語る事にした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺の生まれた家は王都でも代々由緒のある貴族の家だった。その名はヴィルジール伯爵家。宮中伯として内務を(つかさど)って来た陪臣(ばいしん)だった。


 父親はサンドモン・フォン・ヴィルジール伯爵。代々続いてきた名家の当主であり、貴族としては少し覇気が無いが世間並みには優しい父親だった。そして母親はマリアネラと言う()()()とても優しい母親()()()


 俺には兄妹が居た。一番上の兄はランベリク、二番目の兄はダニエリク。下の妹はアドルフィーネ。この3人とは()()()()()()()()()()()()。3人とも父サンドモンの()()リディアーヌが産んだ子供達だ。俺の母マリアネラは元侍女(メイド)で父の寵愛(ちょうあい)を受け俺を身篭(みごも)り、第二夫人──有り体に言うと(めかけ)になった身なのだ。とは言え本妻であるリディアーヌとは幼少の頃から傍仕(そばつか)えの侍女(メイド)だった事もあり、関係は良好だったみたいであるが。


 リディアーヌの子であるランベリクとダニエリクとも幼少期は良好な関係を築いていたのだが、リディアーヌがアドルフィーネを産んでから(いびつ)な関係になってくる。物心がついたアドルフィーネが実の兄達より俺に(なつ)き、遂には恋愛感情を持ってしまった事が最大の原因であった。更に3人の母親であるリディアーヌが若くして逝去(せいきょ)した事が事態に拍車を掛けた。リディアーヌを失った事でアドルフィーネの(たが)が外れてしまい俺に益々一方的にのめり込む様になり、それにより2人の兄は俺を嫌悪し、果ては俺を憎悪の対象と見るまでに(いた)ったのである。


 父のサンドモンはその事態を(うれ)いていたが、亡き妻リディアーヌの面影を2人の息子と1人娘に見ていた手前強く言えずにいた。またリディアーヌ亡き後、後妻として正式に妻になった俺の母マリアネラとの関係も、亡き妻リディアーヌへの慕情(ぼじょう)とマリアネラへの愛情の板挟みになっていた事もあり決して良好な関係とは言えなかった。


 俺は妹アドルフィーネから向けられる恋愛感情と2人の兄達から向けられる憎悪に戸惑いながらも、それ等から懸命に守る母マリアネラの庇護(ひご)の下、それなりに真っ直ぐ成長出来た──と思う。少なくともアドルフィーネに対しては妹に向ける愛情以外の物は無く、2人の兄達に対しても度々剣術の稽古と称して喧嘩を吹っ掛けられても(ことごと)く返り討ちにしていた。まぁそれが兄達の憎悪を更に増す事にはなっていたのだとは思うのだが。


 そして俺が15歳の成人を迎える頃、父サンドモンは床に()せる事が多くなって来た。恐らくは子供達の確執や妻マリアネラとの感情的なすれ違いで心労が溜まった事が起因するとは思う。


 (いず)れにしても当主である父が病床に臥せる様になると問題になったのは後継者は誰か? と言う事であった。当初は長兄であるランベリクが順当に跡取りとして次期当主となり、次兄のダニエリクはランベリクの補佐として2人で伯爵家を支える()だったのだが、いざと言う時に表面化してきたのは2人の兄達の能力の低さだった。ランベリク・ダニエリク共に内務を()(おこな)う為の知識も教養も極めて低かったらしく、武術に関しても抜きん出た才能も無かったらしい。それにより異母兄弟である俺が(にわか)に注目される事になった。


 本来伯爵家の三男が家督を継ぐ事は有り得ないのだが、当時勉学と武術鍛練(たんれん)(たゆ)まなかった俺は、兄達より優れていると看做(みな)されたのだ。その当時俺は『勇者』を目指していた事もあり権力等には一切興味など無かったのだが、周りの一部の()()()は俺を担ぎ上げようと色々と画策していたみたいであった。


 当然その事は兄達の知る所となり、焦った兄達とその取り巻きはとうとう俺を亡き者にしようと暴挙に出たのである。幾度となく食事や飲み物に毒を盛られたのは言うに及ばず、果ては当時住んでいた屋敷の離れを金で雇ったならず者達に襲撃させたのだ。その襲撃により母マリアネラが俺を(かば)って瀕死の重傷を負い、俺の腕の中で息を引き取った。母に深手を負わされた俺は()()()()()()()ならず者から兄達の暴挙を知り激高、2人の兄達に報復しようとしたが母の「母は違っても同じ父親を持つ兄弟同士の殺し合いは見たくない」との今際(いまわ)(きわ)の言葉に従い、病床の父サンドモンに俺との縁を切り、兄達を後継者に据える事を諌言(かんげん)し返事を聞く事無く、母マリアネラの亡骸を荷車に乗せ伯爵家の屋敷を出たのだった。


 勿論兄達には真実を知っている事を告げ動揺する2人の利き腕の(けん)を断ち切り、(ささ)やかな復讐はしてきたのは言うまでもない。


 俺は母を王都の外れにある共同墓地に埋葬し、墓地の隣りにある墓守の家に(しばら)く世話になる事にした。その間、兄達が何かして来るのでは無いかと警戒していたがそんな事も無く、やがて精神的に落ち着きを取り戻した俺は「1人で生きる」為に冒険者ギルドに出向き登録したのだった。勿論ヴィルジールの家名は捨て、母の家名のハーヴィーを名乗る事にして。


 そして約2ヶ月の研修期間を終えて晴れて冒険者になった俺は、墓守に母の墓の世話を頼みながら母が万が一に備えて貯めていた金貨を全て渡し、1人王都から旅立ったのだった──17歳になったばかりの頃である。


 その後、風の便りに父サンドモンが逝去し、ランベリク達が当主に()いた事を知ったのだった。


 ()()()()()俺には関係無い事だが──── 。



今まで語られなかったウィルの過去。これがウィルが権力を嫌忌する理由の一端でもあります。

今回は重い話になってしまいましたが、次回はゆるい話にしたいと思います。


☆「なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?」第六話にイラストレーター椋木三郎さん作の主人公ウィルのイラストを載せました! 是非過去作品もお読み下さい!


☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」新連載開始しました! 民間軍事会社の傭兵の男性と異界から来た大魔導師の女性の2人が主人公の物語です! 隔週木曜日15時に更新しています! 是非ともよろしくお願いします!

http://ncode.syosetu.com/n259fr/



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