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再会の王都

本日は第八十八話を投稿します!

今回より話の舞台は王都に移ります! いよいよウィル達が叙爵される事になりました!

 -88-


「グラマスから連絡?」


 ヤトの武具と刀剣(セイバー)を受け取ってから1週間後、ギルドの修練場でお馴染みの訓練をしていたらルピィが大慌てで呼びに来た。


「そうなんです! 今、遠方話(ディスタンスコール)でウィルさんを呼び出されています!」


 何なんだ、いったい? わざわざ遠方話(ディスタンスコール)で呼び出すとは…… 。


「わかった、直ぐに行く──皆んなも来てくれ」


 答えを返しながら俺はアン以下のメンバーに声を掛けて、一緒にルピィの後に付いて行った。

 あからさまにホッとした表情を修練場にいた何人かがしていたのが何故か引っ掛かるが。


 何はともあれ急がないとな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ルピィの後に付いて行くと2階の執務室の隣りの部屋に案内された。部屋はそんなに広くはなく中央に机と椅子が置かれているだけであった。机には大振りの魔水晶(クリスタル)()められていてゆっくり明滅している。


「その椅子に座って魔水晶(クリスタル)に手を掛けてください」


 案内してきたルピィの言う通りに魔水晶(クリスタル)に手を掛けると


『来たね。急がせてしまったかな?』


 机からグラマスの声が響いて来た。思わず後ろを振り向くとルピィが「そのまま話してください」と小声で言ってくる。


「──あーっと、グラマス、聞こえるか?」


 俺はおずおずと話し掛ける。すると向こうからは


『うん、良く聞こえているよ……そう言えばウィル君は初めて使うんだっけね、遠方話(ディスタンスコール)の魔道具』


 今更気付いたみたいに話してくる。一方俺の後ろでは──


「何コレ? ヒトの声が聞こえてくるんだけど!?」

「しーっ! ヤト、静かにしないと!」

「ん、静粛に」


 ……若干3名が(かしま)しい。


「すまない、グラマス。後ろが騒がしくて」


『うん? あぁ、この遠方話(ディスタンスコール)魔水晶(クリスタル)に手を掛けた人以外の声は聴こえない様になっているから大丈夫だよ』


 その言葉を聞いて背後からあからさまにホッと溜め息が3つ聞こえた。


「それで、何か急用なのか?」


 とりあえず気を取り直して用件を聞く俺。


『うん、実は先程王城から君達の叙爵(じょしゃく)の日取りの連絡が来たんだよ。だからそれを直接伝えたくてね』


 グラマスから詳しく聞いた話では──叙爵式は今日から3週間後、場所は王都ノルベールの王城の大広間でこの半年でSクラスに昇級した冒険者達が一堂に会して行われるのだそうだ。


 なお関係者は式典が行われる3日前には王都に居なくてならないらしい。正直王都に長居はしたくないのだが、今回ばかりは覚悟を決めなくてならないみたいである。


『勿論式典に参加する為の最低限の作法(マナー)はマスターして貰わないといけないけど、それはこちらで手配しておくからね。ただその為に式典の5日前には王都に来て欲しいんだ』


 どちらにしても(すで)に逃げ道は断たれているみたいであるし、何より良く考えたら昇級から1ヶ月半も経っていた。


「了解した。では式典5日前にそちらに向かう事にする」


 俺は溜め息をつきたくなるのをグッと堪え、グラマスに返答した。


『ではそう言う事で。待っているよ』


 遠方話(ディスタンスコール)の魔道具の魔水晶(クリスタル)が明滅を止め、グラマスとの会話は終了した。俺が「はァ〜〜〜」と長い溜め息を吐き出し後ろを振り返ると


「ウィルさん、おめでとうございます! いよいよ叙爵式が決まりましたね!!」


 とやたら興奮状態(ハイテンション)なルピィが瞳をキラキラさせて言葉を掛けてきた。


「では私も急いで準備しますね!」


 そして一緒に行く気マンマンである。


「いや、ルピィは関係者じゃないだろ?!」


「ヱッ?! だって私、第二夫人ですよ!?」


 ちょっと待て! 何時(いつ)俺はルピィを(めと)った?!?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「良く来たね」


 約束通り連絡から16日後──つまり式典5日前に王都ノルベールの冒険者ギルド本部を訪れた。まぁ何時(いつ)も通りに非常用転移陣(ポータル)で来たんだが。そして何時も通りに笑顔で出迎えてくれるグラマスを見て、俺は少しだけ肩の力が抜けた。


「とりあえず作法(マナー)に関しては明日から勉強してもらうとして、今日はゆっくりしてもらおうかな? あ、あと君達の身元保証人は僕がさせてもらうからね」


 それを聞いてとりあえず感謝の言葉を言おうとしたら


「ねぇ、グラマス! 私もそのじょしゃくしき? とかに出たいんだけど!?」


 ヤトが後ろから身を乗り出して来た。お前はナニ無理難題を吹っ掛けている?!


「うーん、悪いんだけどヤトさん達従魔(フォロー)には遠慮して欲しいんだけどね……一応王様やお偉いさん達に会わなくてはならない訳だし、第一王城は魔物が入れないし……」


 一方のグラマスは苦笑しながら、やんわり待ったをかける。それを聞いたヤトはまた──


「そう? それなら仕方ないわね! ()()()ガマンしてあげる!!」


 ──短気を起こさなかった?! 簡単に引き下がったヤトに逆に一抹の不安を感じるのは何故だ? それに何だ、()()()って?!


「そ、それは良いとして──コーゼスト(こいつ)はどうするんだ?」


 俺は話題の矛先を無理矢理変えて、グラマスに横でふよふよしている妖精(フェアリー)コーゼストを指差しながら質問する。


「それは大丈夫。(すで)にコーゼスト殿の話は国王陛下に奏上(そうじょう)申し上げてあるから。まぁ実際にコーゼスト殿を目の当たりにしたら面食らうだろうけどね」


『お気遣い感謝致します』


 答えるグラマスの顔は悪戯っ子の顔そのものだった。この人も大概(たいがい)だな。そしてコーゼストよ、さも当たり前みたいな顔で礼を述べるな。


「それで、ウィル君達は泊まる宿とかは決まっているのかい?」


 今度はグラマスが話題を変えて尋ねて来た。


「まぁ、一応アテはあるんだが……」


「そうかい? もし万が一アテが外れた時には直ぐに言ってくれればこちらで手配しても良いからね」


 グラマスはグラマスなりに色々と気遣ってくれているのだろう。その好意に感謝の意を告げて俺達はギルド本部を辞する事にしたのだ。


 さて、と……まだやっていれば良いんだが。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ギルド本部を出て目の前の大通りを西に向かうと、市場(マーケット)がありその(はず)れに宿屋が乱立していた。


「ここらも昔とあまり変わってないな……」


 俺がそう(つぶや)くと、横に居たアンが不思議そうな顔をして聞いてきた。


「昔って……ウィルは以前王都に来た事があるの?」


 一瞬、答える事を躊躇(ちゅうちょ)したがありのままを話す事にした。


「いや……俺は()()()()()()()()()()。この王都は俺の()()()()()()()()()()


「えっ?!」


 答えを聞いて驚くアン。続けて何か声を掛けようとしていたが「着いたぞ」と言う俺の言葉に黙ってしまった。まぁその辺の話は後にするとして──


「……まだやっていたんだな」


 見上げた先には『銀の林檎亭』と言う古びた看板が風に揺れていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 いきなりヤトを連れたまま入って驚かす訳にもいかないので、先ずは俺とアンの2人で店内に入る事にした。


『銀の林檎亭』の門扉を開けて中に入ると少し広い玄関(エントランス)と受付帳場(カウンター)があり、玄関(エントランス)の奥は飲食が出来る空間(スペース)になっている。帳場(カウンター)には髪に少し白いものが混じる中年男性が座って下を向き何かしていた。俺達の気配に気付いたらしく「いらっしゃい」と言いながら顔を上げ──俺の顔を見て静止(フリーズ)した。


「──久しぶりだな、オリヴァー」


 俺に「オリヴァー」と呼ばれた受付の男性は目を見開き


「う、う、ウィル坊ちゃん!?!」


 と(ようや)く再起動して帳場(カウンター)から転がる様に出てくると、俺の両手を握りながら


「ご無沙汰しておりました!! 何年ぶりでしょうか?! 大きくなられましたなぁ……」


 と感慨深げである。


「イグリットは元気か?」


「そりゃあ勿論! おーーい、イグ! 珍しいお客さんがお見えになられたぞ!!」


 俺が尋ねると思い出したみたいに帳場(カウンター)の奥に声を掛けるオリヴァー。ほど無くして呼ばれて奥から出てきた女性が


「どうしたのオリヴァー? 珍しいお客さんって──」


 そう言いながら俺の顔を見てオリヴァーと同じ様に静止(フリーズ)したのだった。そしてやはり転がる様に駆け寄って来て、両手で俺の手を取りながら


「ぼ、坊ちゃ〜〜ん!!! お久しぶりですですっ!!」


 と大きな声を上げる。なんかついさっき見たな、この風景…… 。


「本当に久しぶり……イグリットも元気そうで何よりだ」


「そりゃもう、私もオリヴァーも元気にやらせていただいてます!! それで今日はお泊まりですかっ?!」


「?! お、おいおい、イグ!? 俺の仕事を取るなよ?!」


 イグリットが直ぐに宿泊の確認をしてきて、それを聞いてオリヴァーが思わず突っ込んで、誰とはなく笑いに包まれる。


「はははっ、本当に変わってないな2人とも」


 ひと通り笑ってから改めてオリヴァーとイグリットに声を掛ける。


「そう言う坊ちゃんは本当に冒険者になられたんですね」


「ほんと立派になられて……」


 オリヴァーとイグリットは俺をしげしげと見ながら沁々(しみじみ)(つぶや)く。俺はいつの間にか()け者扱いしていたアンを手招きして(かたわ)らに呼ぶと


「おかげでな。紹介しよう、この人はアン。俺とパーティを組んでくれている女性だ。アン、この2人は俺が王都に居た時にとても世話になった人達なんだ」


 双方に手短に紹介する。


「初めまして、アンヘリカと言います。御二方とも(よろ)しくお願いします」


 アンが2人に頭を下げると、オリヴァーとイグリットもアンに対し「これはこれはご丁寧(ていねい)に……」と頭を下げる。


「あと2人……外に待たせてあるんだが、呼んでも良いかな? 1人はその……色々変わっていてな」


「おや?! まだメンバーの人達がいらっしゃったんですか? 大丈夫ですよ、多少変わられていても! ここにはそうした人もたまに見えられますし」


「それじゃあ……」


 2人に断って外に待たせていたルアンジェとヤトを呼び寄せる。俺の言葉にアンが引き()っていたが…… 。


「……お邪魔します」


「へぇ?! なかなか良い宿屋じゃない!」


 ルアンジェは兎も角、案の定ヤトを見て固まるオリヴァーとイグリット。いち早く再起動したオリヴァーが


「ぼ、坊ちゃんは魔物調教師(デモン・テイマー)になられたんですか?!」


 当然の(ごと)く疑問を投げ掛けてくる。まぁそう言う反応になるよな…… 。


「いや、まぁ、そう……であって、そうでは無いんだが」


「「???」」


 頭の上に疑問符を浮かべる2人を何とか説得して、改めてこのメンバーで宿泊したい(むね)を伝えると『銀の林檎亭』一番の広さがある大部屋を勧められた。何でも大所帯の冒険者パーティの為に特別に(しつら)えた部屋らしく、何と8人も一度に泊まれるのだそうだ。なのでその部屋を頼み、何とか腰を落ち着かせる事が出来たのである。


 まぁヤトの顕現(けんげん)を解いてしまえば良いのかも知れないが、それだとあとから説明する羽目になるし、結局遅いか早いかの問題なのでオリヴァーとイグリットには最初に全て話してしまおうと思い至ったのだ。


 さて、と……ひと息ついたら2人にちゃんと説明しないとな。あとアン達にも…… 。


 正直、面倒な事この上ないんだが…………はァ。


叙爵の為に王都ノルベールに赴いたウィル達一行。どうやら王都では色々あったみたいです。

そして次回はウィルの過去の一端が語られます!



☆「なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?」第六話にイラストレーター椋木三郎さん作の主人公ウィルのイラストを載せました! 是非過去作品もお読み下さい!


☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」新連載開始しました! 民間軍事会社の傭兵の男性と異界から来た大魔導師の女性の2人が主人公の物語です! 隔週木曜日15時に更新しています! 是非ともよろしくお願いします!

http://ncode.syosetu.com/n259fr/

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