緋鎧の蛇鱗族 〜薙刀と刀剣と〜
本日は第八十七話を投稿します!
ドゥイリオの所に頼んでいたヤトの軽鎧の調整が出来上がったみたいです!
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カチャカチャ、カチャ。
ヤトの肢体に調整された緋色の軽鎧が次々装着されて行く。そして蛇身にも幾重にも重なり合った部品が装着され──
「どうだヤト? 着け心地は」
最後の微調整を行っていたドゥイリオがヤトに尋ねた。ヤトは最後に兜──鉢とスカートの様な襟防具が一体化したサーリットを被ると、首や肩や上半身をあちこち動かし、最後に蛇身をうねらせながら試用場を滑るように一周してきて
「うん、大丈夫! 身軽に動けるわ!!」
と、なかなかの高評価を口にする。改めて思うんだが、ヤトの蛇身って結構素早く動けるんだな。
「そうか! 蛇の身体部分には鎧が干渉してないか?」
片やドゥイリオは飽くまでもヤトの些細な違和感に注視している。「特に引っ掛かったりしない」と言うヤトの言葉を聞いて漸く愁眉を開いた。
「御苦労さん、ドゥイリオ……ヤト、良かったな」
何事も不都合も無く俺もホッとしながら2人に声を掛ける。
「それにしても……良く出来ているよな」
俺はヤトの蛇身部分の重なり合う鎧の構造に感心すると、ドゥイリオが
「そこはな一番苦労し、そして一番工夫した箇所だ。元の形を突き詰めていった結果だな! 名付けて蛇腹ってんだ!」
やたら苦労の所に力を入れて自慢げに話してくる。
「蛇腹?」
「そう、蛇腹だ!」
その名付けを聞いて思わず聞き直す。ヤトの蛇身に蛇腹の鎧……何かの駄洒落にしか聞こえないんだが? 同じ蛇だけに。
因みに店に着いて早々、妖精コーゼストをドゥイリオに見せたが「こいつは凄いもんだな……」とやたらあっさりした反応だった。まぁ騒がれるよりマシではあるが。
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気を取り直して依頼してあったヤトの武器を受け取る。本当なら随分前に受領していた筈なのだが、色々あってすっかり遅くなってしまった。
何はともあれドゥイリオからヤトに手渡されたのは、柄の長さ1.4メルト、刃渡り30セルトの馴染みになった薙刀の姿形をしていた──但し最初のより短めであるが。
「言われた通りに刃部分と柄は短めにしたぞ。柄は少し太めにして滑り止めを施したから握りやすくなっているはずだ」
そうドゥイリオから説明を聞きながらヤトは新しい薙刀の柄の感触を何度か確かめ、今度は徐ろに刺突と斬撃の動作を何度か繰り返し
「うん! しっかり握れていいわね、これ!!」
これにもなかなかの高評価を付けたのである。
「あとは……ヤトの着想もちゃんと形にしてあるぞ。そのまま握った状態で右手を捻ると…………」
言われるままヤトが薙刀の右手側を捻ると、カチリと言う音と共に柄が2つに別れたのである! 丁度石突から70セルト付近から別れた薙刀の柄には30セルトの槍が仕込まれていて、別けると右手に1メルトの短槍を、左手に70セルトの長柄の歩兵剣を持つ格好になるのだった。
「へぇー!? 凄いじゃないドゥイリオ! そうそう、こうしたのが欲しかったのよね〜♡」
自分の出したアイデアが形になってヤトは御満悦である。確かにこれなら間合いに入られても対処し易くなる。しかもヤトがこれを使いこなせれば攻撃力は倍以上にもなり得る。
まぁこの前ヤトがドゥイリオに依頼した内容は把握していたが、ハッキリ言ってこちらの想像以上のモノが出来上がった訳である。その辺は流石ドゥイリオと言う所だろうか。
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「それとな、こいつは試作なんだが」
俺がドゥイリオの腕前に感心していると、当のドゥイリオが何やら細長い布包みを後ろから出して俺に手渡して来た。
「何だ、これは?」
「いいから開けてみろ」
俺の疑問に顎をしゃくって開封を促すドゥイリオ──何なんだ、いったい。
仕方なく布包みを開封すると、中から出てきたのは一振りの剣だった。だが普通の剣とは明らかに違う点が──刀身が90セルト身幅5セルトほどで僅かに湾曲している。鞘から抜き放った刀身は片刃で剣先から5分の1が両刃になっている。剣の腹は馴染みのあるダマスカス鋼なのだが、刃の部分が緋色なのである。さらに大きな鍔と護拳も付いていた。おいおい、まさか──!?
「なぁドゥイリオ、これってもしかして……」
「察しがいいな。お前さんが思っている通りそいつは緋緋色金で出来ている、いわゆる刀剣って奴だな! ヤトの軽鎧の調整してもたっぷり余るって言ったろ? 折角だし新しく武具を拵えようと思ってな。こいつは試作第一号って訳だ!」
もしやと思ったらやっぱり緋緋色金かよ?! しかも緋緋色金を渡してからたった3日で、ヤトの軽鎧の調整のみならずこんな剣まで作っちまうとは!
「これを俺に見せたって事は……」
「おう、お前さんに使って貰おうと思ってな! こいつは俺の作りたい剣の試作でもあるんだ。この刀剣ってのは今まで使っていた剣とは違い「切る」のと「突く」のに秀でている。試斬は済んでてな、この緋緋色金の刃の斬れ味は凄いものがある!」
早口で捲し立てるドゥイリオに「お、おぅ」と言葉を返す俺。本当に最近こんなのばっかりだな!?
若干引き気味になりながらも手にした刀剣を改めて良く眺める。
「こいつは……引き斬りし易くなっているのか……」
そうなのだ。普通の剣だとその自重をも利用し斧の様に強く叩き斬るか、その斬れ味鋭い剣先を使い滑り切るかの使い方なのだが、この刀剣はその湾曲した刀身の「反り」を使って引き斬りする方が良さそうに感じたのだ。
「試してみるか?」
ドゥイリオに言われ、俺はひとつ頷くと試用場に設置してある木人形と対峙する。刀剣の柄の握りを両手でしっかり握り、ゆっくり振りかぶると一気に引き斬る様に振り下ろす! 一瞬後、木人形は何の抵抗も無く斜めに両断されていた!
「ほぅ?! 流石だな、ウィル!」
一方のドゥイリオはやたら嬉しそうに叫ぶと俺から刀剣を受け取り、刃毀れが無いか慎重に確認していく。やがて刀剣から顔を上げると「うむ! 問題無いな!!」と今度は満足した顔で俺に刀剣を返してきた。
「少しクセがあるから慣れるまで大変そうだがな……」
俺は渡された刀剣を鞘に納めながら、少し苦笑いを浮かべる。
「兎に角、この刀剣は有難く使わせてもらうよ」
「おう! んじゃ刀剣の柄をさっさと調整しちまおう!」
ドゥイリオはニヤリと笑いながら俺の背中を大きな手でバシッと叩き、上機嫌で店舗の方に向かって歩き始めた。
その後に着いて店舗に入ると、ドゥイリオは言葉通りに手早く柄の握り具合を調整してくれ、俺は料金を支払う。ヤトの軽鎧の調整に金貨1枚、新調した薙刀に金貨7枚と銀貨5枚、試作の刀剣はドゥイリオが「飽くまで試作だし、緋緋色金はお前達からの提供だから」と言って料金の受け取りを固辞したのだが、金貨2枚を無理矢理握らせた。しめて金貨10枚と銀貨5枚を支払い、ガドフリー武具店をあとにした──勿論刀剣や薙刀の使い勝手をちゃんと報告する事を約束して。
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「ウィルもヤトも良い武器が手に入ったわね」
帰りの道すがら、アンが話し掛けてきた。どうでもいいが何故俺の右腕に自分の腕を絡めてくる?
「──まぁ早いところ熟達しないといけないがな。とりあえず暫くはギルドの修練場通いだな」
『それで宜しいかと。3名も使い慣れない武器に更新したのですから慣熟訓練は必須です』
俺の言葉に宙を漂っていたコーゼストが当然の様な顔で宣ってきた。本当に偉そうである。
「コーゼストに言われるのは釈然としないんだが……」
俺がジト目を向けながらボソリと呟き、アンは苦笑いしていた。当のコーゼスト本人(?)はしれっとしていたが。
「それで、この後はどうするの?」
そんな会話をしていたらルアンジェが聞いてきた。いつの間にか俺の左腕に自分の両腕を抱き絡めているんだが?
「そうだな……まだ時間もあるし、『黄金の夢』で昼飯を食べてからギルドの修練場に行こうか」
俺は気にしてない体でルアンジェの質問に答えると、背後から不意にガツン! と言う衝撃を受け振り返る!
「ご飯にするなら私、「ステーキ」って言うの食べてみたい!」
そこには軽鎧を着たまま後ろから抱き着いて来たヤトの顔があった。そのまま抱き着くな! 馬車に撥ねられたかと思ったわ!!
「──ッ!? わ、わかった、わかったからそんなに耳元で大声出すな!!!」
背中に当たる軽鎧越しのヤトの胸の感触と、左右と後ろから女性に挟まれた事に思わずしどろもどろになる俺。
『本当に女性に耐性がありませんね、我がマスターは』
頭の上で浮遊しているコーゼストが呆れ気味に声を漏らす。
悪かったな、恋愛経験が皆無で!!
ヤトの軽鎧のみならず緋緋色金を使って新しい剣を拵えるとは……ドゥイリオはやはり名匠ですね!
ドゥイリオが拵えた刀剣がこれからウィルの相棒になります(ただし長くはありません)。
☆「なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?」第六話にイラストレーター椋木三郎さん作の主人公ウィルのイラストを載せました! 是非過去作品もお読みください!
☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」
新連載開始しました! 民間軍事会社の傭兵の男性と異界から来た大魔導師の女性の2人が主人公の物語です! 隔週木曜日15時に更新しています! 是非ともよろしくお願いします!




