輝光 ~罪と罰~
本日第九話投稿します!今回はシリアスな展開です。結構主人公が熱血してます!
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「……うっ、ううぅ」
白髪のエルフの左腕の傷が見る間に治っていく。女性特有の華奢な体を支えながら俺は声を掛ける。
「おいッ! 大丈夫か?!」
振り乱した白髪の間から顔を覗き込む──と肌が少し浅黒い事に気付いた。彼女は涅森精霊か? などと観察していたら後ろから声を掛けられた。
「おい、お前! そんな奴は良いからオレにも早く回復薬を寄越せよ!」
振り向くと先程まで尻を付いていた金髪の剣士が喰って掛かって来ている。後ろの茶髪の戦士がその肩に手を掛けて何か言おうとしていた。
俺は無言で振り向くと人数分の回復薬を茶髪の戦士に手渡し、「今はオークジェネラルを倒すのが先決だ」と一言告げ、金髪が何か言う前にダークエルフを魔法士と盗賊の女に任せて立ち上がると、長剣を抜き払いカイトシールドを背中から外して構える!そしてファウストが牽制している4体に増えたオークに向かって駆け出した──!!
結果から言うとファウストに牽制させながら「爪撃破」で4体のオーク達を纏めて輪切りにして、オークジェネラルはファウストの爪撃破の一撃でなます切りになったのだった。
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倒されたオークジェネラル達が光の粒子になって消えていくのを一瞥しながら剣を鞘に納め、背後で唖然としているパーティーに何度目かの「大丈夫か」と声を掛ける俺。
「あ……ああ、大丈夫だ。助かった」
最初に回復薬を手渡した茶髪の戦士が口を開く。見れば防具にはあちこち傷が付いているが回復薬で身体の傷は治っているみたいだ。魔法士の女と盗賊の女はダークエルフを介抱していた。金髪の剣士は……そのまま座り込んでいるが、底睨みでこちらに視線を向けている──うん、とりあえずコイツは無視でいいな!
等と思っていたら茶髪の戦士が頭を下げながら話し掛けて来た。
「俺達は輝光と言うパーティーだ。俺はクライド・ファーカー、見ての通り戦士を熟している。クラスはB。あちらに座っているのはリーダーのセオドア・レイランド、剣士をしている。それと魔法士のアリエルと盗賊のルシンダ。最初に助けてくれたのはアンヘリカ……見た通りダークエルフだ」
紹介されたアリエルとルシンダが俺を見て頭を下げるがセオドアは相変わらず睨んでいる。
「俺はウィルフレド・ハーヴィー、あんたと同じクラスはBで戦士を熟している。あそこに伏せているのはファウスト、俺の従魔で……見ての通りヘルハウンドだ」
ファウストは大人しく皆んなから離れて伏せている。危害を加えないと言う事を絶賛アピールしておかないとな。
「……アンタの腕前でB……だと?……しかもヘルハウンドを使役とか………あ、いや、すまない。詮索する気は無いんだが──」
クライドが訝しむが直ぐに謝罪の言葉を口にする。まぁ普通はそう言う反応だろうけどな…… 。
「まだAクラスへの昇格試験を受けてないからな……自分の力は自分で推し量れないし、そんなの自己評価に過ぎないだろ?」
「……そうだな。すまなかった、余計な事勘ぐったりして」
「構わないさ。俺がおたくの立場なら、先ずは相手を怪しむよ」
この男は中々話せる様だな……リーダー間違っているんじゃね? そんな事を考えていたら──
「おい! オレを無視して話を進めるんじゃねぇ!! だいたい後から来て俺達の獲物をかっ攫いやがって! オークジェネラルの魔核は俺達のもんだからな! それにクライド! 勝手に話を纏めてんじゃねぇよ!!」
馬鹿リーダーが喚き散らす、本当に何なんだコイツは? その時、今まで黙っていたコーゼストが念話で報告してきた。
『マスター、このセオドアと言う男から私と同質の魔力波動を検知しました。恐らく隷属系統の魔道具かと』
『?!』
──何だと? 何でコイツがそんな物持っているんだ?!
俺は自分の事をすっかり棚に上げてセオドアを訝しむのだった。
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色々と疑問はあるが先ずはダークエルフ──アンヘリカの所に行き容態を確認する事にした俺。セオドアは相変わらず喚き散らしているが、この際無視する。
「どうなんだ? 気が付いたか?」
「あっ、はい。いま気が付きました」
オドオドした様子でソーサレスの──アリエルが答えた。そんなにビク付かなくても……シーフの──ルシンダも何かビクビクしているな──俺は何の気無しにアンヘリカの顔を見やる。と薄ら開いたアンヘリカの翠玉の瞳と目が合った。
ん? 何だかボーっとしてるけど本当にこれで大丈夫なのか? その時、不意にコーゼストが再び念話で俺に話し掛けて来た!
『マスター、先程の隷属波動はこのダークエルフの頭部のサークレットに向けられている物だと確認しました』
『!? なんだって』
『波動は弱い部類に入るのですが、常に受け続けると潜在意識領域に働きかけ効果が継続するモノと推察します。この場合、標準的な検査では判別出来ません』
『おい、それって、つまり──』
『普通の見立てでは奴隷化されている事に気付きません』
ッ!! ────俺はその言葉を聴いたとほぼ同時にセオドアに向かっていた!まだ喚き散らしていたセオドアの胸倉を掴み締め上げる! 虚を付かれた形のセオドアはロングソードを取り落とし何が起きたのか理解する前に目を白黒させた!
「おい! 貴様は何て事をしてやがるんだ!」
「ゲホッ、ゲホゲホ! な、何の話だよ!」
噎せ込みながら抵抗の言葉を言うセオドアに、俺は左腕の腕輪──コーゼストを見せつけ
「こいつはな看破の魔道具だ。お前がアンヘリカを不法に奴隷化している事はお見通しなんだよ!!」
「!?!」
いきなりの俺の剣幕に対し、慌ててこちらに槍を持って駆けつけようとしていたクライドは、ファウストの威嚇で動けなくなっている! その顔は青ざめていた──良く見るとアリエルもルシンダも真っ青になって震えている。それに構わず言葉を続ける!
──それとコーゼスト、抗議は後で聞いてやる!
「奴隷落ちし登録された奴隷以外使役してはならない。そしてどんな場合でも本人の意思に関係無く不当に奴隷扱いした場合厳罰に処する──王国の奴隷法だ。お前も知っているだろう?!」
「…………」
「言いたい事は有るのか? 言い訳があるなら言ってみろ!!」
俺は視線に力を篭めて睨みつける。こうすると大体の奴は先に折れるんだが…… 。こう言う時は自身の目付きの悪さに感謝する。俺はセオドアの襟元を締め上げたままそんな事を思ったりしていた。
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「…………アンヘリカの奴が悪いんだ……」
「何?」
吊し上げを食らった状態のセオドアがポツリと呟いた。
「俺達のパーティに折角入れてやったのに澄ました顔しやがって………俺が一晩誘ったって『そんな気は無い』とか言いやがってオレを見下してばかり!! オレが気に入ってやったのに!! だから闇の道具屋で隷属のサークレットを買って来てプレゼントしてやったんだ! 段々従順になってくる様が滑稽で、このまま使い潰してやろうとしてたのに───それなのに!!!」
「──言いたい事はそれだけか?」
半泣きになって喚き散らすセオドアに冷たく言い放つ。
「結局お前のは唯の我儘って奴だ! 自分に靡かないからだって?! 女が皆んなお前に靡く訳がねぇだろが! お前がやってるのはただの逆怨みじゃねえか! 子供みたいに駄々を捏ねやがって!!」
そのまま胸倉を掴んでいたセオドアの身体を床に投げ捨てる。するとセオドアは落ちていた自分の剣を手に取り、自棄になり斬りかかってきた! アリエルが短い悲鳴を上げるが──奴の刃は届く事は無かった。
突っ込んできたセオドアより速く俺は踏み込み、カイトシールドで奴の身体ごと押し込んだ! 所謂シールドバッシュってヤツである。結果シールドに思い切り激突する形でセオドアはあえなく失神した。意外と呆気ないな──── 。
結局セオドアの武器は全て取り上げて縛り上げ、意気消沈したクライドに任せる事にした。
聞けばセオドアもクライドも、ラーナルー市近郊の小さな街を施政する男爵の次男坊と準男爵の跡取りだそうだ。二人共に最高位冒険者になって新しい貴族に取り立てて貰うのが夢だったのだが、これでまたイチからやり直しである。いや、セオドアは冒険者資格の剥奪に厳罰が言い渡されるだろう。
セオドアの自業自得とは言え巻き込まれたクライドやアリエル、ルシンダは良い迷惑か。だか彼等もまた暴走するセオドアを抑えられなかった責任があるから、これもまた自業自得なんだろうな………… 。
勿論アンヘリカは隷属のサークレットを外して解放してやった。サークレットが外されると直ぐに正気を取り戻したが、自身の行動から今回の事態を招いた事にショックを受け泣きじゃくっていた。
部屋を出て近くの転移陣から地上に帰る──倒したオークジェネラル達のコアは俺が全て貰う事となったがアリエルとルシンダとアンヘリカ、何よりクライドに懇願されて俺がセオドアをギルドに連行していく事になってしまった。まぁ仕方ないか………… 。
当然地上に送還される前に、ファウストを子犬の姿に変えたのは言うまでもない。
この様な形に纏めましたが……些か無理があった気がしないでもない(汗)
主人公は基本事なかれ主義ですが悪事は見逃せない損な性格してます。そして巻き込まれ体質……(笑)
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