属性弾倉
本日は第八十四話を投稿します!
今日は魔導小火砲の調整の為に、あの人物のところにやって来ました!
また一波乱ありそうです…… 。
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ドゥイリオにヤトの軽鎧の調整を頼んだ翌日、俺達はラファエルの屋敷を訪ねていた。目的はアンの魔導小火砲の調整である。
下手な奴等に古代魔導文明や古代魔族の技術を教える訳にも行かないし、何よりラファエルは意外と口が固そうだ。
一応ギルドにラファエルの所在は確かめたので、今回は生産設備には寄らず屋敷に直行したのだが────
「ほほぅ! これが魔導小火砲であるか!? 名前から察するにツェツィーリア共和国にある鉄筒砲と近しい物であるな!」
話を始めたらそれもそこそこに実物を見せろと言われ、魔導小火砲を見せたら第一声がこれである。
「何だ、鉄筒砲って?」
「うむ、ツェツィーリア共和国で研究されている " 魔法を使わない武器 " で、簡単に言うと火薬を用いて鉄の弾を撃ち出す大砲を個人単位で携行出来る様にした物だな。撃ち出すモノが魔力なのか鉄の弾なのかの違いはあるが、この魔導小火砲と鉄筒砲は近しいと思う」
ラファエルが魔導小火砲をあちこち弄りながら俺の問いに答える。良く聞くとラファエルが王国に来る前に共和国の市井の技術者が独自に開発した代物らしく、それが貴族院の目に留まり、政府機関で研究開発がされているのだそうだ。何とも物騒な話である。
「まぁ弓矢よりは強力であるが、何せ火薬を使うと言う事が開発の障害になっていてな、特に安全性と言う観点からは未だ満足の行く物は作られていない……筈であるが」
そう言いながらも調査する手を休めずあちこち捏ねくり回すラファエル。
「ふむ、そしてこれが弾倉なる物であるか? 成程、ここに刻まれている術式は──」
次に弾倉を手に取りあちこちから眺め、刻まれている術式を読み解いて行く。
「……それにしても、以前より詳しくなってないか? それに以前よりガツガツしていないし」
ふむふむと言いながら調査を進めるラファエルに、ふと感じた事をそのまま口にする。するとこちらに顔を向けると
「確かに以前の私なら違ったかもしれないが、生産設備でコーゼスト殿を産み出した古代魔族の過去の技術に数多く触れる機会に恵まれ、より多くの知識を得る事が出来て満足しているからであろうな、きっと」
何とも得意気に話してきた。その割には目が血走ってないか?
「これでも旦那様は少しだけ大人になられたみたいです。ほんの少しだけ、でございますが」
後ろに控えるノーリーンに棘のある言葉を投げ掛けられ、ピシリと固まるラファエル。結局ラファエルは何時も通りで何となく安心した。
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魔導小火砲を心行くまで堪能したラファエルは、次に屋敷の近くの空き地でルアンジェの魔導火砲との比較の為の射撃試験を行った。
空き地の30メルトの距離から始まり10メルト毎に最大150メルト先までに鎧を装着した木人形を順番に設置して試験をした結果、魔導小火砲と魔導火砲が攻撃を当てられる距離──射程距離が凡そわかったのである。
その際に魔導小火砲の狙いを定める操作──照準をラファエルがルアンジェからやり方を聞きながら幾度か調整を施したのだが。
結果として、魔導小火砲は150メルトの距離がものともせず攻撃を命中させられる事がわかった。恐らくアンの射撃に対する感覚ならまだ射程距離は伸ばせるだろうとはラファエルの談である。
一方ルアンジェの魔導火砲は射程距離が50メルトであった。これ以上伸ばす事は出来るみたいだが、どうしても攻撃力が落ちるらしいのだ。実際、ルアンジェは1キルト先に置かれた回復薬の小瓶を見つけられるぐらい視力は抜群に良いのだ。まぁ実際の所50メルトの射程距離なら、ほぼ一方的に攻撃が出来る距離だから何ら問題無いんだが。寧ろアンの感覚が異常に鋭いと言う事を証明する結果になった。
「アンの感覚が鋭いのは、恐らく森精霊特有の物なのではないのだろうか? より正確にはダークエルフ特有と言うべきか」
立て続けに150メルト先の木人形に魔力弾を撃ち込むアンを見ながらラファエルがそんな事を言った。
「何だそりゃ?」
「つまり、エルフ族の中でも武術に秀でたダークエルフであるアンには元々弓術に抜きん出たものがあったが、それがこの魔導小火砲の射撃術と相性が良かったのではないかと思うのであるよ」
「なるほどな」
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そんな事をラファエルと話していたら、アンがラファエルを手招いて二言三言言葉を交わしている。
やがてラファエルに頷くとアンは魔導小火砲の弾倉を外し、弾倉揃からラファエルが取り出した弾倉を嵌め込んだ。
そして再び木人形に狙いを定め引鉄を引き絞ると、魔導小火砲の砲口から青白く輝く魔力弾が撃ち出され木人形の鎧を撃ち貫く! 次の瞬間、木人形が白い炎に包まれ燃え上がった! 見る見るうちに溶けていく鎧とあっという間に消し炭になる木人形! 150メルト離れているこちらにも熱波が届いてきた!
「ラファエル! 一体何をやらせたんだ?!?」
撃って呆然としているアンに代わりラファエルを問い質す俺。
「う、うむ、アンが弾倉を変えてみたいと言うので弾倉揃にあった属性弾倉の1つを撃ってもらったのであるよ。属性は炎。『Heat Blaster』と書かれていたのだが……」
使わせた方のラファエルも度肝を抜かれていた。まさか、こんなに凶悪な威力を発揮するとは思わなかったらしい。しかし属性弾倉か…… 。
「他には何て書いてあったんだ?!」
「う、うむ……それは………」
ラファエルの話によると他には──氷属性の『Freeze Blaster』、風属性の『Lightning Blaster』、樹属性の『Dense Jungle』、大地属性の『Terrain Change』、光属性の『Shine Ray』、闇属性の『Dark Ray』、あとの1つは何も書かれていなかったらしい。属性は何となく判るんだが……実際に使った時の攻撃力が半端ない!
「と、とりあえず威力は使用者であるアンの意のままの筈であるから、加減は出来る筈である」
ラファエルがそう言い切ったのでアンに再度威力を最小限に抑える心象をしてもらって撃ってもらった。その結果、今度は威力を先程より抑える事が出来て新たに狙った木人形の鎧のみ焼き切る事に成功したのだ。本当に心象って大事だよな…… 。
それならばと他の弾倉に入れ替えてアンに撃ってもらったところ、まず『Freeze Blaster』は命中した木人形を鎧ごと氷漬けにし、『Lightning Blaster』は砲口から紫電が迸って木人形を鎧ごと粉砕し、樹属性の『Dense Jungle』では、命中した木人形を中心に緑濃い植物の群れが生えたかと思えば鎧に纏わり付き、大地属性の『Terrain Change』では命中すると木人形の真下の地面が揺れ同時に大きく裂けて木人形を呑み込んだ。光属性の『Shine Ray』は細く眩い光が撃ち出され鎧を着込んだ木人形を貫通し、闇属性の『Dark Ray』は砲口から真っ黒な光が撃ち出され鎧を抉った。
一応ルアンジェにも魔導火砲で同じ様に属性弾倉を使ってもらったのだが、効果は程度の差はあれ魔導小火砲と同じだったのは言うまでもない。因みに無名の弾倉は恐らく予備なのだろうとは、やはりラファエルの談である。
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こうして入念な試験をして、アンの魔導小火砲とルアンジェの魔導火砲の調整は一応終了したのである。試験に使用した空き地はデューク達ゴーレムに綺麗に整地してもらったのは言うまでもない。
まぁ一番の収穫はアンが魔導小火砲の扱いを熟達したのと、属性弾倉がどう言う物か判った事である。それにしても何故にコーゼストはあの時に属性弾倉について詳しい説明をしなかったのか?
もやもやしたまま屋敷に戻りラファエルには魔導小火砲の小改造を依頼した。このままだと持ち歩くのに一々手で持って歩かなくてはならないので、携帯性を高めたいとアンから言われた事が切っ掛けである。するとラファエルは「少し待つのである」と言い魔導小火砲を預かって奥の工房に引っ込んだ。
そんじゃラファエルが何とか改造し終えるまでのんびり香茶でも飲みながら──と思ったら目の前が淡く輝き、回収して来た腕輪が現れた!
『マスター、その腕輪を手に持っていただけますか?』
それまで黙りを決め込んでいたコーゼストが、まるで今目覚めたみたいに急に話し掛けて来た。何なんだよいったい…… 。
俺はブツブツ言いながらコーゼストに請われるまま、無限収納からコーゼストが出した腕輪を左手に取った。
これ、一体どうするんだ???
魔道具と言えば! のラファエルの登場でした。
知識欲が激しいラファエルなので色々トラブりましたが、何とか無事に魔導小火砲と魔導火砲は調整をする事が出来ました。
そしてコーゼストはウィルに何かさせる気みたいです!
*鉄筒砲……ツェツィーリア共和国で開発されている魔法を使わない武器。所謂火縄銃。
*Heat Blaster…………炎属性の弾倉。摂氏3000度の熱線を放つ。追加効果として燃焼効果。
*Freeze Blaster…………氷属性の弾倉。摂氏マイナス150度の冷線を放つ。追加効果として凍結効果。
*Lightning Blaster…………風属性の弾倉。1000万ボルトの雷撃を放つ。追加効果として麻痺効果。
*Dense Jungle…………樹属性の弾倉。命中した地点を中心に植物が活性化、密林化させる。
*Terrain Change…………大地属性の弾倉。命中した地点を中心に局所的な地殻変動を起こす。
*Shine Rey…………光属性の弾倉。圧縮された高エネルギーの光を放つ。所謂レーザービーム。追加効果として貫通。
*Dark Rey…………闇属性の弾倉。圧縮された暗黒エネルギーを放つ。追加効果は??
☆「なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?」第6話にイラストレーター椋木三郎さん作の主人公ウィルのイラストを載せました! 是非ご覧ください!
☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」を新連載開始しました!民家軍事会社の傭兵の男性と異界から来た魔導師の女性が活躍する物語です。
ncode.syosetu.com/n259fr/
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いつもお読みいただき、ありがとうございます。




