眠れる遺跡の遺物 〜塵芥或いは宝物〜
本日は第八十二話を投稿します!
何やらとんでもない物を見つけたウィル達。まずはアンの魔導小火砲の試射から。
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──バシュ! ビシッ!!
──バシュ! ビシッ!!
魔導小火砲から撃ち出された魔力弾が的になった星銀の壁に立て続けに穴を穿つ!
あのままいつの間にかアンの射撃訓練が始まってしまい、現在部屋の端から端までの約30メルトの距離で行われている。因みに的の星銀の壁はデュークが『城壁』で生み出し『金属化』で変化させた物である。
「アン、上手」
ルアンジェが手放しで褒め称える。俺も初めての武器を扱うにしてはアンは手慣れた感があるとは思う。
「──成程、この感じね。わかったわ」
魔導小火砲の構えを解いて漸くアンが撃つのを止めた。
「どうだった、アン?」
「うん、何とかコツはつかんだわ。あとはもっと長距離で試してみたいけど……」
ルアンジェと使用した感触を話していたアンは俺の方を向き直り
「ウィル、待たせてごめんなさい。でもコレが私に扱えるのかちゃんと確かめたくて……」
と如何にも申し訳なさそうな顔で謝ってきた。どうでもいいがその潤んだ翠玉の目での上目遣いはやめてください。
「ま、まぁ、アンの気が済んだなら構わないがな」
ちょっと照れ臭くて少し素っ気ない返事を返す──顔、紅くないよな?
『本当に捻くれた性格をしていますね、マスターは』
コーゼストが念話で突っ込みを入れて来た──ほっとけ!
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「そう言えば、すっかり忘れるところだったんだけど……」
アンが思い出したみたいに腰袋から何かを取り出す。どうやらこれを見せに来て、魔導小火砲に気を取られたらしい。
「これを見てもらおうと思ったの」
そう言って差し出されたアンの手には腕輪が握られていた。
大きさは俺の左腕のコーゼストの本体よりやや小振りな作りで、色合いはコーゼストとは違い鈍い金色、腕輪の大きさの割には大きな魔水晶が1つとひと回り小さめな魔水晶が左右にひとつずつ嵌め込まれていた。見た目は何となくだがコーゼストっぽくもある。
「何処にあったんだ、これ?」
「その先の機械が開いて出てきたのよ」
元々在った場所を確認すると、アンが部屋の一角を指差す。そこには幾つかの機械類が置かれていて、一部が不自然に開いていた──どうやらアソコから出てきたのだろう。
「……それにしても、何だコレ?」
『これはある種の情報表示機器ですね。しかもこれは──立体映像表示型です。こうした魔導機に関しては古代魔族より古代魔導文明の方が進んでいたのは確かですね。恐らくは先程の記録核の回収の際に連動して表出したのでは?』
俺の疑問に対し1つの回答を示すコーゼスト。だが──
「「情報表示機器って何? あと立体映像って?」」
──あまりにもわからない単語が多くて、思わずコーゼストに対しアンと共に解説を求めてしまう。
『情報表示機器とは、あらゆる情報を目に見える様に表示する機械の事です。また立体映像とは映像──例えば水晶地図板の画面を空中に映し出す事が出来る技術です』
「「な、なるほど……」」
コーゼストの淀みない答えに、またもやアンと共に納得する俺。しかしこの腕輪もだが、魔導小火砲と言い、その弾倉と言い、魔道具に精通してなければ全くと言ってもいいくらい、その価値を判断出来なかっただろう。尤も精通しているのは俺では無くコーゼストとルアンジェだがな!!
『まぁ、こうした事は私の得意分野ですからね』
何となく偉そうなコーゼストの物言いに何となくイラッとする。顔が付いていたら絶対ドヤ顔をしているんだろうな──ちくしょうめ!!
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「ねぇ、もう終わった?!」
コーゼストの物言いに悶々としていたらヤトが舞い戻って来た。アンが魔導小火砲の射撃訓練をしている間、ずっと遠巻きに見ていたらしい。
「あぁ、もう終わったぞ」
そう言って振り向く俺は、ヤトの姿を見て固まってしまった。何処で何をどの様に身に付けて来たのか、軽鎧を着込んでいるのだ。しかも何故か上半身のみならず蛇身部分もカバーされているのである。下は兎も角、上は微妙な感じではあるが。
「ねぇ、御主人様! どうかしら、コレ!」
ぶかぶか気味の兜の位置を直しながら御機嫌なヤト。
「……なぁヤト。これは一体どうしたんだ?」
「えっとね、あっちの隅の方にあったの!」
俺の質問に元気良く答えながらヤトが指差したのは、アンの調査していたのとは反対側だった。目を凝らすと、金属の塊が幾つも積まれているのが見えた。どうやらあの山の中から見つけてきたらしい。
「何だかわからなかったんだけど、御主人様達が着る鎧に見えたから見様見真似で着てみました!」
満面の笑みでそう締め括るヤトに「お、おぅ」としか返せない俺。結局分からず終いかよ!?
『──推測になりますが宜しければお答えしますが?』
それまで黙っていたコーゼストが不意に言葉を紡ぐ。
「判るのか?!」
『恐らくですが──これは騎乗竜用の鎧かと思われます。騎乗竜とは、竜騎兵の騎る竜の事です。嘗ては古代魔族にも存在していましたが、この様な鎧は使用していませんでした。恐らくは古代魔導文明特有の物かと』
「つまりは竜用の馬鎧って訳か……」
『その様な認識で間違いないかと』
古代魔導文明や古代魔族では、今では伝説とも言われる竜も馬みたいに乗っていたのか……現在から見ると想像が出来ない話である。
「へぇー、昔の人間は凄かったのね!」
コーゼストの解説を黙って聞いていたヤトが大きな声で感心するが、その一言で片付けないで欲しいものである──全く。
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『しかし、ここの施設にある魔道具類は使用出来る出来ないに関わらず、素材としても価値が高いですね』
再び調査に赴くヤト達を眺めていたら、コーゼストが感心したみたいな声色で語り出す。
『魔導小火砲は星銀製、弾倉は緋緋色金、腕輪は神鉄製で、ヤトが見つけてきた鎧は星銀と緋緋色金の複合材ですからね』
……何やら聞き捨てならない単語がまたもや羅列されているんだが?! 星銀はとにかく緋緋色金でも驚いたのに、あの腕輪が神鉄製だァ〜?!?
「……お前、さっきはそんな事ひとことも言わなかったよな…………」
『私は皆さんが見つけた魔道具が何なのか聞かれただけなので』
思わずジト目で詰問すると、しれっと答えるコーゼスト。「何が悪いんだ?」と言わんばかりである。本当にここにラファエルを連れて来ていたら、ここに住み着くと言いかねん。
「でも財宝とかは無くても、沢山魔道具類があるわよね。使えそうな目星いのは少ないみたいだけど」
コーゼストとそんな風にやり合っていたら、いつの間にか傍に来ていたアンが半ば呆れ気味に感想を漏らした。
確かに財宝の類は全く見つからない代わりに、魔道具類は掃いて捨てるほどある。壊れていても全て回収するので捨てたりはしないが。
『しかし──これもグラマス殿の思惑のうちなのでしょうね』
「? 何で今更そんな事を?」
『私達だけがここにあるモノを有効的に活用出来る可能性があるのは間違いありません。恐らくグラマス殿は私やルアンジェに任せればより確実だと踏んだのでは?』
コーゼストが述べた推測とやらに納得する。恐らくはそれで間違いないんだろうと思う。何だかグラマスの手のひらで上手く踊らされているみたいだが嫌悪感は無い。
「でもまぁ──別に構わないけどな」
『そうですね。私達に対する益はかなり大きいですし』
「私もそう思うわ」
「ん、同意」
俺が納得しているとコーゼストとアン、そしていつの間にか傍に来たルアンジェも同意して来た。
「もう調査は終わったのか? ルアンジェ」
「ん、使えそうな魔道具はもう見つからなかった。だから報告に来た」
そんなルアンジェを見越して部屋の奥に視線を送ると、ヤトもこちらに戻ってくるのが見えた。
『──走査完了。どうやらほぼ隈無く調査し終えたみたいですね』
「その様だな」
コーゼストが今一度走査した結果を報告して来たので俺もそれに聞いて頷く。
「よし、コーゼスト。残った塵芥を回収するぞ」
『了解。指定転送機能起動します』
俺の指示を受けコーゼストが無限収納の特殊機能を発動させる。すると部屋一面に散らかっていた文字通りの塵芥達が、淡い光に包まれ次々に消えていく。
『回収完了しました』
コーゼストが短く完了を告げる。雑多だった部屋の中がかなり広くなった。
「これで終わりだな……んじゃ、帰るとするか」
「そうね、そうしましょう」
「装備品は確認した。問題ない」
「もう帰るの〜? つまんな〜い!」
帰還を宣言するとアンとルアンジェはちゃんと応答したが、ヤトのみ何やらぐちぐち不満を垂れて来た。
「まァそう言うな。またヤトには活躍してもらうからな──」
──勿論アンやルアンジェにファウスト達も、と言おうとしたら不意に横腹に衝撃を受けた! 勢い良くヤトが抱きついて来たのである!
「御主人様〜! そんなに私を頼りにしてくれるの〜!? うんうん、もっと頼って〜♡♡」
そう言いながらグイグイ胸を擦り付けて来るヤト! こら!? 蛇身を絡ませて来るな!
ふと視線を感じ振り向くと、アンさんが魔導小火砲に手を掛けていた。視線が凄まじく冷たい───!?!
「駄目、ヤトは離れる」
窮地を救ってくれたのはルアンジェだった。俺に張り付くヤトを引き剥がしてくれたのだ。やれやれ。
「そ、それじゃあ帰るか!!」
何とか自由の身になったので、急いで転移陣がある隣りに通じる通路に向かって歩き出した。これ以上揉め事は勘弁して欲しい。
こうして与えられた任務を成し遂げて、俺達は『精霊の鏡』を後にしたのだった。
一度ラファエルとドゥイリオの所に行かないとな………… はァ。
今回の探索で手にした物
→ヤトが着込める軽鎧
→アンが使える魔導小火砲
→魔導小火砲や魔導火砲用の弾倉
→神鉄製の腕輪
そして数多くの魔道具類(ただし使用不可多数)。
とりあえず今回で『精霊の鏡』の回は終わりになります!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。