迷路迷宮の遺跡
本日は第八十一話を投稿します!
いよいよ『精霊の鏡』の最奥に到達したウィル達。目的地は更に奥みたいなのですが…… 。
-81-
ユリウス達を見送ってから俺達は最短距離で迷宮の残りを攻略していった。勿論多くの魔物達と何組かの冒険者パーティにも遭遇したが。
そして17日経ち──『精霊の鏡』最深部Yエリア。
「──ここか」
Yエリアはエリア全体が小さな遺跡になっており、その最奥にある部屋には嘗ては財宝や魔道具が所狭しと置かれていたが、現在は管理端末と転移陣が設置されているだけであった。
「何にも無いわね」
俺の背後から抱き着き、辺りを見回しながらヤトがつまらなそうに呟く。
「本当にここにあるのかしら?」
アンも懐疑的になっているが調べてみれば判る事だ。
俺はグラマスから聞いた通りに部屋の左奥の角を素手で慎重に探ってみる──と、指先が僅かな段差を感じた。そこを力を込めて押すと「ガコン」と言う音と共に目の前の壁が床に沈み、隠されていた入り口が露わになる。
「……あったな」
「……あったわね」
「なにコレ?! 面白〜い!」
俺とアンは半ば呆然とし、ヤトははしゃぎ、ルアンジェは相変わらず無表情で現れた入り口を見詰める。
恐る恐る中を覗くと魔導照明に照らされた短い通路が見えた。どうやらこの先が目的地らしい。
「……兎に角、先に進もう。コーゼスト、何か罠とか仕掛けられてないか?」
そのまま入ろうとして、ふとコーゼストに確認する。ここまで来て罠で全てが徒労に終わったら目も当てられない。
『はい。この入り口及び通路に罠はありません』
確認されたコーゼストは淡々と答えを返して来た。安全ならば問題ない、俺達はそろそろと中に入って行く。
仄暗い魔導照明の灯りを潜り奥に向かうと、目の前に扉が現れ、コーゼストに罠の有無を確認してから手を掛け押し開ける。扉が開くに従って眩い光が扉の隙間から光量を増して来る。
「おお……」
明るさに一瞬眩んだ目が馴れると目の前に広い部屋の全容が露わになる。中央に密閉容器が置かれた部屋は、何となくだが『魔王の庭』の生産設備やルアンジェが居た施設にも似ている。
「何ココ?! 私が居たあの部屋みたい!」
「ん、私が封印されていた場所にも酷似している」
ヤトもルアンジェも同じ感想を漏らす。ここが──
『セルギウス殿が冷凍睡眠していた古代魔導文明の施設ですね』
──コーゼスト、俺の台詞を取るのはやめろ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
気を取り直して内部の調査を開始する事にした。アンやルアンジェは当然だが、何故かヤトまで調査すると言い出した。まぁ適当に見て回ってもらうとするか。
「さてと……コーゼスト、お前の出番だ。グラマスから依頼された記録核を探し出してくれ」
俺は傍にある管理機構に手を掛けながらコーゼストに指示を出す。
『わかりました。────侵入開始────管理領域に侵入──────・────・・────記録核を確認。表出させます』
コーゼストがそう言うと置かれていた機械の一部が開き、中から魔水晶が現れる。この片手で持てるほどの大きさの魔水晶が目的の記録核らしい。
『──接続解除。これで取り外しても問題ありません』
コーゼストが記録核を外し易くしてくれたみたいである。そっと手を掛けて力を込めると、カチッと言う音と共にやたらあっさりと台座から外れた。
「これで依頼完了……っと」
外した記録核を無限収納ザックに仕舞い込みながら独り言ちた。それにしても…… 。
「改めて見回すと何だかゴチャゴチャあるな……」
辺りに散乱している魔道具と思しき機械類を見ながら思わず声が出てしまう。グラマスから聞いた話だと、グラマスをここから連れ出した冒険者パーティは財宝は兎も角、ここにある魔道具には興味が無かったらしくそのまま放置したらしいのだ。こんな所にラファエルなんか連れて来たら狂喜乱舞しそうであるが…… 。
『ざっと走査しましたが使える魔道具は60%、そのうち実用的な物は更に60%ぐらいかと』
「すると、使えるのは3割半強か……」
コーゼストの報告を聞きながら俺も手身近にあった魔道具を取り上げる。これは──駄目だな。素人の俺の目でも判るくらい壊れている。
『まぁグラマス殿の言質は取ってありますし、何かに使えるかも知れませんので全て回収しましょう。無限収納に収納してからでも解析出来ますしね』
コーゼストがそう宣ったので、遠慮なく手にした壊れた魔道具をコーゼストの無限収納に突っ込む俺。とりあえずはコーゼストに確認しながら手当り次第収納して行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんなこんなしながら3人とは別の場所の調査をしていたら
「御主人様〜! こんなの見つけたわよ♡」
ご機嫌なヤトが何やら持ってきた。小さな宝箱2箱で、その中に更に小さい紅い金属製の箱が8個収められていて、箱の両側面には小振りな魔水晶が装飾されている代物である。箱の材質は良くわからないが。
「何だ、こりゃ???」
「さぁ? でも強い魔力を感じるの!」
そう言われて改めて良く視ると確かに小箱ひとつひとつに濃密な魔力が蓄積されているのが判った。だがどの様に使うのか全くわからない。魔道具なのは間違いないと思うんだが…… 。
「コーゼスト先生、ヨロシク!」
こんな時こそコーゼストに聞かないとな! するとコーゼストは一瞬沈黙したのち
『──これはルアンジェのと同型の魔導火砲の弾倉だと思われます。ルアンジェの魔導火砲にこれを接続すると思しき同サイズの投入口を確認していますので間違い無いかと。しかもこれは──緋緋色金で出来ています』
「魔導火砲って、あの大砲の事だろ? これがその弾……なのか? それにその……ヒヒイロカネって何だ?」
『元々魔導火砲とは魔力を砲弾として撃ち出す兵器です。なので魔力さえ供給され続ける限り弾切れする心配はありませんが、この弾倉を交換する事により各属性の魔力弾を使う事が可能になります。それと緋緋色金とは古代魔導文明で使われていた魔導金属で魔力の貯蔵・放出・制御に優れた素材です』
「お、おぅ」
ここぞとばかりにコーゼストが一気呵成の勢いで言葉を列挙する──本当にこいつは大概だな! だが言いたい事はわかった。つまりコレはルアンジェにしか使えないって訳だな!
そこでヤトが持ってきた弾倉とやらが収められた宝箱を預かり、ヤトは「また何か探してくる!」と言って行ってしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……意外とこうした調査はヤトは得意なのかもな」
『意気揚々としていましたね』
俺とコーゼストがヤトの後ろ姿を見送りながらそんな事を言っていたら、入れ替わりにルアンジェが何やら抱えてこちらにやって来た。
「ウィル、こんなのを見つけた」
そう言って俺に差し出したのは柄が80セルトぐらいの長柄戦斧と思しき物だった。但し普通の長柄戦斧と違い斧刃は小さく、取り付けられている長柄には先端に大きな穴が開いていて、しかも長柄自体も下に行くに従って変形し太く厚く箒の形をした板の様になっていた。その他にも何やら余計な物が幾つか付いていて判断に困る。
だがルアンジェはこれが何か知っているみたいだった。
「ルアンジェ」
「ん、何?」
「これが何だか知っている……のか?」
「知っている。これは私の魔導火砲と同じ射撃武器で『魔導小火砲』と言う。より正確に言うとその狙撃型と呼ばれる物……だったはず」
……何だか偉く物騒な代物が出てきたな。これは俺は元よりヤト向きでは無いし、ルアンジェには既に同様の装備がある訳だから必然的にアンが使うのが相応しいのかな………… ?
『──この魔導小火砲にも先程の弾倉が使える様ですね。投入口のサイズが同じです』
そんな思いに至っていたらコーゼストからまさかの追加情報である。それならあの弾倉揃とやらのひとつはルアンジェに、もう1つはアンに持たせるべきなんだろうな。
「まぁアンには、この魔導小火砲を使いこなしてもらわないといけないが……」
「私がどうかしたの?」
そんな事を呟いていたら背後から不意にアンが声を掛けて来た! 正直一瞬魂消た…… 。
「あ、あぁ……アンか、丁度良い所に。ルアンジェが見つけてきた魔道具なんだが──」
俺は今ルアンジェに聞かされた事をアンにそのまま話した。話を聞き終えたアンは興味を持ったらしく
「へぇ? ルアンジェ、それはどの様に扱う武器なの?」
アンも全く見た事も聞いた事も無い武器なので構え方は疎か、扱い方すら皆目検討がつかないみたいだ。まぁ最初に話を聞いた俺も殆ど理解出来なかったが。
「まず、これはこう構える」
そう言ってルアンジェが魔導小火砲を構える。斧刃を下に槍の様に突き出し箒の穂先に当たる部分を右肩に当て、その先の握り易くなっている部分を右手でしっかり握り、左手は更にその先の少し細くなっている部分を下から支える様に添える構えだ。そして構えを解くとルアンジェからアンに手渡された。
「えっと……こう、かしら?」
手渡されたアンはおずおずと魔導小火砲をルアンジェの見様見真似に構える。
「ん、狙いを定めるには先端にある出っ張り──照星を目標に合わせて、次に照星と手前にある出っ張り──照門の溝に合わせて目標と照星と照門が一直線になる様にすれば良い。あとは右手の所にある爪──引鉄を引けば撃てる」
「え、えっと。こ、こうかな?」
ルアンジェに聞いたまま狙いを定めるアン。狙いはどうやら20メルト離れた所にある打ち棄てられた魔道具みたいである。狙いが定まったらしくアンが右手先の爪をグッと引き絞ると、砲口(と思しき穴)から魔力の弾がバシュッと言う小さな音と共に撃ち出されるのが視えた!
撃ち出された魔力弾は寸分違わず、アンが狙っていた魔道具に大穴を穿つ! あまりの威力に固まるアンと俺…… 。
「これは……威力あり過ぎるんじゃね?」
俺は思わず呟くのだった。
『精霊の鏡』の最奥の更に奥にあったのはやはり古代魔導文明の施設でした!
探索して色々な物を発見しているウィル達ですが、ヤトが意外と活躍しています!
*緋緋色金…………古代魔導文明で使われていた魔導金属。金より軽く金剛石より硬く錆びる事が無い。魔力の貯蔵・放出・制御に優れている。
*魔導小火砲…………現代のライフル銃と同じ。ただし射出するのは鉛弾ではなく魔力の弾。弾倉を交換する事により各属性の魔力弾を使い分けられる。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。