狗と牛と無自覚
本日は第七十九話を投稿します!
とうとう始まった『精霊の鏡』の探索行! 先ずは順調みたいです。
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「グルルルルル、ウォーン!!」
刃の欠けた長剣を振り翳しながら狗人達が迫る!
「──水征矢」
「──水千刃」
アンが水の矢を、ヨアヒムが水の小刀をそれぞれ複数生み出し、狗人達に向かって打ち放った!
「ギャン?!」「ヴォン!?」
水征矢が何体もの狗人の頭や胴や腕や脚を貫き、水千刃が狗人達の身体を切り裂く! 何体かはそのまま戦闘不能になったが辛うじて無事だった狗人も何体か居て、瞬く間に接近して来る!
「まかせて!」
ヤトがひと声叫ぶと、俺達と狗人達の間に物理結界が張られた! 先頭の狗人が物理結界にぶち当たり動きを止める! その機を逃さず俺とルアンジェとユリウスとヒルデガルトが切り込んだ! 因みにファウストはユリウスを護る様に張り付いていた。
「おりゃァ!」
「えい」
「トォ!」
「タァー!」
それぞれの剣をまるで剣舞の様に振るい、狗人を倒して行く! あっという間に光の粒子になって消えていく狗人の群れ! あとには数多くの小振りな魔核が残されていたのである。
「ふぅ……」
歩兵剣に付いた血を拭い落として息を吐く。『精霊の鏡』に入ってから5日が過ぎて現在Fエリアを攻略中である。この頃になるとユリウスとヒルデガルトは俺と共に前衛をしていた。ルアンジェとヤトは遊撃、ファウストとデュークはそれぞれユリウスとアン達魔法士達の守護と言う配置である。
思いの外この迷宮の魔物との遭遇率は高めで、1日あたり6、7回ぐらいの頻度で戦闘を行っていた。
「うん、だいぶ戦闘にも慣れてきたな。この数の狗人にも対処出来る様になって来たみたいだ」
ユリウスが剣を鞘に収めながら独り言ちる。
「油断は禁物だゾ。慣れてきたこの位の時期が一番危ないんだ」
「うむ、そうだな。『好事に縒りをかけるは金に等しい』とも言うからな」
俺が少し戒める様に言うと神妙な面持ちで頷くユリウス。冒険者もこうした油断で命を落とす奴らが多いから、気を付けてもらえるなら何よりであるが──『好事に縒りをかけるは金に等しい』とは難しい諺が口から良く出るものだと感心した。確か、『好い事が続く時ほど気を引き締めろ。その心掛けは金にも匹敵するほど貴重である』だったか? 俺がそんな事を思っていたら
『マスターもなかなかの博識ですね』
とコーゼストに感心された──勿論念話でである。
一応、伯爵家の出なんだが……そうは見えないだろうけど。
とりあえず手早く魔核を拾い集めると、再び隊列を組み先に進んで行く。大体こう言う時に限って厄介事に会う事が多いんだが…… 。
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「グルルルルルルゥゥゥ」
Fエリアもだいぶ進んできて、そろそろ次のエリアに通じる門扉が近いと思われる時、不意にファウストが唸り声をあげた。
『この先右折して150メルト先に反応有り。数は2。反応から見て牛頭人です。格は50、順位はA』
ほぼ同時にコーゼストが念話で警告を発する。全く、ファウストの気配察知技能は大したものである。
「気を付けろ。どうやらこの先に大物みたいだ」
俺はファウストを宥めながらユリウス達とアン達にそれぞれ警戒を促す。まぁアン達には念話の連絡網で瞬時に情報が伝わっているんだが…… 。
『そこはやはり形式美ですからね』
『それを言ったら色々駄目なんじゃ無くね? 』
コーゼストの至極真っ当な念話での突っ込みに念話で答えているうちに廊下の角を曲がると、前方に牛頭人達が見えてきた。
「あれは……ミノタウロスか」
ユリウスが緊張した声色で絞り出す様に呟き、俺は自身の予感的中でげんなりしていた。本当に悪い予感ばかり的中すると呪われているんじゃないか心配になって来るからだ。
『マスターには呪術が掛けられている形跡はありませんが?』
コーゼストが俺の思考を読んで、しれっと宣う。いや、そう言う事じゃ無くてだな…… 。
俺は気を取り直して前方を見据える。
ミノタウロス達は俺達に気付いたらしく、「ヴモォォォ!」といきり立ってこちらに向かってドシンドシンと音を立て突進して来た! 2体とも大体身の丈2メルトほどか?
筋骨隆々の身体から殺気が溢れ出ている! 1体は肉厚の巨大な斧刃の両手戦斧を、もう1体はこれまた巨大な戦槌を持っていた!
「来るぞ! ヤトはユリウス達の前面に物理結界を展開! デュークは配下ゴーレムを2体召喚、アンとヨアヒムの守護を! ファウストはヤトとデュークと共に両手戦斧持ちのミノタウロスを迎え撃て! アンとヨアヒムは魔法で援護を、俺とユリウスとルアンジェとヒルデガルトは戦槌のミノタウロスを迎え撃つ! ルアンジェはユリウスを支援!」
俺は全員に手早く指示を出しながらカイトシールドを構え、歩兵剣を抜き放つ! 皆んな与えられた指示通りにすぐさま動き出し迎え撃つ準備を取る!
ユリウス達の目の前に物理結界が張られ、ほぼ同時にミノタウロスと戦端が開かれた!
「ヴモォォォォォ!」
唸りをあげて振り下ろされる戦槌を身を翻して躱す! 力は流石に格50だけの事はあるが、動作の一つ一つは決して速くは無い! 俺はルアンジェに目配せすると、迅風増強を発動させて戦槌を振り下ろした体勢を戻そうとしているミノタウロスに向かい突っ込んで行った!
素早く接近して来る俺に対し、戦槌を床を引き摺る様に急いで手元に戻して迎え撃とうとするミノタウロス! だが流石に超重武器を瞬時に戻せる訳もなく、そのまま無理な体勢で振り回す事しか出来なかった! しかし俺の狙いはその無理な体勢だ!
「貫甲!」
懐に入った俺は戦槌を支える腕目掛け武技を放つ! 貫甲は寸分違わずミノタウロスの太い腕を貫いた!
「ヴモォ?!?」
深く貫かれた腕の痛みに短く悲鳴をあげ、戦槌からミノタウロスは片手を離した! 同時にその血塗れの腕を俺を捕らえようと伸ばして来る──だが、遅い! 俺はすぐさまその場から飛び退いた!
目標を見失って慌てるミノタウロスの死角から忍び寄る小さい影──ルアンジェだ!
「遅い」
そう呟くと鎌剣の鍔を合わせ、もう片方の無傷の腕を挟みながら飛び上がり思い切りねじ切った! 血飛沫をあげながらゴトリと床に落ちるミノタウロスの腕!
「グヴォォォォォー!?!?!」
今度はハッキリと苦悶の表情を見せ、絶叫をあげるミノタウロス! これで戦槌は使えなくなった!
「──樹根呪縛!」
追撃とばかりにアンの魔法がミノタウロスの動きを完全に封じる! 実に良い時機だ!
「ユリウス! ヒルデガルト! 今が好機だ!!」
俺は後ろで呆気に取られていたユリウスを鼓舞する!
「! う、うむ! ヒルデ、行くぞ!!」
「! は、はい!!」
歩兵剣と細身剣を構え、ミノタウロスに攻撃を仕掛けるユリウス達! 因みにミノタウロスの両脚はルアンジェがキッチリ切り裂いていたのは言うまでもない。
「ウオォォォ!!」
「たァーー!!」
「グモゥゥゥゥゥゥ──!」
ユリウスとヒルデガルトから額と胸に剣を突き立てられ、断末魔の雄叫びをあげながら絶命するミノタウロス! その身体が光の粒子になって消えていくのを横目で見ながらファウスト達の方に意識を向けると、丁度ファウストの爪とヤトの薙刀による攻撃がもう1体のミノタウロスに炸裂した所だった!
ミノタウロスの両手戦斧はデュークが抑え込み、ファウストの爪はミノタウロスの胸を深く切り裂く! そしてヤトの薙刀はミノタウロスの太い首を斬首刑よろしく刎ね飛ばした! 鮮血を噴水の様に撒き散らしながら床に伏すミノタウロスの巨体はすぐさま光の粒子になって消えていった。
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大きく息を吐きながら戦闘態勢を解く俺。緊張はしたが格50のAランクならこんなもんか…………等と思っていたら、いきなり背後から誰かに抱きつかれる! 何だなんだ?!
「御主人様〜♡ 言われた通り倒したわよ!」
ヤトかよ?! 『精霊の鏡』に入ってからあまり活躍する機会が少なかった分、まるで犬の様に甘えて来るな!? そんなヤトやファウスト達、そしてアンやルアンジェを労っていると
「やれやれ、君達は何時もこんな感じなのか……」
剣を鞘に納めながらユリウスが苦笑混じりに話し掛けて来た。
「全く……私はこの迷宮に入ってからずっと緊張しているのに……君達を見ていると緊張していた事が馬鹿らしく感じるよ」
「いや、何かすまん」
やや呆れ気味なユリウスに思わず謝罪してしまう。
「それにしても……皆さん本当にお強いんですね」
ユリウスの後ろから同じく納剣しながらヒルデガルトが感心したみたいに話し掛けて来る──何故に頬を紅潮させている?
「そうなのか? これくらい出来て普通だと思うんだが……」
俺の何気ない言葉にヒルデガルトとユリウスが固まる。それだけじゃなくヨアヒムもピキリと固まる──何故に皆んなそんなに固まる?!
「私は当然だけど、断然御主人様は強いわよね〜。ねぇ、ルアンジェ?」
「ん、そう。ウィルは強い」
一方、ヤトとルアンジェは何やら意気投合したみたいであるが──そんなに俺を過大評価しないで欲しいものである。と言うか何でいつの間にか俺の話になった?? それを聞いていたアンはただ苦笑いを浮かべていたのだが。
『マスター、無自覚なのも程々にしてくださいね』
コーゼストからは何故か呆れ気味な口調で叱られた。
俺、何か悪い事したか?????
何と言うか……ウィル達がなまじ強い分、ユリウス達は楽に冒険を出来そうですね。
それにしても本当にこのパーティーは強いです! あとはやり過ぎないと良いんですけどね…… 。何事も油断禁物です!
*水千刃…………水属性の攻撃魔法。水の刃を無数に生み出し相手を切り刻む。水の刃には鎮静・麻痺効果が付与されているので、切られる程に麻痺し行動不能になる。
*牛頭人…………体高2メルトの牛頭の人型魔物。筋骨隆々でパワーを活かした戦闘が得意。反面、知能はさほど高くない。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




