傑物貴族と勧誘と
本日は、第七十八話を投稿します!
今回からいよいよ『精霊の鏡』での冒険が始まります!
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出だしを少し挫かれたが仕切り直して『精霊の鏡』内部に入った。ユリウス達に断って直ぐにファウスト達を顕現する。
「それじゃあ隊列を組む前に、ユリウス達の職業を確認したいんだが……」
俺はユリウスに振り向きながらそう問い掛けた。それによりどの様な隊列にするか決められるし、場合によっては守護を優先させないとな。
「分かった。ヒルデは剣士、ヨアヒムは魔法士を熟し、私は一応騎士を熟すんだが」
すると前衛2に後衛1が相当か…… 。俺は『精霊の鏡』が『魔王の庭』より狭いのを考慮して皆んなに隊列を伝える。
俺を頂点に「△」の様な陣形で、ユリウス達を内側に配置し俺達が護衛対象を護るのには何かと都合が良い隊列だ。勿論戦闘にも参加して貰うが。
「ふむ、" 魚鱗 " か……ウィルは兵書に詳しい様だね」
ユリウスが感心したみたいな声を上げる。
「 " 魚鱗 " ってなんだ?」
「おや? 知らないのにこの陣形を選んだのか? 兵書に書かれている兵士達に取らせる陣形のひとつなんだが」
「そもそも兵書すら読んだ事など無いんだが……これは俺の経験から考えた結果だ」
そう言うとユリウスは「なるほど……冒険者とは奥が深いな」と感心したみたいに呟く。
『恐らく、マスターには「指揮」技能があるからでは?』
コーゼストが念話で自分の推測を言ってきたが──多分それだな。因みにコーゼストにはユリウス達と行動を共にしている間は、念話でのみ話す事にさせている。そもそも一々説明するのが面倒くさいだけなのであるが…… 。
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兎に角隊列が決まったので進む事にした。ユリウス達はある程度進んだら、一時帰還用の転移陣を使い外に戻るのだそうだ。一方の俺達は、この『精霊の鏡』の最深部であり中心である遺跡が目標地点である。正確にはその遺跡に隠されている施設ではあるが。
一歩を踏み出した迷宮は一見すると長い廊下が延々と奥に向かって伸びている様に見えるが、実は方向感覚や視覚を狂わせる認識阻害の魔法が展開されていて、見た目だけで判断出来なくなっているらしい。また内部は無限収納の様な空間魔法で拡張されているのでかなりの広さで、AからYの25のエリアを順繰りに探索しなくていけないのである。それらもまた、この迷宮が古代魔導文明の遺物だと看做す根拠となっている。
兎にも角にも攻略には水晶地図板が必須のこの『精霊の鏡』は、水晶地図板の所持が認められているCクラス冒険者以上ではないと攻略は不可能な迷宮となっていた。
「さてと……」
先ずは水晶地図板で進路を確認する。順調に進んで大体1日の行程でAエリアからBエリアに到達出来るだろう。実はコーゼストに地図制作をして貰いながら逐一念話で進行方向を指示してもらうので、恐らく最短距離で攻略出来ると思われる──少し狡い気がするが。
『道案内はお任せ下さい』
コーゼストが念話で俄然意欲を示す。まぁやる気があって何よりである。とりあえず進むか………… 。
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「ヴゴァァァァァ!!!」
ステゥビッド・エイプ達が全部で6体、牙を剥いて迫る! 最初に接近して来たステゥビッド・エイプが振り翳した爪の一撃をカイトシールドで受け止める!
こいつ等は普段はノロノロと動き回っているんだが、獲物が不用意に近付くと不意に素早さを増して襲い掛かって来る。全く、何処が愚鈍な猿人なんだ──!
頭の中で悪態を付きながら横を抜けて行くステゥビッド・エイプ達に対応すべく、後ろのルアンジェとファウスト達に短く指示を飛ばす俺!
それにすぐさま呼応してエイプ達を迎え撃つルアンジェとファウスト達! 突っ込んで来たエイプ3体に対しルアンジェは、鎌剣を片手で構えると反対の手を鋭く振り出した!
「ウガッ?!」「ウゴッ!?」「ガアァァ?!」
次の瞬間、ステゥビッド・エイプ達の片眼に手投剣が突き刺さる! そうして動きを止めたエイプ達の間を素早くすり抜けるルアンジェ! いつの間に両手に構えた鎌剣で、綺麗にエイプ達の両脚を切り裂いていたのだ!
完全に動きを封じられたステゥビッド・エイプ達に対しユリウス達がトドメを刺す! 残りのエイプはファウストとヤトがきっちり片付けていたし、アンはユリウスを支援態勢していた。因みに最初のエイプは俺の歩兵剣を胸に突き立てられ絶命していたのは言うまでもない。
「なかなか見事なお手並みだな」
剣に付いた血をなめし革で拭って鞘に納め、ファウスト達を労っていたらユリウスが近付いて来た。
「それに私達に止めを譲ってくれて感謝するが──良いのか? 君達に頼んでおいてこんな事を言うのも何だが、ウィル達の格稼ぎにはならないだろう?」
「うん? あぁ、それは気にしなくても大丈夫だから」
申し訳なさそうなユリウスに、なるべく明るい声で答える。と言うかユリウスは貴族の割に謙虚だな。少なくとも俺の知っている上位貴族ってのとは纏っている雰囲気が明らかに違う。
「そう言って貰えると、こちらとしても有難いが……」
「まぁ俺達はこの迷宮の奥まで行くんだし、経験値ならこの先幾らでも稼げるから安心してくれ」
俺がそう言うと漸く明るい顔を見せるユリウス。こう言う貴族がこの国やこの世界の政治を担ってくれればいいのにな………… 。
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兎にも角にも『精霊の鏡』AエリアからBエリアまで、ほぼ予定通りに攻略出来そうである。
思いの外ユリウス達は優秀であったのがやはり大きい。コーゼストにこっそり視てもらった所、ユリウスは格が47、ヒルデガルトとヨアヒムは格44だったのには驚いた。貴族の御曹司としては随分高いと思う。
余談だが俺達の現在の格は俺が格69、アンが66、ルアンジェは推定67、ファウストは69、デュークは70で、ヤトは一番高く72だそうだ。気付かないうちに俺の格が間もなく70に到達しそうである。
さらに因みに、この『精霊の鏡』に出現する魔物の格の平均が50みたいである──現状ではあるが。
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「今日はここまでだな」
避難所まで来た所で水晶地図板を確認すると、日暮れの時間を迎えたので夜営する事にした。ユリウス達には俺が無限収納魔道具持ちだと言う事は予め話してあるので、準備をするのには全く問題無い。
なので無限収納ザックから俺達は黒パン、ユリウス達には燕麦粥、それと干し肉を取り出し、干し肉は切り分けたものを魔導焜炉で炙り塩を振り、小樽からワインを木杯に注ぐとアンとルアンジェが手早く配膳を済ませ、ヒルデガルトもアンに聞きながら配膳を手伝っていた。ファウスト達には勿論干し肉を山盛りである。正直、迷宮の中なのに豪勢である。
「準備出来ましたよ」
「ん、完璧」
「若、お食事の準備が整いました」
配膳完了を告げる言葉も三者三様である。
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「──成程、ウィルはその様な冒険をして来たのか」
食後、ユリウスから俺自身の冒険譚を聞かせて欲しいと頼まれ仕方なく話す事にした。主に『魔王の庭』でのファウストとの出会いからイオシフの『混沌の庭園』での蟻亜人との邂逅、そして再び『魔王の庭』でのヤトとの激戦等々を。
勿論コーゼストの事は支配の魔道具として、ルアンジェの事はイオシフで孤児を仲間にした事として色々誤魔化したのは言うまでもない。ルアンジェは何も言わなかったがコーゼストから絶賛抗議を念話で受けた。
「凄い戦歴ですね! 我々の家臣団には疎か、他の貴族の家臣団にもラミアと戦った者は皆無です!」
ひと通り話し終えるとユリウスは感心したみたいに、ヒルデガルトに至っては拳を握り締めながらキラキラした瞳で熱っぽく語られてしまった。
「ん、そう。ウィルは凄い人」
そして何故かドヤ顔をするルアンジェ。はっきり言って羞恥の嵐の只中に放り込まれた気分である。
「流石はSクラス冒険者、と言う事か。いや、冒険者を辞めて我が家の家臣団に来て欲しいくらいだ」
「──それは勘弁して欲しい。人に仕えるのは柄じゃないんだ」
ユリウスからの勧誘を丁重にお断りする──権力側には居たくないからな。今回だってギルド職員から懇願されたからに過ぎないんだから。
「何故です? ウィル殿の年齢と実績なら家臣団でも直ぐに頭角を現し、出世も出来るでしょうに」
アンと魔法の談義を交わしていたヨアヒムが横合いから言葉を投げ掛ける。
「……俺には冒険者の方が性に合っているからな」
何とかそれだけ言ってはぐらかす俺。これ以上は勘弁して欲しいものである。
「ヨアヒム、止めたまえ──済まなかったウィル。配下の非礼は詫びる、この通りだ」
ユリウスは手を上げヨアヒムを制すると俺に軽く頭を下げ謝罪して来た。
「! 頭を上げてくれ。そんなに伯爵家の次期当主が軽々に頭を下げるものじゃない。そちらの謝罪はしっかり受けさせてもらった!」
俺は慌ててユリウスに謝罪を受け入れる旨を告げて頭を上げさせる。ヨアヒムもヒルデガルトも慌てて俺に謝罪して来たのは言うまでもない。
しかしユリウスは、本当に何処までも謙虚な男である。まるで蟻亜人の女王ナミラに再度会っている気がする。彼の様なヒトが将来シャヴァネル伯爵家をより善き道に導く事だろう。
俺は彼と出会えた事を素直な気持ちで、滅多に祈らない神に感謝した。
貴族のユリウス達と臨時パーティーを組んでの冒険の最初はいかがだったでしょうか?
ユリウスは本当に貴族らしからぬイイ男です。お供のヒルデガルトとヨアヒムも強いです!
そして冒険は次回も続きます!
愚鈍な猿人…………体高1.6メルト程の猿と言うより類人猿の魔物。普段はゆっくり行動しているが獲物を見つけると素早い動きで攻撃して来る。長い爪が武器。所謂ナマケモノ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




