精霊の鏡へのいざない
本日は、本編第七十七話を投稿します!
またもやグラマスに呼び出されたウィル達『黒の軌跡』のメンバー。
また面倒事の予感が…… 。
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「良く来たね」
相変わらずの爽やかな笑顔で出迎えてくれるセルギウス殿。つい最近もこんな事があった気が……? まぁイイか………… 。
「それで今日は何の用なんだ?」
俺は早速用件を問い質す。だってこうした事は早い方が良いに決まっているからな。
「君も相変わらずだねぇ……まぁ仕事に真面目なのは良い事だけど」
グラマスは若干苦笑いを浮かべながら煽ててくれるが──ただ単に早く楽したいだけなんだが? 一方のグラマスは
「勿論、君達に頼み──いや、取り繕うのは止めよう。グラマスとしての命令を伝えるよ」
と居住まいを正しながら話して来た。俺達も傾聴する姿勢を取る。
「君達に『精霊の鏡』に行って欲しいんだ」
精霊の鏡──それはオールディス王国の東部地方にあるエスト湖の畔に存在する『迷路型迷宮』である。言い伝えでは古代魔導文明の遺跡らしく、ラーナルー市の「魔王の庭」とは対極に位置する迷宮でギルドでの評価はA級である。しかし── 。
「俺達はその迷宮の転移陣は使えないんだが?」
そうなのだ。通常迷宮の管理端末の管理する転移陣は、一度でもその迷宮を探索していないと未登録として扱われ使用不可なのである。そうなると必然的に一から探索しなくてはいけなくなる。
「わかっているよ。申し訳ないが君達には最初から攻略して貰いたい──面倒だろうけどね」
本当に申し訳なさそうな顔を見せるグラマス。そこまで気にしなくてもいいんだが?
「そちらは何とかするが──『精霊の鏡』に潜って何をすればいいんだ?」
そもそも目的がわからないと困る!
「『精霊の鏡』の奥深くに存在するある施設から回収してきて貰いたい物があるんだ。それは僕にとっても君達にとっても益のある物なんだ」
グラマスは何やら含みのある笑みを浮かべながら、そう宣った。
「ある施設?」
「うん、正直に言うとだね──その施設は僕が眠っていた場所なんだよ」
いきなりとんでもない事をサラッと打ち明けないで欲しいものである。あまり巻き込まれたくないんだが…… 。
「そこには当然、僕が冷凍睡眠されていた設備がそのままの状態であるんだけど、その設備の記録核を回収してきて欲しいんだ。勿論そこで見つけた物は依頼品以外、自由にしてくれて構わない」
「大盤振る舞いだな……しかし良いのか?」
あまりの羽振りの良さに、思わず裏があるんじゃないかなと怪しんでしまうんだが? だがグラマスは笑顔を崩す事無く
「別に誰彼構わずと言う訳でも無いんだ。アソコにあるのは間違い無く僕ら古代魔導文明人の遺産だからね。だけど使えなければ意味は無い。ならば使える可能性がある人達に、と言う訳さ」
成程、理には適っている。まぁこちらとしても元より断れないんだが…… 。
「了解した。それでは準備出来次第『精霊の鏡』に向かう事にする」
「頼むよ。エスト湖のギルド支部には話を通しておくからね。あと向こうには非常用転移陣を使って貰って構わないから」
了承の意を示す俺に対し、更なる気遣いを見せてくれるグラマス。このヒトは本当に良い意味で " 人誑し " なのだろう。
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オールディス王国東部にある街ディリイースは、風光明媚なエスト湖とその畔に在る迷宮『精霊の鏡』に来る観光客と冒険者で賑わっている地方都市である。
だがこの街は迷宮より観光に力を入れており有名な迷宮である『精霊の鏡』すらも、その神秘的な外観から観光客には人気であった。
尤もその事はエスト湖畔が王家の保養地として選ばれている事に起因するのだが。
何はともあれ準備を整えた俺達は非常用転移陣を使い、ディリイースにあるエスト湖冒険者ギルド支部に到着した。
転移陣のある部屋からギルド内に入ると、ヤトは周りの人達の視線を一斉に集める。そういやさっきも転移陣担当から驚かれたが、やはり高位の魔物であるラミアが、しかも武器を携行したまま普通に迷宮外を闊歩していると嫌が上にも警戒せざるを得ないんだろうな。
だがヤトの腕にある従魔を示す腕輪を見ると、そうした尖った視線も瞬く間に消えていったのだが。
気を取り直して受付帳場に向かい、認識札を見せながらパーティ名を告げると直ぐに話が通じた。
「はい! グラマスから話は来ています。『黒の軌跡』の皆さん、ようこそディリイースへ! Sクラス冒険者を迎えられて光栄です!」
グラマスはきちんと話していてくれたみたいであるが──俺達がSクラスだと言う事が周りの冒険者達に知られてしまった。あんまり目立ちたくないんだが……はぁ。
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とりあえず迷宮への入宮許可証を貰い、拠点になる宿屋をギルドから紹介してもらった。
『暁の男爵』と言う宿屋で従魔と一緒に泊まれる宿屋と言う触れ込みだった。実際の所、ひと部屋1泊銅貨5枚と従魔1体につき鉄貨6枚とやや割高ではあったが雰囲気は良さそうであった。
一夜明けて『精霊の鏡』に向かう。
ディリイースから歩いて30分ほどの湖畔に、その迷宮は存在していた。
見た目は石柱が幾重にも林立し1階建てなのだが、屋根部分は高く造られていてデュークが原寸大で入れそうである。その外側には蔦が生え神秘的な雰囲気を醸し出していて、迷宮手前の部屋までなら一般の観光客も入る事が出来る様になっていた。
因みに高位の冒険者を雇って貴族の御曹司などが潜る事も屡々あるらしい──正直面倒な話である。
俺達は正面門で入宮許可証を見せ、早速迷宮内にはい──ろうとして何故か職員に止められた。
「ウィルフレド様。申し訳ありませんが迷宮探索に同行させて貰いたい方がいらっしゃるのですが……」
いきなりだな!? しかし平身低頭のギルド職員を前にとても断れる雰囲気ではなく、仕方なくその同行者に会う事にした──どうやらさっき話してた面倒事に巻き込まれたらしい。
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正面門の脇にある職員の詰所にその一行は居た。見事なまでの金髪を垂髪にした歳の頃21、2歳の顔立ちが整った青年と、赤味がかった金髪の総髪の凛々しい顔立ちの歳の頃20歳前後の女性と、褐色の癖っ毛のある長髪の同じく歳の頃20歳前後の青年である。
金髪の青年とストロベリーブロンドの女性は軽鎧、褐色の青年は革鎧を着込み、金髪は歩兵剣をストロベリーブロンドは細身剣を、褐色は短杖をそれぞれ身に着けていた。
「紹介します。こちらはシャヴァネル伯爵のご子息であるユリウス・フォン・シャヴァネル様と従者のヒルデガルト様とヨアヒム様です。ユリウス様、こちらがSクラス冒険者パーティ『黒の軌跡』のウィルフレド様御一行です」
「ウィルフレド・ハーヴィーだ。彼女はアンヘリカ・アルヴォデュモンド、こっちの娘はルアンジェ。こいつは俺の従魔のラミアのヤトだ。あとファウストとデュークと言う従魔がいる」
ギルド職員の言葉を受け手早く自己紹介をする。アンもルアンジェも「よろしく」と頭を下げる──ヤトは頭も下げずそのまま佇んでいたが。すると向こうも椅子から立ち上がり
「シャヴァネル伯爵の嫡男ユリウス・フォン・シャヴァネルだ。彼女がヒルデガルト、彼がヨアヒムだ。2人とも私の護衛なんだ。宜しく頼む」
と笑顔で自己紹介を返してきた。ヒルデガルトとヨアヒムも頭を軽く下げる。しかしヤトを見ても顔色ひとつ変えないとは、大した胆力である。普通貴族の子女だと、こうした魔物とは直接対峙すると萎縮すると思うんだが?
「こちらこそよろしく頼む。えっと、ユリウス……様?」
少し畏まるみたいに返事を返すとコーゼストが
『珍しいですね。マスターが権力に媚びるとは』
さも珍しいものを見た風情で言ってきた──勿論、念話でであるが。
『媚びてはいないが、一応はちゃんと対応しないと不味いだろが……』
権力に媚びるつもりは全く無いが、逆らって酷い目に遭うのも勘弁して欲しいものである。だが目の前に立つ彼は気負いも気取りも無く
「そんなに畏まらないで欲しい。今回はこちらが世話になる立場なんだから。それに私の事はユリウスで構わない」
そう言いながら笑顔で右手を差し出して来る。なかなか格好良い男である。
「では俺の事もウィルと呼んでくれ」
そう言いながら出来るだけ笑顔で差し出された手を握り握手を交わす──怖い顔してないよな?
「それでは早速出発しようか。こちらは準備が出来ている」
握手を解くとユリウスが言ってきた。勿論こちらに否は無い。
「ではこちらに」
ギルド職員に案内されて詰所を出て、最初の広い部屋に来た。
「ここはこの『精霊の鏡』の玄関に相当する部屋です。あの奥にある扉から迷宮になります」
「それじゃあ皆んな準備は良いな」
案内してくれた職員に礼を告げると、迷宮に続く扉に手を掛ける。思えばここも初めて潜るな…… 。
全員の顔を見ると皆一様に頷き、俺は扉を開ける。
さぁ、探索開始だな!!
結局グラマスから頼まれたのはA級迷宮『精霊の鏡』絡みの依頼でした! なので次回からはまた新しい迷宮でのウィル達の活躍をお送りします!
それにしても相変わらず面倒事に巻き込まれるウィルではあります(笑)
精霊の鏡…………オールディス王国東部ディリイースのエスト湖湖畔に有るA級迷宮。内部は空間魔法で拡張されている迷路型の迷宮である。
ユリウス・フォン・シャヴァネル…………シャヴァネル伯爵家の嫡男……と言っている、長い金髪を垂髪に纏めたイケメン。全然偉ぶらず気さくな青年。22歳。
ヒルデガルト…………赤味がかった金髪を総髪にした凛々しい雰囲気の女性剣士。ユリウスの護衛。20歳。
ヨアヒム…………褐色の癖っ毛の長髪の青年魔法士。ユリウスの護衛。19歳。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




