嵐を呼ぶ昇級試験 (前編)
本日は第七十二話を投稿します!
再びグラマスに呼び出されるウィル達一行。今回はどの様な話なんでしょうか?
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「1ヶ月後に昇級試験を受けて貰いたいんだけど」
王都ギルド本部にまた呼び出されてのグラマスの第一声がこれである。そんなに爽やかな笑顔で言われても……なぁ?
「ひとつ質問いいか?」
俺は挙手をしながらグラマスに訊ねる。
「何かな?」
「何で1ヶ月も猶予期間があるんだ?」
俺の問い掛けに少し困った顔を見せるグラマス──ちょっと珍しいのを見た気がする。
「うーん、実はね……他の都市のギルマス何人かから意見が寄せられてね。Aクラスになってから未だ6ヶ月余りの君達を軽々にSクラスに昇級させるなら、それ相応の成果を見てからの方が良い、とね…… 。まぁ実際の所、ヒギンズ君がつい口を滑らせたんだけど」
何と言うか案の定と言うか……やっぱりそう言う事を言う奴は居るんだな。そしてギルマス、あとでとっちめる!
「……それを説得する為に1ヶ月なのか…………」
「いや、そこは絶賛解決したんだけどね」
渋面で納得する俺に対し、あっけらかんと解決済みと告げるグラマス。いやいや、今の話はどうなった?! ってか何故に解決したんだ?!
思わず心の中でそう突っ込みながら、ジト目をグラマスに向ける。
「正確には君達が先日生産設備を整備してくれたので、そうした声を納得させられたんだけどね。寧ろその所為で逆に試験官役のSクラス冒険者の都合がつかなくなってね。だから1ヶ月後なんだよ」
そう言って戯けた様子で答えるグラマス──人徳どこ行った?
「兎に角今日からちょうど1ヶ月後の朝、この王都ギルド本部の訓練場で君達「黒の軌跡」の昇級試験を執り行う。準備を整えておいてくれたまえ」
戯けた表情から一転、真面目な顔で指示を出すグラマス。さっきとの差異が激しい。でもまぁ、そう言う事なら仕方ない……かぁ…………はァ。
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「……結局、お前達かよ」
「まぁ、そう言うな!」
げっそりする俺の目の前には暑苦しい美丈夫──オルティース・トリスタンが、これまた暑苦しい笑顔で立っていた。きっちり1ヶ月後、昇級試験の為に王都ギルド本部の訓練場に来てみれば、オルティース以下『デュミナス』の面々が試験官として待っていたのである。
「いや〜、前々から君達の試験官役は自分にやらせて欲しいと言われていてね」
グラマスが相変わらずの笑顔で教えてくれるが……何をグラマスに予約なんかしていたんだ、オルティース………… 。
「まぁ良いではないか! 細かい事は気にするな!」
そう言って呵呵と笑うオルティース。いや、お前に言われると腹が立つんだが?
「……はァ、それで試験はどうするんだ?」
色々諦めてグラマスに質問を投げ掛ける俺。はっきり言って思考放棄である。
「うん、この昇級試験は個人の資質は勿論、パーティー全体の能力を見定めさせて貰いたい。なので君達『黒の軌跡』には全力で『デュミナス』と戦って欲しい」
「それはファウスト達も参加させて良い──と言う事か?」
「うん、それは勿論だよ!」
俺の率直な疑問に、サラッと答えるグラマス。それなら良い──のか?
「では早速仕合おうか、ウィル!」
そう言って今にも剣を抜いて飛びつきそうなオルティースの後頭部を、「この馬鹿リーダー!」とスパーンと叩いて諌めるハイエルフ──ベルナデット女史。前も思ったんだが、この人も苦労しているんだな………… 。
「ちょっと待て。準備に少しぐらい時間をくれないか? メンバーを揃える」
色々痛む頭を抑えながら、何とかそれだけを告げてファウスト達を顕現する。俺の目の前に3つの輝きが現れ、それぞれ形を成す。
「ヴァンヴァン!」
「…………」
「御主人様の1番の僕、ラミアのヤト参上!」
ファウスト、デューク、そしてヤトが顕現するが──ヤトよ、少し台詞が変わってないか?
「おぉー、ヘルハウンドに金剛石ゴーレムは以前見たが……本当にラミアを使役したんだな!」
一方のオルティースはヤトを見て嬉しそうな声を上げる。こいつは本当に戦闘狂だな? 兎にも角にも俺達とオルティース達は、そのまま訓練場の中央まで進み出た。
「では双方準備は良いかな? これよりAクラス冒険者パーティー『黒の軌跡』のSクラス昇級試験を始める。対戦相手はSクラス冒険者パーティー『デュミナス』にして貰う。ルールは単純、相手を故意に殺そうとする行為は厳禁、どちらかのギブアップかパーティーメンバー全員が戦闘続行不可能と見なされた段階で勝敗が決する。では始め!」
「では改めて……仕合おうか、ウィル!!」
オルティースが獰猛な笑みを浮かべた顔で一言吠えたのだった。
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左手で剣を抜き放ちつつ、右手の盾を構えるオルティース。その背後には短剣を逆手に構えるバルドと短杖を構え魔法を放つ準備を整えたベルナデット。
そこから更に後ろには柄の長い鎚矛を前に突き出し、聖魔法をすぐさま発動出来る様にするゼラフィーネが控えていた。
対して俺達は前衛に俺とファウストとヤト、そのすぐ後ろに遊撃としてルアンジェ、更に後ろにアンが弓を構え、デュークはアンの直衛をして貰っている。
「行くぞ、ウィル!」
「旦那、突っ込み過ぎるなよ!」
前と同じ様にオルティースが突っ込んで来た! バルドは遊撃らしい。
「──『多重風弾』」
「──『光の神壁』」
一方のベルナデットとゼラフィーネはそれぞれ魔法を発動させる! オルティース以下『デュミナス』の面々が光に包まれると同時にベルナデットの頭上に無数の空気の渦が生まれ、こちらに一斉に押し寄せて来た!
「任せて!」
ヤトがひと言叫ぶと両腕を大きく広げる! 瞬く間に目の前に濃密な魔法障壁が現れ、押し寄せて来た無数の渦を受け止めた! そして魔法攻撃の到達にタイミングを合わせて突っ込んで来るオルティース! その横薙ぎの斬閃はヤトを狙い──
「させるか!」
俺は迅風増強を発動させ、瞬時にオルティースとヤトの間に身体を入れながらカイトシールドを構えつつ、貫甲で迎え撃つ! 狙いはオルティースの左肩のみ!
──ガガガキーーン!!!!!
だが俺の剣はオルティースの盾を受け止められる! だがそれでもオルティースを押し留める事には成功したみたいで、俺のカイトシールドはオルティースの剣をしっかり受け止めるがオルティースは自ら構えていた盾を弾き上げられ体勢を崩す。そこに追撃を掛けようとするが、オルティースは素早く後退する!
「ありがとう〜、御主人様!」
ヤトが瞳を輝かせて抱きつこうとしてくるが──今は戦闘中だぞ?! 一方のオルティースは
「流石だな、ウィル!」と、こちらは獰猛な笑みを深め眼を輝かして来る──本当にお前は戦闘狂だな?!
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そんな俺達とオルティースの邂逅の合間をすり抜け、ルアンジェが『デュミナス』に肉薄する!
「すまんが、ここは通せないぜ」
何時の間にかルアンジェの目の前にはバルドが短剣を構え進路を塞いでいる!
「ん、でも押し通る」
ルアンジェはそうひと言呟くと、不意にその姿がブレる! 例の足捌きだ! その幾人にも増えた様は正に分身である。そしてそのままバルドに襲い掛かるルアンジェ!
だがしかし、ルアンジェの鎌剣はバルドを捉える事が出来なかったのだ。ルアンジェの斬撃が当たる瞬間、バルドの身体が霧の如く掻き消えたのだ!
「──惜しかったな」
その呟きと共に、突如ルアンジェの背後に姿を現すバルド! 手にした短剣を止まったルアンジェの背中に突き立てられようとした瞬間、今度はルアンジェが何時の間にかバルドへと体を向け短剣を鎌剣で受け止めた!
「その油断が命取りになる」
ひと言呟くとバルドを切り裂こうと、もう片方の鎌剣を振るう──が、身体に当たる寸前で光の壁が現れバルドの身を守る! どうやら先程ゼラフィーネが唱えていた聖魔法の防御みたいである。
「む、残念」
「やれやれ、おっかないお嬢ちゃんだぜ……」
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そんな夢幻の様な闘いをルアンジェとバルドが繰り広げている一方で、俺はファウストとヤトと共に引き続きオルティースと対峙していた。
「あいつ、なかなか手強いわね! 御主人様、『竜の咆哮』を使ってもいい?」
ファウストがオルティースと交戦している最中にヤトが物騒な事を言ってくる。
「駄目だ! 大体ヤトはアイツを殺さない様に加減出来るのか?!」
大体、『竜の咆哮』ってコーゼストの魔法障壁すらも抜いた代物だろうが?!
「むぅ〜」
「ファウスト、下がれ!」
むくれるヤトを放っておいてファウストに指示を出す! ファウストは交えていた爪を引くと、ひとっ飛びでこちらに戻ってきた。
『そうむくれるな、ヤト。ここはお前の得意技で頼む』
俺はファウストを労いながら、まだむくれているヤトに念話で話し掛け長剣を構え直す。
『それって……あれかな?』
『そうだ。お得意の魔術の腕前で、先ずはアンを助けてやってくれ』
『涅森精霊の方ね……わかったわ!』
そう指示を出すと、俺は体勢を立て直して突っ込んで来るオルティースに向かい空裂斬を放った! 同時に迅風増強を発動させ空裂斬の斬撃波を追い掛ける!
「行くぞ、オルティース!!」
「応! 来い」
『マスター、楽しそうですね……』
コーゼストが呆れ気味に言ってきたが──俺は戦闘狂なんかじゃないからな! ……………多分。
グラマスの用件はウィル達『黒の軌跡』の昇級試験の話でした!
そして試験官として再登場の、オルティース・トリスタン率いるSクラス冒険者パーティ『デュミナス』の面々!
そして試験と言う戦いは次回後半戦です!
*多重風弾…………ベルナデットが使用する風属性の複数対象魔法。拳ほどの空気の渦を弾丸として無数に撃ち出す。
*光の神壁…………ゼラフィーネが使用する聖魔法。対象者に対する物理攻撃・魔法攻撃をある程度防御する魔力の皮膜を施す。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




