古代魔導文明の遺民
本日、第六十八話を投稿します!
王都ギルド本部でのグラマスとの話はまだ続いています。
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「何の話かな?」
セルギウス殿は笑顔を崩さずにコーゼストに訊ねる。コイツはいきなり何を言い出すんだ?!
『私がソレを推測する理由なら3つ挙げられます』
一方のコーゼストは至って平静でいつも通りである。
『まず第一に、この大陸の呼称です。この大陸に住むヒトは──勿論全てのヒトではありませんが──この地の表現は唯の大陸と言い、東西に在る他の大陸はそれぞれ東大陸・西大陸と表現するのが普通です。ですが貴方はルォシー大陸と仰った。その呼称は嘗ての古代魔導文明で呼ばれていた名前です』
……すっかり聞き流していたが、確かにグラマスは最初にそんな事を言っていたな………… 。
『第二に貴方の身体的特徴です。厳密にはその瞳ですが──この既知世界において、その様な虹色の瞳は今の所確認されていません。そしてそれこそは古代魔導文明人の特徴に他ありません』
確かに……俺やギルマスの瞳の色は褐色だしアンはエルフに多い翠玉だし、まぁルピィは珍しい水色だが…………虹色の瞳は初めてお目にかかる。
『そして第三に──こちらは一番最初に聞いた情報なのですが──貴方の年齢です。150歳を越えるとなると、エルフ族とドワーフ族の血統以外ではまず古代魔導文明人か古代魔族しかいません。勿論貴方がエルフやドワーフとの混血、若しくは未知の長寿種であるなら違いますが──少なくとも貴方にはエルフ若しくはドワーフの身体的特徴は見受けられません』
そうコーゼストは断言して締め括った。よっぽど自信があるらしい。一方のグラマスは
「良くわかったね、流石だよ。そう、僕は古代魔導文明人さ。恐らく最後のね」
と、割と達観したみたいに認めたのであった。しかし、古代魔導文明人とはな! まぁ古代魔族に造られたコーゼストだからこそ気付けたとも言えるんだろうが、すると………… 。
「すると、貴方は一体何歳なの?」
おっと! 俺が聞く前にルアンジェが質問を投げ掛けてしまった!
「うん? まぁ見た目通りでは無いけどね。記憶しているのは少なくとも──600は越している筈なんだけどね」
!? ろ、600年以上だって?!? するとアンさんよりも長生きしているんだな…… 。とても歳上には見えないが。
「しかし、今までどうやって暮らしていたんだ?まさか600年も何処かでひっそり暮らしていた訳じゃないだろ?」
つい疑問が口をついて出てしまった。
「それはだね──僕はとある施設で冷凍睡眠していたんだけど、今から250年前にとある探索者──今で言う冒険者の手で覚醒させられ、とある貴族の元に保護されて暮らしていたんだよ。まぁ今から250年も前の話だけどね。その保護してくれた貴族はライナルト子爵家の当主で、当時跡取りが居なかった当主の頼みで養子になってライナルト家を継いだんだ。そのあと当主となりライナルト家と王族を繁栄させ、一方で当時はバラバラに活動していた冒険者達をひとつに纏めて冒険者ギルドを創設したんだよ。その時の功績も含め数々のは手柄を立てたので侯爵位を賜ったけどね」
割とあっさりと自身の半生を語るが、結構波乱万丈な半生だと思うんだが……ん? ちょっと待てよ?
「古代魔導文明が滅んだのは今から983年前だと聞いたんだが……年齢の計算が合わないが?」
「あー、それはね……僕は古代魔導文明の滅亡間近だった990年前に冷凍睡眠に入ったんだけど、その時は既に350歳ぐらいだったんだよ。だから冷凍睡眠していた期間も含めると1000歳は越すけどね。そもそも僕達古代魔導文明人は平均寿命が2000年ほどと長寿種なんだよ」
俺の挙げた疑問にも丁寧に対応するグラマス。流石に長く生きて来ただけの事はあり人が出来ている。何処かの厚かましさ全開の誰かとは違う。
『何か、物凄く誹謗中傷されている気がするのですが……?』
『心配するな、気の所為だ!』
コーゼストの念話の突っ込みに対し、念話で受け流しする俺。お前は一度自分を省みろ!
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「まぁとりあえずは、そう言う事だと理解しておいてくれれば嬉しいんだけどね」
セルギウス殿はそう言うと、パンッと手を打って話を切り換える。
「さて、今日ここに来て貰ったのはこんな話をする為じゃ無いんだ。一番の目的は既に話に出た「魔王の庭」の生産設備について聞く事だけど、僕は直にコーゼスト殿と話したかったんだよ」
『それで──私は合格でしょうか?』
意味深なコーゼストの問い掛けに、笑みを深めるセルギウス殿。その問い掛けに慌てる事無く
「わかっていたのかい……まぁとりあえずは合格かな? キミは信用に足ると思うし、これからは信頼しても良いかな、と思うよ。勿論ウィルフレド君達もね」
サラッと答えるが、何の話なんだよ……全く。
『セルギウス殿は先の話で私を試されていたのです。古代魔族に創り出された有知性魔道具である私が信用に足るか、と』
俺の疑問に淡々と答えるコーゼスト。俺はコーゼストとは嫌が上にも一番付き合いが長いからあまり気にも留めずにいたが、知らない人──特に古代魔族と因縁があるセルギウス殿からすると、やはり気掛かりなんだろうな。
「別に勘繰るつもりは無いんだけどね……もし気に障ったら謝るよ」
『私は何も気にしてませんので謝罪は不要です』
「コーゼストもこう言っているから、気にしないでくれ」
セルギウス殿が申し訳なさそうに謝罪してくるがコーゼストが気にしてないのだから、そこまで畏まられると逆にこちらが申し訳ない気持ちになる。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」
そう言ってまた笑顔を見せるセルギウス殿──グラマス。人の懐に入るのが上手い人である。
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「まぁ、この話はまたの機会にと言う事で……もう1つの用件を片付けよう。ウィルフレド君、君が使役している魔物達を紹介してくれないかな? 勿論元の大きさでね」
またもや話題を変えるグラマス。そういやそんな話もあったな…… 。
「ここで良いのか?」
一応確認する俺。あとで応接揃の賠償とか言われたら目も当てられん。
『相変わらず小心者ですね。ギルマスの執務室では何時もやっている事ではありませんか』
『なんだよ、ビビりとか? 慎重だと言えよ!』
またもやのコーゼストの念話の突っ込みにまたもや念話で抗議の声を上げる俺。
「勿論構わないよ。ただ……なるべくなら壊さないでくれると有難いけどね」
「ゼンショシマス……」
しっかりバレていた。
俺は気を取り直してファウスト達を顕現する! 執務室の中に光が3つ現れ、それぞれ形を成していく。やがて光が薄れると、ファウスト・デューク・ヤトが姿を現した。
「ヴァンヴァン!」
「……(コク)」
「初めまして。私が御主人様の一番の僕、ラミアのヤトよ!」
「……なんだよ、一番の僕って」
ファウストは尻尾を元気良く振る以外は大人しいし、デュークは部屋の広さに合わせて顕現させたので問題無いんだが……ヤト、その尻尾を後ろのソファーに巻き付けながらの世迷言は止めてくれないか?
一方のゾラと執事のファルトマンは目を見開き、グラマスは相変わらず笑顔を崩す事無くファウスト達を見ていたが、頬に汗が一筋流れるのを俺は見逃さなかった。
「こ、これはなかなか壮観だ……ヘルハウンドに宝石ゴーレムに、本当にラミアなんだね」
まぁ、普通はいきなり目の前に使役されているとはいえ魔物が3体も現れたら、こう言う反応だよな…… 。最近感覚が麻痺しているみたいである。
『そうした感覚が麻痺するのは怖いですね』
コーゼスト……お前が言うな………… 。
「しかし、これだけ見事に使役しているとは……これがコーゼスト殿の能力なのかい?」
『確かに「共生化」は私の固有能力ではありますが、この3体を真に使役出来ているのはマスター・ウィルだからこそです』
「まぁ一応使役とか言っているが……コイツらは俺にとって仲間だからな。勿論アンもルアンジェも大切な仲間だが」
グラマスの賛辞にコーゼストはさも当然のように宣うが、間違い無く俺が今こうしているのは皆んなのお陰だと思っているからな。まぁヤトにはこれから頑張ってもらうけどな!
「ふむ……君達はお互いに信頼関係にあるんだね」
グラマスが感心したみたいに呟く。
「自分の背中を預けるんだ。信じてなけりゃ任せられない」
俺は偽る事無くグラマスにそう告げる。するとグラマスは再び意味深な笑みを浮かべながら
「そんな君達『黒の軌跡』に頼みたい事があるんだ」
そう俺達に向かって宣ったのだ。
グラマスの秘密とは古代魔導文明人の生き残り(遺民)と言う事でした!
名探偵コーゼストの推理はバッチリです。
そしてこの話はまだ終わりません!次回にも続きますのでお楽しみに!!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。