本部への報告 〜年齢不詳な最高責任者〜
本日、第六十七話を投稿します!
王都にある冒険者ギルド本部に出向いたウィル達一行。いよいよ最高責任者との初顔合わせです!
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転移の光が薄れ、視界がハッキリしてくる。
あのあとギルマスと口喧嘩と言う話し合いを経て、今回の件について何があっても口出ししない事を了承させギルドの非常用転移陣で王都ギルド本部に来たのだが──
「ようこそ、王都ギルド本部へ。お待ちしておりました」
早速のお出迎えである。こっちは一介の冒険者なんだから、あまり畏まられても困るんだが……良く見ると執事っぽい。
「それでは御案内致します。こちらにどうぞ」
執事と思しき黒服の男性に先導されて転移陣部屋の扉を開けて建物内に進み出ると、ラーナルー市のギルドよりも広い空間がそこには拡がっていた。
良く見るとヒトに混じって、エルフやドワーフの亜人や獣人の姿を数多く見受けられるのも相変わらずである。
「へぇー、ここが王都のギルド本部……」
アンとルアンジェが興味深げにキョロキョロと周りを見渡している。まるで上京して来たばかりの地方出身者である。
「ここがこのギルドの大広間でございます。冒険者の方々が多い故、あまりお離れになりません様に」
黒服の男性──執事氏がアン達に注意を促す。俺は元々王都出身だし冒険者登録もここだったので慣れているが、アンとルアンジェにとっては色々目新しいのだろう。
「それではこちらに」
執事氏に先を促され、俺達はそれに従って歩いていった。
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1階の大広間を通り抜けると目の前に大きな階段が現れ、執事氏は「こちらでございます」と俺達を2階に案内してくれた。幾人かの職員とすれ違い階段を昇ると、重厚な扉が備えられている執務室に着いた。
思えばこの王都ギルドで冒険者として登録してから一瞥した以来である。
だが執事氏は執務室をそのまま過ぎると俺達を裏手に案内する。執務室の裏手にはもうひとつ同じ様な重厚な扉があり、その前で執事氏は「お連れ致しました」とひと言告げると徐ろに扉を開けた。
中はいつも見慣れているラーナルー市ギルドの執務室より広く、奥の大きな窓の傍にこれまた重厚な執務机が置かれていた。その机に腰掛けるやや小柄な人物とその脇に立つヒトと思しき人物(?)が目に入った──座っている彼がグランドマスターか。
「やぁ、良く来たね。待っていたよ」
腰掛けていた人物が気さくな感じで話し掛けてきた。見た目は14、5歳ぐらいの肩までの銀髪の少年で人懐っこい笑みを浮かべていた。
片やもう1人はヒトでは無く青みがかった鱗に覆われた蜥蜴顔をしていた──眼は爬虫類のそれであり、頭の頂より下がった左右に角らしきモノが合わせて6本生えていて、極めつけに長い尻尾があった。
それを横目で確認しながら俺は笑顔の少年に
「貴方が最高統括責任者なのか?」
そう改めて言葉で確認すると、少年は笑みを深めて
「ヒギンズ君から聞いていたのか。そうだよ、僕がルォシー大陸冒険者ギルドの最高統括責任者、セルギウス・ライナルトだ」
そう正体を明かしてくれた。そして脇に立つ蜥蜴顔のヒトに手のひらを広げる様に向けながら
「そして彼はゾラ・エルダ。爬虫類人の傭兵で、僕の──まぁ従者なんかを務めてくれている」
そう紹介してくれた。しかし──爬虫類人とはな。亜人の中でも希少種扱いを受けている戦闘種族じゃないか。
「ゾラ・エルダだ。よろしく頼む」
ゾラ・エルダと名乗った爬虫類人は俺達を金色の眼で見詰めながら軽く頭を下げた。
「あと君達を案内してくれたのは僕の執事であるファルトマン」
「ファルトマンと申します。お見知り置きを」
最後に紹介された執事氏──ファルトマンは綺麗な礼を執る。
「初めまして、俺は『黒の軌跡』のウィルフレド・ハーヴィーだ。そして」
俺はアンとルアンジェの方に手を向け2人を紹介する。
「彼女らはアンヘリカ・アルヴォデュモンド。そしてルアンジェだ」
「初めまして、アンヘリカ・アルヴォデュモンドと申します」
「ルアンジェ、よろしく」
2人とも自ら名乗りセルギウス氏に頭を下げる。それを受けたセルギウス氏はニコリと微笑みながら
「これはご丁寧にありがとう。僕も当然君達の事はヒギンズ君から聞き及んでいるよ、ウィルフレド君。それに涅森精霊のアンヘリカさんに自動人形のルアンジェさん。そして──」
セルギウス氏はそう言いながら俺の左腕に在る腕輪に視線を合わせる。
「ようこそ、『自我保有魔道具』のコーゼスト殿」
『お初にお目に掛かります、セルギウス様。御挨拶が遅れ申し訳も御座いません』
「いやいや、こうして真実の歴史の証人であるキミに会う事が出来て素直に嬉しいよ」
『恐縮です』
セルギウス氏とコーゼストの短い言葉の応酬に何やら不穏な空気を感じたが──気の所為か?
「──それでセルギウス殿」
俺がいざ話そうとするとセルギウス氏は
「あーっと、そんなに畏まらないで欲しいな。気軽にグラマスで構わないからね」
と大袈裟に両手を顔の前で振りながら、まるで友達みたいな気軽さで話し掛けて来る。それで良いのか、グラマス………… 。
とりあえず気を取り直してキチンと話しをするか。
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「──以上だ」
俺達は執務室の応接揃に腰掛けながらギルマスに話したより、より細かくグラマスに今回の件の顛末を話した。途中でアン達やコーゼストに補填して貰いながら話し終えると、黙って聞いていたグラマスは椅子の背もたれに寄り掛かりながら
「成程……話を聞くと確かにヒギンズ君の手に余る代物だね」
と、うちのギルマスに同情する様な仕草を見せる──いや、あのギルマスに同情しなくても大丈夫なんだが?
「まぁ目下の問題としては、君達が発見したその生産設備をギルドとしてどの様に取り扱うか、なんだけど……」
やっぱりか……うちのギルマスも尻込みしていた位だからな、簡単には扱いを決められないか……勿論俺個人で所有する訳にもいかないしな、持ちたいとも思わないが。
『発言をお許しください』
いきなりコーゼストがグラマスに許可を求めた。
「コーゼスト殿か。構わないよ、発言してくれて。寧ろキミの忌憚なき意見を聞きたいな」
セルギウス氏は何やらコーゼストに期待しているみたいである。
『では──先ず前提として、あの生産設備ですが第八階層の中では独立しています。つまりあの迷宮において完全に分離した物として扱えると言う事になります。事実あの部屋を通過しなくても下層には行けます。そして生産設備自体、極めて保存状態は良好であり整備すれば直ぐにでも運用を開始出来るでしょう。またその整備もあまり手間がかかる事案では無いと推測致します』
コーゼストが淀み無く一気に言い切る。グラマス達も俺達も、コーゼストが次に何を言うのか耳を欹てる。
『先ずはあの場所を「魔王の庭」と魔物の研究拠点として運用する事を推奨します。失礼ながら皆さんは、ただ魔物の狩場としてのみあの迷宮を利用していますが、それはあまりにも消極的だと思います。元々は古代魔族の「実験場」であった物です、迷宮に於ける魔物が如何様に産み出されるのか研究する事により、より効率的な迷宮の運用が成されると推測致します。具体的には魔物の数をヒトが管理する事による冒険者の危険性の減少、及び効率的な格と収入の増大、そして将来起こりうるであろう魔物の「大暴走」の抑止ですね』
スラスラと立案した計画を開陳するコーゼスト。しかし、魔物の大暴走をも抑止する事が出来うるとは想像が及ばなかったな!
「だけど、そもそもそれ等は僕達に扱える代物なのかい?」
『生産設備に必要な稼働情報については、私が責任を持って制御核を作製しますので安心してください。勿論今のヒトが扱える様にした改良版ですが』
グラマスの疑念にも淀み無く答えるコーゼスト。それを聞いたグラマスは満面の笑みで
「成程! では早速色々と手配しなくてはいけないね! 専従の職員は技術者を中心に選出するとして……先ずは専用の転移陣の設置からだな。あとは整備する為に人員を策定して……それと制御核用の魔水晶も…………うーん、楽しくなってきたなぁ!」
と心浮き立つ様な声色で呟く。こうして見ていると本当に少年であるが──ギルマスの話だと150歳以上は確定しているのだ。
「ありがとう、ウィルフレド君! そしてコーゼスト殿! 早速3日後の統括責任者会議の議題にするよ!」
そう言いながら虹色の瞳を向けて来るセルギウス氏。おや? 随分変わった瞳の色だな──── 。
そんな事を思っていたらコーゼストがグラマスに驚くべき質問を投げ掛けた!
『グランドマスター。もしや貴方は古代魔導文明人なのですか?』
初顔合わせのグラマスに対して、一歩も引かないと言うか更に上を行くコーゼスト先生。ある意味ブレません(笑)
*セルギウス・ライナルト……王都にある冒険者ギルドの最高統括責任者。見た目14、5歳くらいに見えるが実は………… 。
銀髪の髪と虹色の瞳を持つ。
*ゾラ・エルダ……希少種とされる爬虫類人。所謂リザードマン。青味がかった鱗で全身が覆われていて、長い尻尾、金色の眼、頭には3対6本の角を有する。戦闘種族。
*ファルトマン……セルギウス・ライナルトの執事を務めるナイスミドル。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




