調査報告 〜他力本願な他力本願〜
本日、第六十六話を投稿します!
第八階層の調査結果の報告ですが、何やら雲行きが………… 。
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「──んで、これは一体何なんだ?」
第八階層からの帰還準備の最中、コーゼストが『少しお待ちください』と言っていきなり生産設備を稼働させて何やら薬品を作製したのだ。俺の手のひらにあるのは薄緑色の水薬なのだが何に使うんだ、一体?
『いえ、ギルマスに良く効く嗅ぎ薬をと思いまして』
「……お前は何を考えているんだ?」
『────』
俺の問い掛けに黙りを決め込むコーゼスト。頼むからこれ以上話を拗らせないで欲しいものである。
「んじゃ、皆んな忘れ物は無いな?」
気を取り直してアン達に確認すると「大丈夫」との返事だった。
「私も良いわよ!」
ヤトも元気に答えるが──その両手いっぱいの肉は何だ?! こぼれんばかりの笑顔のヤトに何も言えず、俺は釈然としないまま皆んなが乗ったのを確認して、転移陣を起動させるのだった。
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「──それで報告は全てか?」
守護者部屋の調査を丸一日掛けて終えて地上に戻り、その翌早朝からギルドに来てギルマスに調査結果を報告した。基本俺が話し、随所でコーゼストが内容を補填する形で報告は進み、それを黙って聞いていたギルマスだったが徐ろに飛び出した第一声がコレである。
「俺からはこれで全てだが」
『私からも確認した事実と集め得た情報は全てお話ししました』
俺とコーゼストが共に答えると、それまで執務机に前のめりになって話を聞いていたギルマスは、椅子の背もたれにドガッと音を立てて背中を凭れると大きく息を吐き
「しかしなぁ……魔物を造り出す施設とか有り得るのか? しかも生物兵器とか何なんだ? コーゼスト殿から以前聞かされてなかったら一笑に付すところだが…………」
と天井を見上げながら独り言の様に言う。まぁ信じられないのも無理は無いが………… 。
「だが事実は事実だぞ?」
「だがなぁ……」
俺の至極真っ当な指摘に言葉を濁らせるギルマス──そしてひと言
「これは、一ギルマスで対応出来る問題じゃあ無くね?」
思わず本音を漏らした。それには俺も激しく同意するが──ギルマスがそれを言ったら不味くね?
「それにだ! その生産設備とやらの稼働はコーゼスト殿が全て掌握しているって話だろ? そんなモノどうするんですかとか言われても俺の手に余る!」
最後には両手を上げて自棄気味に言い放ったギルマス。ハッキリ言って責任放棄である。
「とりあえずこの話は一旦ギルド上層部に上げて決めて貰う事にする! 流石に俺の一存ではどうにもならないしな」
「俺達は構わないが……そうするとこのギルドの儲けが減らないのか?」
「だが無理を承知で行った結果、将来的に破綻を招くより建設的だぞ? なんと言っても今回の件は下手をすると国家事業規模になりかねん。ならばキチンとギルド本部の裁量で判断してもらった方が間違いが無いからな」
理屈ではわかるんだが、何か釈然としない物言いである。
『上手い逃げ口上ですね』
コーゼストが念話で俺にだけ聞こえる様に呟くが、多分それが正解だな。まぁ俺達には関係無いが── 。
「今すぐギルド本部と遠方話で話してくるからお前達はここで少し待っていてくれ。恐らくお前達にも説明して貰う事になるかもしれん」
──訂正、しっかり巻き込まれそうである! 確かに関係者と言うか寧ろ当事者だと思うが、せめて本部にはギルマスがちゃんと話して欲しいものである。
『いっその事、見捨てますか』
コーゼスト!? 怖い事言うなや!!
ギルマスがギルド本部と連絡をとっている間、俺達は執務室の応接揃のソファに座り待つことにした。
因みにギルマスと入れ替わりにルピィが来ているのだが、その姿を見た瞬間ヤトが俺の後ろにサッと隠れ、背中越しにルピィをシャーッと威嚇していた──まさかの傷跡か? 俺は背後のヤトを宥めながらそんな事をぼんやり考えていた。
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やがて連絡を終えたギルマスが執務室に帰って来た。大体30分ぐらい話していたか? その顔は問題を解決した晴れやかさなど微塵も感じられず、寧ろ話してくる前より顔色が悪い。これは声を掛けるのも躊躇われる感じである。
ギルマスはそのまま執務机に向かうと椅子にドッカリと腰を降ろし、机の上で両手を合わせる様に組むと顔の所まで持っていき「はァ〜〜〜〜〜」と長い溜め息を吐いた。
「あの……ギルマス。何かあったんですか?」
ルピィがファウストをモフりながら恐る恐る声を掛ける──どうでも良いが、せめて聞く時はモフる手を止めるべきだと思うんだが?
「………………グランドマスター」
「はい?」
ルピィの問い掛けに声を絞り出すギルマス──なんだ?
「グランドマスターまで話が行った……」
「……えっ? ええええええええええええ?!」
ギルマスの返答に思わず素っ頓狂な声を上げるルピィ──俺だって驚きである。そもそもギルドの最高統括責任者であるグランドマスターは、所属する一般冒険者はおろか一般職員ですら会える事が無い、正に神様みたいな存在である。まさかそんな所まで話が行くとは………… 。
「グ、グ、グランドマスターって本当にいらっしゃるんですか?!」
そこか、ルピィさんや?!
「ん? あぁ……そもそも俺だって統括責任者に就いた時に一度お目通りしただけなんだが……嘘か本当か知らないが何でも冒険者ギルド設立当初から最高統括責任者に就いていらっしゃるらしい」
?!──ちょっと待て、確か今年でギルド設立150年だから────グランドマスターは少なくとも150歳以上確定と言う事になるぞ!?
「グランドマスターってまさか……エルフなのか?」
思わず問い掛ける俺。
「うん? 半森精霊だと本人が言っていたがな。まぁ詳しい話は御本人に聞いて貰うとするか……」
……ちょっと待て。今聞き捨てならない台詞が聞こえた気が………… 。
「それはどういう事だ?」
「順を追って説明するとだな──」
ギルマスの説明する所によると──── 。
以前から俺達、特にコーゼストの件は王都ギルド本部には報告がされていて、事ある毎にその都度ギルマスから報告が成されていたのだそうだ。
ギルマス自身はギルド総督部で報告を統括して処理していると思っていたのだが、実は最初にコーゼストの報告がなされた時に総督部を飛び越え、最高統括責任者の元に届いていたらしいのだ。
何でもグランドマスターは耳にしたコーゼストに偉くご執心らしく、その後のコーゼスト絡みの報告は全てグランドマスターの元に届いていたそうだ。勿論イオシフの迷宮「混沌の庭園」の一件もルアンジェの件もである。
確かにコーゼストは古代魔族が創り出した有知性魔道具だし、今まで俺達が知らなかった昔の話を知っている生き証人ではあるから、ギルド本部にとってもその価値は計り知れないのだろうとは思うが…………
……どうでも良いが、何故俺はここまでコーゼストの事を気に掛けているんだ? まぁ少し前まで一時も早くコーゼストを外したいと思っていたのだが、今は結構頼りにしているのは確かだし、コイツが俺の左腕に居る事に違和感を感じなくなっているのも確かだ。
いつの間にかコーゼストが居る事が自然になっている事に気付き思わず苦笑する。俺も吹っ切れたのかな…… 。
「どうした、ウィル?」
ギルマスが怪訝な面持ちで訊ねて来る──おっと気が逸れてしまった!
「いや、何でも無い」
「ふむ、そうか?」
俺の誤魔化しをあっさり聞き流すギルマス。
「それでだ! 当然今回の件もグランドマスターの知る所になり、お前達『黒の軌跡』にギルド本部への出頭命令が出た! 直接グランドマスターにお会いして説明して来てくれ!」
ちょっと待て!?! まさかの丸投げかよ?! 折角ギルマスに丸投げしたのに、逆に丸投げし返された!!
「勿論、非常用転移陣を使っても構わん! 鑑札を持っているんだ、有効に活用しなくてはな!」
半ば自棄気味に一気に言い切るギルマス。
「当然、ギルマスも──」
「いや、今回はお前達だけだ! 何と言ってもグランドマスター直々の御指名だからな!」
俺は何とか食い下がるが、ギルマスは素っ気ない。だがまだ! まだだ!
「だが流石にヤト達を連れて行く訳には──」
「グランドマスターはヤトは勿論ファウスト達の事も当然知っておられて、是非とも会いたいそうだが?」
ギルマスの言葉を聞いて今度こそ俺はガックリ肩を落とす。結局いちばんの厄介事を押し付けられたのは勿論だが、まさか最高統括責任者と話さなくてはならないとは──しかも逃げ道は既に塞がれているし!
『今回はギルマス達が一枚上手でしたね』
コーゼスト……お願いだからそんな簡単な台詞で済ませないで欲しい。
はァ────────── 。
結局、グラマスにまで話が行ってしまいました…… 。
と言うかまさかのギルマスの責任放棄により、事態はややこしくなって行きます。
結局、ウィルフレドの巻き込まれ体質がパワーアップしている模様です。
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