ヘルハウンド
本日第七話投稿します。今回は戦闘メインです!そして相変わらず自由(?)なコーゼストに振り回される主人公です!
*2020年12月7日改訂
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「ゴルルァァァァ!!」
漆黒の魔犬、ヘルハウンドが俺を威嚇する様に吠える!30メルト四方の部屋の空気が震える──!!
「くッ?!」
流石Aランク、威圧感が半端無いな! Cランクのファングドッグとは訳が違う!
因みにファングドッグとは平原やダンジョンで遭遇する魔物で、一匹一匹ならDランクと大した事は無いが、集団だと連係行動をされて危険度はCランクとなり厄介なのである。
それでも目の前のヘルハウンドから比べれば遥かに闘い易い相手であるが── 。
格上Aランクと言う予想外の魔物との遭遇に、俺は先程の楽天的な驕りを持った自分自身を殴り倒したくなった。
兎も角ヘルハウンドから目を離さず右手に長剣を左手にカイトシールドを構え、姿勢を低く取る!膝から余分な力を抜き、いつでもヘルハウンドの動きに対応出来る様にする。
と、次の瞬間! ヘルハウンドが一気に間合いを詰める様に飛び掛って来た!!
飛び掛られる寸前、相手の左手側に回避する! そうして防御しながら相手の脇に回り込もうとするが、ヘルハウンドは体勢を立て直し右の前脚でこちらを凪いで来やがった!
咄嗟に構えたカイトシールドに耳障りな金属音が響き、俺は後ろに押し返される! その勢いのまま押される形で相手の後ろ側に飛び退けて位置を入れ替える様になった。
「グルルルルル」
ヘルハウンドは紅い双眸でこちらを睨む!
こんな状況ではあるが俺は、コーゼストに言われるまま、今の装備に変えたあの時の自分を褒めてやりたくなった。
このカイトシールドは勿論ロングソードも軽鎧も、隠し部屋にあった装備は魔法付与が施された一品なのである。防御力は勿論、筋力や持久力に素早さ諸々が装備する事により上がるシロモノだ。お陰でヘルハウンドの動きにも何とか対応出来ている事に、俺は素直に感謝するのだった。
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それにしても、さっきのは危なかった……流石ヘルハウンドだけあるか……と先程のヘルハウンドの攻撃に変な感心をしていたら──
『──Warning! Warning! ────』
突如としてコーゼストが何か言ってきやがる!?
「何だよ!? クソ忙しい時に!!」
『──警告します。 敵性個体 : ヘルハウンドは危険です』
「何を──今更なにを言ってやがる?!?」
今更そんなわかりきった事を口にするコーゼストに、ヘルハウンドから視線を外さず苛立ち気に問う俺!
『マスターとヘルハウンドの格には大きな差が有ります。 警告──』
!?! 一体何を言ってる?! レベルが違うって何の──
「一体何の根拠があって言っている!?」
『今まで有効化して無かった機能が一部復帰しました。それにより双方のレベルを確認した結果です』
「はぁ?!?」
いきなり何を言ってやがるんだ?! レベルが判るって?!?
『現在マスターのレベルは30と推測。それに対してヘルハウンドのレベルは42と推測。数値化したレベルの差から現状に於いて戦闘継続は危険、困難、無謀です』
「!!!?」
俺はコーゼストの言ってる事を理解した瞬間、身震いするほどの焦燥感に駆られた。何処からどうしたらそんな数字が出るのかは一先ず置いといて──単純にその数字の差がレベル差が持つ力量の差だと感じたからだ!!
具体的な差はわからないが、ヘルハウンドに一当たりしたから判る──コイツは間違いなく強いと!!!!
そう自覚した瞬間、頭の中を濃密な『死』の気配が埋め尽くす──── 。
──その刹那、一瞬の隙を付く様にヘルハウンドがまた飛び掛って来た!!
「くっ?!」
このままだと奴に組み付かれる!? 瞬間的に判断した俺は奴の腹側に自分の身体を滑り込ませた!
頭上をヘルハウンドの巨体が通り過ぎ──俺は離れる様に更に床を蹴り奴の反対へと飛び下がった。再び立ち位置が入れ替わりお互い睨み合う!
今の入れ替りで、丁度扉が後ろには有るが──多分開かない筈だ。
大体のダンジョンの部屋の扉は、一度魔物との戦闘が始まると開かなくなる様になっている筈だからだ。それに僅かでも背中を見せたら、ソレは即座に俺の死を意味する!!!
ならば、ここを出る為には奴を倒すしか道は無い!!
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今の俺はコーゼストが言った通りに魔法付与された武具を装備しているので、様々な能力が底上げされている筈──何より防御力もそれなりに上がっている筈。それに何よりコーゼストの「自動防御」とか言うのも俺を守ってくれる筈だ! なら多少の無茶は大丈夫だろう──後は俺自身の覚悟だけだと、弱気な気持ちを奮い立たせて勇気で無理矢理焼却する!
それから数度ヘルハウンドとのぶつかり合いを繰り返し好機を──捉えた!
俺はわざと左手を少し下げる様にして隙を作る。
それを目敏く見つけたヘルハウンドは迷わず飛び掛って来て、鋭い鉤爪の生えた両前脚を俺に向かって振りかざして来た! それをまたわざと右手のロングソードで受け止める!
案の定ヤツは俺の頭を噛み砕こうと大きく顎を開いて迫る! 目の前にナイフみたいな牙が俺の顔目掛けて振り下ろされ──だが、その牙はおれに届く事は無かった!
俺が左手のカイトシールドの尖った先端を、ヘルハウンドの牙を掻い潜い口内目掛けて突き立てたのだ!!
このカイトシールドにはシールド裏のハンドルを握ると仕込まれた槍が伸びる仕掛けが付いている。シールドから瞬時に伸びた槍はヘルハウンドの顎を穿ち、寸分違わず奴の上顎から頭頂部に抜ける!!
突っ込んできた勢いも足されたからその威力は察して余りある。大きく開けた口から鮮血が迸り、紅い瞳は急速に光を失い、俺を押さえ込もうとしていた前脚から力が失われる!
すると、今まで沈黙を保っていたコーゼストから声が発せられた!
『──Confirmation of submission』(服従化確認)
『──隷属術式構築』
『個体 : ヘルハウンドへ魂の刻印完了』
『素体質量、虚数変換開始』
『──変換完了。収納』
目の前のヘルハウンドが、魔物が斃された後に変わる光の粒子とはまた違う光に包まれる!
何か一旦輝きに包まれるとその輪郭を失いしながら消えて行く………俺は腰を落とした姿勢のまま、ヘルハウンドの姿が消えて行く様をただボンヤリ眺めているだけだった。正直「死」を意識していた事もあり精神が鋼糸の様に張り詰めていたのがプツリと途切れ、戦闘による極度の疲労感も手伝って、そのまま後ろによろける様に倒れ込んだ。
次の瞬間、後頭部に衝撃を感じて──ッ!──── 。
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そして今──「魔王の庭」第三階層──── 。
『──そうして意識を失ったマスターから私は一時的に身体の主導権を預かり、ダンジョンを出て私が記録していた宿泊施設に向かいました』
その話を聞いた俺は、通路の床に両膝を付いて頭を抱えた。何がそうして、だ!! しかも何だ、その最後に締まらない話は?!
「すると何か?! オレは床に頭ぶつけて気絶したのか?!?」
『肯定します』
最後ぐらいしっかり締めろよ! 俺!!
「しかもその後、お前は気絶した俺の体を勝手に操ったのかよ?!」
『その言い方は些か心外です』
俺の物言いに速攻でコーゼストから抗議が来た。
『そもそも私がマスターの身体を操らなければ、 意識の無いマスターは無事に帰還出来なかった可能性が高いのですよ?』
そうなのだ。ダンジョンとは生き物で本当に何が起きるか分からない。だからコーゼストがやった事は間違いでは無い──無いのだが!!
「──にしても他にやり方があったんじゃないのか?!」
例えば俺を何とかして起こすとか!! お陰で不審者扱いだぞ?!
『まぁ、私がマスターとどれだけ同化したか確認する意味合いもありましたが──』
すいませんコーゼストさん、本音がダダ漏れです── 。
「……結局そっちの方が目的だったんだろ?」
俺はジト目で自分の左腕の腕輪を見つめる。
『それにしてもマスターも良くあのレベル差を覆しましたね』
ここに来て急に話をすり替えるコーゼスト。そんな事をしても誤魔化されないぞ?!
「クゥーン……」
そんな風にコーゼストと言い合いをしていると、ファウストが寂しそうに鼻を鳴らす。おっと、もう少し待っててくれないか?
「……まぁお陰で助かったには助かったんだ、礼は言っとく」
『当然です』
「だ・が・な、次は無しだからな! 今後二度と俺の身体を操るんじゃねぇ!!」
『イエス・マスター』
しれっと答えるコーゼストに、がっくり肩を落とす俺。迷宮探索前にこんなに疲れるとは…… 。
何かもう、色々どうでも良くなって、やたら凹んだ気持ちをどうにか切り替えてファウストを見やる俺。
「はぁ……よし行くかぁ、ファウスト。お前が前に居た家に……」
「ヴォン!」
そう言ってファウストがかつて居た最後の部屋の扉を開ける俺。後ろからファウストが意気揚々と付いて来た──本当にお前は嬉しそうだなぁ。
三階層の最後の部屋の中はがらんとしていた──まぁ当然である。元の居住者がココに居るんだしな。何日か若しくは何週間かすると、ここにも新しい魔物が棲むんだろうけどな。
「さて……先に進むか」
部屋の奥に有る下層に通じる転移陣を見つけ、その脇に設置されている小さな台座にこれまた小さな魔核をセットした。これにより転移陣が起動し下層に転移されるのだ。
「良しっ、ファウスト。おれにしっかりくっ付いていろよ~」
「ヴォン!」
起動を確認しファウストを呼び寄せると間もなく、俺達の身体が転移の光に包まれる──
さて、いよいよ次の階層だ────!
俺としては今回の件で頭に兜を被るべきか、割と真剣に悩んだのは秘密である。
戦闘シーンは滅茶苦茶難しいですね……でもこれからも頑張って描きたいです!
もし宜しければ評価をお願いします。