ヤト騒動記
本日、第六十四話を投稿します!
ヤトを巡る(巻き起こす)騒動と第八階層の守護者部屋の探索の話です。
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「ねぇ御主人様! アレは何??!」
「……」
「あっ!? あれは何の道具なの?!」
「…………」
「んもぅ、ねぇ?! 御主人様ったら?!?」
「………………」
「あぁ?! お肉が沢山あるわ!!!」
1人はしゃぐヤトとは対照的に沈黙している俺。周りの人達は俺達を遠巻きにしている──まぁ街中にラミアとか普通には居ないからな…… 。
「ヤト……騒ぎ過ぎだぞ。皆んな戸惑っているんだからな」
「えぇー、いいじゃない! 私、ヒトの街を見るの初めてなんだから!!」
あのあとヤトは俺の従魔として正式に登録され、晴れて顕現したまま街中を歩ける運びとなった。まぁその前にはヤトが従魔を示す首輪の着用を拒んだりして一悶着あったのだが── 。それも首輪ではなく腕輪にする事にヤトが納得してくれて、事なきを得た──やれやれ。
そして現在、ヤトを連れたまま市場がある東区に来ていた。勿論目的はヤトの豊満な胸を隠せる服、若しくは防具を買いにである。
「ねぇ御主人様〜、どうしても必要?」
「ヤトは俺の仲間になったんだからな、防具は必要なんだよ。それに……」
「それに?」
「俺が落ち着かない──!!」
こっちは基本、女性に対して場馴れしてる訳じゃないんだからな?! まぁ最近はアンとは自然に話せている気は……するが…… 。それに幾ら魔物でも女性の裸体が目の前でウロウロされては目のやり場に困る!
何やらブツブツ言っているヤトを引き摺る様に、一軒の衣服店に俺達は入った。さてと、服買えるかな………… 。
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結果から言うと服は買えなかったが何故か水着を勧められた。まぁラミア用の服など置いてある訳が無いのだが…… 。流石にそれでは心許ないのでリットン商会に行き、ヤト用の胸当てを買った。
水着の時もそうだったが胸当てを買う時にも何故かヤトの胸のサイズを聞かれる羽目になった! 俺は使役者ではあるが、いちいち知っている訳無いのに、である。
因みにヤトの胸を測ったのはアンなのだが、何故か顔から表情が消えていた──ただ盛んに「理不尽……」と呟いていたのが怖かったが…… 。
更にちなみに店員がいちいち大きな声でヤトの胸のサイズを復唱などするから、すっかり覚えてしまった……それこそ理不尽である。
「さてと、宿屋に戻るか……」
正直、『蒼眼の新月』に泊めて貰えるか心配ではあるが………… 。
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『蒼眼の新月』では、従魔の追加料金と4人用の大部屋に泊まる事で何とか纏まったのだが……確か『ここは連れ込み宿じゃない』んじゃ無かったか、リネットさん?
俺の至極真っ当な疑問に女将のリネットさんは
「んもぅ、ウィルさんはアンちゃんとは夫婦みたいなもんでしょ? ルアンジェちゃんも一緒だと家族みたいなもんだしね!」
と満面の笑みで言い切られてしまった。いやいや、まだ結婚はおろか同衾すらしてませんから!! しかし、俺の反論はリネットさんの「私も旦那とは最初はそうだったのよ〜♡」と言う惚気話に掻き消されてしまった──何か今日は理不尽な事が多い気がする。
しかし……ルアンジェと一緒に居ると本当に家族に……見える……のか? そう言われたアンとルアンジェは、何故か満更でも無い顔をしていたので敢えて考えない事にした。
『マスター、思考放棄ですか』
コーゼスト先生が冷静に突っ込んでくるが無視を決め込む事にしたのは言うまでもない。まぁヤトの蛇身が大部屋で収まったので良かったが──良く考えたらちびヤトになって貰えば良かった事にあとから気が付いた──何で気付かなかった、俺!
程なくして日が沈み、夜がその闇に街を包み始めた頃、夕飯の頃合いになり部屋で摂る事にした。ヤトを食堂に連れて行く事に幾ら許可を得ているとは言え躊躇われたのだ──それにその方が気兼ねなく食事が出来るしな。
ファウストとヤトには何時もの塊肉、デュークは俺から魔力を供給されているので食事は不要だ。顕現を解いてしまえばコイツらの食事は全て不要なのだが、幸せそうに食べるファウストとヤトを見ていると、まァ良いかと思えるのだ。それにしても良く喰うなぁ…… 。
「そう言えばヤト。お前、アソコに居た時は食事とかどうしたんだ?」
俺は塊肉にかぶりついてるヤトに尋ねる。そもそも何を喰ってたんだ?
「はぐ? ンもぐ……ング、あぁ〜アソコでは私が寝床にしていた柱から、一度食べて寝ると食べ物が生まれて来ていたのよねぇ」
????? なんだそりゃ? ヤトの意味不明な言葉に戸惑っていると
『兎に角。全てはあの場所に行けば何もかもはっきりしますので』
コーゼストが更に意味深発言を重ねて来た。何なんだ、全く………… 。
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一夜明けて、何となく足元に重みを感じて目を覚ますと────
「ぐぅ〜……」
毛布の上から俺の膝を枕代わりに、抱き着く様に寝ているヤトの姿が──その脇にはファウストとデュークがちょこんと丸くなっていた。どうやらヤトとの膝上の争奪戦に敗れたみたいであるが──俺の膝を巡って争うのは止めて欲しいものである。
それにしても何でこいつ等は俺の膝に乗りたがるのか……………… ?
「くぅ……くぅ…………んむぅ?」
俺が身動ぎしたのに反応してヤトが目を覚ます。
「ふあぁぁぁぁ……あ、御主人様……目が覚めた?」
「……おはよう、ヤト」
「?? 『おはよう』って?」
寝惚け眼を擦りながら聞いてくるヤトに俺は苦笑しながら教える事にした。
「挨拶だよ。朝起きたら『おはよう』、昼間に会ったら『こんにちわ』、日が沈んだら『こんばんわ』、寝る時は『おやすみ』って言うんだよ、ヒトはな」
「ふーん、じゃあ、おはよう御主人様!」
満面の笑みで朝の挨拶をするヤト──意外に素直である。そんな事をしていたら、アン達やファウスト達がヤトの声で目を覚ました。
「ファウスト、デューク、おはよう!」
「ワン!」
「……(コク)」
「涅森精霊も自動人形もおはよう!」
「あ、えっ?! お、おはよう」
「ヤト、おはよう」
「うん! おはよう!!」
……その後しばらくヤトの「おはよう」が止む事が無かったのは言うまでもない。
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皆んな起きた所で朝食を食べる、勿論部屋でであるが。食べながら今日は「魔王の庭」第八階層の例の部屋──つまりヤトの古巣を調査する旨を皆んなに伝えた。面倒事は早めに片付けるに限るからな。
準備を整えて『蒼眼の新月』を出て「魔王の庭」に向かう。勿論ヤトはそのまま連れて、である。流石に2日目ともなると皆んな馴れたみたいで何時もと変わらずに声を掛けてくれ、一方のヤトは会う人会う人手当り次第「おはよう」と言っていた。見た目はアレだが人懐っこいヤトは街の人達に受け入れられたみたいで何よりである──と言うか、皆んな馴れるの速いな……まぁ、俺もだけど。
そんな事をしているうちに「魔王の庭」の大きな門扉の前まで来た。当然だが警護している領兵のおっちゃんに驚かれたのだが、ヤトは俺の使役する魔物だと説明して納得して貰えた。そして────
「改めて良く見てみると、本当に広いな」
現在、第八階層の例の部屋──つまりヤトが暮らしていた場所である。あちこちに何やら宝箱らしき物が置かれており、嘗てヤトが居た付近の床には樹木短槍 " 奈落 " で降り注いだ木槍が突き刺さったままで、激戦の跡が生々しく残っている。しかし改めて見ると物凄く堅い木槍だな!
「あれは黒鉄木と言う世界で2番目に堅い木なの。当然1番は世界樹だけどね」
「凄いわよね〜。私の鱗を易々と貫くんだもの!」
アンさんがわざわざ木槍の解説をしてくれて、それを聞いたヤトがやたら感心するが──それは感心する方向性が違う気がする。
「それで、コーゼスト。この部屋の走査は今度は上手くいったのか?」
俺は部屋の奥に向かって歩きながらコーゼストに問う。部屋の両脇に遺跡の様に林立する柱群は延々と続いている。
『はい、この部屋にある設備は私が存在を仮定していた生産設備に間違いありません』
「……やっぱり、か…………」
コーゼストの報告を聞いて呟く俺。何となくだがそんな気がしていたのだ。
『マスターもそう考えていたのですか──』
「まぁな。何か如何にも何かを隠していたみたいだし……な」
そう言いながらヤトが寝床にしていたと言う場所まで来た。そこには一際大きな柱が立っており、その柱は硝子の様に割れていた。中を覗き込むと何やら機械の様なモノが見える──何じゃこりゃ??
コーゼストが飽くまで冷静に答える──── 。
『これで確定しました。ヤトはここで造られた魔物です』
守護者部屋の探索の結果は次回ですが、その経緯は触れられたと思います。
ウィルも知らない新事実が明らかになりますが、その辺は次回と言う事で。
それにしてもヤトに振り回されるウィル……(笑)
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




