ヤト 〜なぜかラミアにも懐かれました〜
本日、第六十二話を投稿します!
第八階層の守護者イーヴィリアードとの激戦を終え、地上に帰還したウィル達の話です。
今回はゆるく読んでくださいませ。
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「…………暇だ」
迷宮「魔王の庭」の第八階層の守護者との激戦を制し、文字通り満身創痍で地上に戻った俺はアンに懇願され(強制的に)、治癒院で1週間ほど療養させられていた。
怪我や骨折は上位回復薬と魔法で綺麗に治ってはいるが、流石に血を流し過ぎたので失った血が戻るまでとなっている。それにしても…… 。
「……する事が無い」
武具は当然取り上げられ(預けてるとも言う)、4日は絶対安静と院専属の治癒師からキツく言われたので厠以外ベッドから動けずにいた──因みに今日で3日目であるが、俺にとってはまさに拷問みたいである。これならイーヴィリアードと殺り合っていた方がずっと気が楽だった………… 。
『そんな事を言っていると、アンに心配されますよ?』
──そもそも話す相手が治癒師以外はコイツだけだしな………… 。
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トントントン──── 。
『ウィル、起きている?』
おっと、アンが来てくれたみたいだな。
「ああ、起きているぜ」
俺の返事に扉が開いてアンとルアンジェが入ってくる──当然ながらファウストはアンの胸に抱えられていた。
「ウィル、具合どう?」
ルアンジェがベッドの縁まで駆け寄って来ると、心配そうに俺の顔を覗き込んで来た──今回も皆んなに助けられたな…… 。
俺はルアンジェの頭の上に手を乗せ「大丈夫だ」と告げると、にこりと微笑んだのだ──何だかルアンジェが更にヒトっぽくなっているんだが?
「駄目よ、ルアンジェ。ウィルは療養しているんだから……ウィル、具合はどうかしら?」
アンが優しくルアンジェを諭しながら、こちらに向かって微笑む。
「あ、あぁ。アンもありがとうな」
その笑顔に思わずドキッとするが顔には出さない様にした───出てないよな?
俺は話題をわざと振る事にした──照れ隠しじゃないからな?
「そういやギルマスには話してくれたんだろ?」
そうなのだ、今回の件の顛末はアンからギルマスに報告して貰ったのだ。決して押し付けた訳では無い!
「え、ええ、話したんだけど……」
そう言いながら苦笑いを浮かべるアン。何でもイーヴィリアードの事を事細かに説明したら、ギルマスが椅子ごと後ろにひっくり返ったらしい──如何にも尤もである。
これで共生化したイーヴィリアードを見たら驚愕で死なないだろうな…… 。
『そのイーヴィリアードですが、漸く
調整が終了しました。何時でも顕現出来ますが──どうします?』
何故かこのタイミングでコーゼストが報告して来る。
「……お前、狙ってないか? 第一こんな所で顕現させる訳にはいかないだろが?!」
『それは当然──仮想体ですので問題無いかと』
しれっと宣うな! でもまァ、何処かで一旦は出しておかないと駄目……だよな…………はぁ。
俺は渋々コーゼストに許可を出すと、ベッドで上半身を起こした状態の俺の足付近に光が集まり形を成していく! ──って何だ、この既視感は?!
やがて光が収まると、そこにはちっこい姿のイーヴィリアードが現れた! 大体身長80セルト、ぐらいか? 下半身の蛇の部分も大体70セルト程しか無く、しかもややずんぐり体型。赤金色の髪は胸辺りで、ひと言で言うと──だいぶ、いや、かなり可愛くなっている。
ちびイーヴィリアードは大きな目をゆっくり開けると瞬かせ周りをキョロキョロ見渡し、俺を見つけると突然飛び付いて来た!
「御主人様〜〜!!」
「おわっ?!」
勢い余って俺を押し倒しながらも、俺に抱き着き胸に顔を埋めて来るちびイーヴィリアード──ヲイヲイ!
「ンン〜〜〜〜〜♡」
どうでも良いが……頭を左右に振って顔をグリグリ擦り付けるのは止めろ!
「ア・ナ・タ・は・な・に・を・し・て・い・る・の!?」
「ん、駄目。次は私の番」
アンが物凄い剣幕で、ちびイーヴィリアードに食って掛かる──それはもう必死な形相で。
そしてルアンジェ──次は私の番って、何の順番待ちなんだ?!
「良いじゃない、涅森精霊。別に減る訳じゃないんだし。それと自動人形、これは早い者勝ちなの!」
一方のちびイーヴィリアードも負けじと、俺にしがみ付いたままアンとルアンジェに平然と言い返している。全く……女3人 会すれば喧々たるものとは良く言ったもんである……はァ。
────コツコツコツコツコツ、ガチャ。
「(──治癒院内ではお静かに)」
「「「「(──はい、すいません)」」」」
治癒師の先生に小声で注意された──やれやれ。
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「しかし……お前、本当にあのイーヴィリアードか?」
注意された事で全員平静を取り戻し、俺はベッドの上──より正確に言うと俺の膝上を占拠しているちびイーヴィリアードに尋ねた。
「間違いないわよ、私は蛇麟族が半人半蛇のイーヴィリアードよ」
……確かにその物言いは間違い無くイーヴィリアードだが………… 。
「でも、喋り方が違う」
「あ? あぁ。あっちはそれらしく演じていただけ。こっちがホントの私よ、自動人形」
ルアンジェの疑問にあっけらかんと答えるちび──めんどくさいからイーヴィリアードで良いな──それにしても随分と明朗だな。
まぁ俺達としてもまさか魔物と言葉で意思の疎通が出来るとは思っても無かったが………… 。
「そ・れ・よ・り・も! ねぇ御主人様! お願いがあるんだけど?」
……お強請りとか、その辺にいるヒトの女の子と大差ないな! 尤もお付き合いした事なんか一度も無いけどな!!
「……お願いも構わないが…………ひとつ聴いていいか?」
「なに?」
──俺はこれだけはどうしても聴かずにいられなかった。
「俺はお前を一度殺したんだぞ? そいつに使役されるのに抵抗は無いのか?」
聴かれたイーヴィリアードは、ふむ……と小さく唸って一瞬思量すると
「……まぁ正直に言うと思う所はあるけど…………構わないんじゃない? 人はどうだか知らないけど、私達魔物と呼ばれる存在には『勝つか負けるか』しかないから。どんな時でも勝った方が正しいとしか考えないのよ。私は負けてアナタは勝った。つまりアナタは強かった。だから強い者に従うのに別に躊躇うとか無いわよ。アナタの所にいるヘルハウンドもゴーレムも、皆んな同じ様に考えてるわ」
と淡々と答えた。ファウストやデュークの想いまで教えてくれたのは助かるが…… 。
『納得がいかないのは解りますが、彼等の思考思想は聞いた通り極めて単純です。イーヴィリアードがそう言っている以上、マスターにはそうだと理解して貰うしかありません』
…………コーゼストに諭されてしまった。
「そんなのは良いから! 私の願いは?!?」
いきなりムキーッと怒るイーヴィリアード──結構短気である。
「わかったわかった! 何なんだ、お前の願いって?!」
「えっとね、私に名前を付けて!」
不機嫌な表情から一転、満面の笑みで答えるイーヴィリアード──って名前だって?!
「お前にはちゃんと名前があるだろ?」
「確かにあるけど……それは生まれ持っていた名前だし、ファウストもデュークもウィルフレドから名前貰ったって言うじゃない? だから私も御主人様から貰いたいの!」
いやファウストは兎も角、デュークはアンの命名なんだが…… 。だが、わざわざ新しい名が欲しいものなのか? 一方のイーヴィリアードは目を輝かせながら俺を見詰めてくる…………はァ。
「……わかった。だがあまり期待するなよ?」
「うん!」
だからそんなに目をキラキラさせるな! ちゃんと人の話を聞いていたのか?! 全く…… 。しかし名前、か…………名前ねぇ…… 。
俺は変な既視感に囚われながらもイーヴィリアードの名前を考える。半人半蛇だろう……ヘビ……蛇ねぇ…………強い蛇…………か………………それなら……………………うん。
「『ヤト』」
「ヤト?」
イーヴィリアードは不思議そうな顔で聞き返す。
「うん、昔聞かされた御伽噺に出てきた遥か東の大陸にいると言う蛇の神が『ヤトガミ』って言うんだ。その名前を捩ってみた」
それを聞いたイーヴィリアードは盛んに「ヤ……ト、ヤト、ヤト、ヤト…………」と繰り返し呟き
「うん! 良いわね、ヤト! 気に入ったわ! 今から私はヤトよ!!」
今までで一番の満面の笑みで喜びを表すイーヴィリアード、改めヤト。こうした所は俺達ヒトと大差ないよな…… 。
「礼を言うわ! 御主人様!!」
そう言ってまたもや抱き着いて来た──どうでも良いが、胸を押し付けてくるな! その様子にアンさんの笑顔が凍り付いているんだが!?
片やルアンジェは、またもやあるはずの無い尻尾がブンブン振られてる気が?!? その頭のは犬耳か……?
こうして新たに1人(1体)、俺達の仲間にラミアのヤトと言う賑やかな奴が加わったのだった。
治癒院に叩き込まれた(笑)ウィル。そして案の定このメンバーが1箇所に集まると騒動が……(笑)どうでも良いが病院では静かにしなくてはいけませんね。
そして新メンバーの半人半蛇のイーヴィリアード改めヤト! 想像以上に賑やかなキャラでしかも無自覚でございます(爆笑)
ユルい話はまだ続きます。
*女3人会すれば喧々たるもの…………女三人寄れば姦しい
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




