苦戦 〜Struggle〜 (☆イラスト有り)
本日、第六十話を投稿します!
遂に攻勢に転じるウィル達ですが……相手も一筋縄ではいかないみたいです。
そして第八階層の守護者がその姿を現わします。
☆守護者のイラストを掲載しました!
-60-
ファウストの爪撃破が闇に吸い込まれて行く!
一瞬の間をおいて何か硬い物に当たった音が響く! どうやら壁か柱に激突したみたいである。まぁ初手で当たるとは期待していなかったが…… 。
「『ブリンズ・リ・ビアン』──鏃よ燃えよ。焔矢!」
次の手をどうするか一瞬思考していたら、アンが闇に向かって火矢を立て続けに撃ち込んだ! どうやらアンの新しい魔法みたいである。向かって右側から撃ち込んだ火矢は、徐々に闇の中を照らし出して行く。そして左端に撃ち込んだ火矢が空中で静止すると、鏃に灯る炎に照らされ火矢を止めたモノの姿が浮かび上がった!
琥珀色の鱗が滑る様に光を反射し、ひと抱えはありそうな蛇の胴体がズルリと蠢く。問題はその上──ヒトの、しかも女性の裸体がそこにはあった。顔はヒトとそんなに差異は無く美人であるが、眼は蛇のそれであり金色の瞳に縦長の瞳孔、赤金色と思しき髪は腰ほど長く、その手にはアンが放った火矢が握られており、揺れる炎がゆらゆらと揺らめいていた。こいつは────初めて遭遇する魔物だ! だが名は知っている!
「シュルルルル……遂に我を捉えたか」
その魔物──ラミアは口から舌をチロチロ出しながら、こちらを鋭く見据える! コイツがこの階層の守護者か!
『──Warning! Warning! このラミアの格は70、順位はSランクと推定。危険度極めて大。繰り返します──』
コーゼストの危機感知が未だ無い程の警告を訴えてくる! 格70の順位Sだって?!?
「ほう……有知性魔道具持ちか……しかも魔物を使役するとは。これは珍しい……更には森精霊と共にあるとは…………そして……ほぅ? ヒトならざる者も居るとは…………殊更面白い」
ラミアは金色の眼をスッ……と細めて、ニヤリと笑う。こいつ、ルアンジェがヒトじゃない事を見抜きやがった?!
「ここに冒険者が訪れるのも久しいしのぅ……どれほど我を楽しませてくれるのか……楽しみだ」
そして蜷を解きながら
「さて……ヒトの冒険者よ、我が名はイーヴィリアード。蛇鱗族が半人半蛇のイーヴィリアードだ」
ラミアが名乗りを上げる──名持ちかよ!? 益々厄介だな!
基本、名持ちは数十年から百年ごとに現れる魔物の特殊個体である。その戦闘能力は桁違いで討伐にはSクラスでないと太刀打ち出来ないと言われている。
俺は心の中で舌打ちしながら、ラミア──イーヴィリアードの真正面に立ち名乗りを上げる。
「俺はウィルフレド・ハーヴィー、Aクラス冒険者だ」
「私は涅森精霊のアンヘリカ・アルヴォデュモンド」
「……私はルアンジェ。それ以上でもそれ以下でも無い」
俺に続きアンとルアンジェも名乗りを上げる。それを聞いたイーヴィリアードは怪訝そうな顔をする。
「お前達は……今までここを訪れた者達とは違うな…………わざわざ名乗らずとも、いきなり襲ってくれば不意打ちになると言うのに…………」
いや……だって、なぁ?
「……それはお前が名乗りを上げたからだが?」
するとイーヴィリアードは、フフンと鼻を鳴らし腕を組むと
「我は良いのだ。これは強者の余裕なのだよ」
と自慢気に話す──意外と俗っぽい奴だな。
「それに──」
イーヴィリアードがこちらを見ると、牙を剥き出しながら笑って一言
「──これから死にゆく者達の名ぐらい聞いておかなくてはな……」
次の瞬間、背筋に冷たい汗が流れる! そうなのだ、間違い無くこのイーヴィリアードは強者なのだ!!
「では……ウィルフレド・ハーヴィーとやら。殺し合おうぞ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『全結界安全限界突破。防御は任せて下さい』
イーヴィリアードが吠えると、辺りに濃密な殺気が満ちる! と同時にコーゼストがいち早く戦闘体勢に変わる! 躊躇していたら間違い無く死ぬのは俺達だ──!!
「アン!」
「ええ! 『Destroy my enemy──豪炎よ、我が敵を滅せ』豪炎槍!」
俺の声と共に障壁の外に、ヒトの脚ほどの太さもある炎の大槍が5本出現する! アンも覚悟を決めたみたいである。
「いけーーーーー!!」
アンの掛け声と同時にイーヴィリアードに向かって放たれる炎の大槍! だが届く直前イーヴィリアードが手を振り翳すと、見えない壁にぶち当たったみたいに5本全て爆発霧散した──あっちも障壁持ちか?!
『いいえ違います。あれは障壁ではなく衝撃波です。敵ラミアは衝撃波魔法を行使しています』
「!?! 衝撃波ってファウストの破滅の咆哮と同じのアレか?!」
でも破滅の咆哮と同じなら、もっとこう部屋全体に拡がらないか?!
『敵ラミア──イーヴィリアードは狭小範囲に干渉しうる指向性衝撃波を使用していると思われます』
? 狭小範囲に──指向性衝撃波? 何だそりゃ??
『──端的に言うと、オルティース・トリスタンがマスターの空裂斬を打ち払った時のあの剣圧こそが衝撃波の一種ですね。棒を思いっきり振り下ろすと起こる音も衝撃波の一種です。両手を思いっきり叩き合わせる時に鳴る破裂音が衝撃波と考えてください。その衝撃波を一方向のみに絞っているのです』
……コーゼスト先生がわかり易く解説している。すんません、出来が悪い生徒で!
「ほう……我が魔術を見破るとは……侮れんな」
イーヴィリアードが感心したみたいに言葉を漏らす。
「だが正体がわかろうとも我が「竜咆衝撃波」を含む幾多の魔術、容易く対抗しうる術はあるまいて」
そう言いながら次々と衝撃波や火球や岩槍を撃ち込んで来る! コーゼストが張った魔法障壁に当たる度に腹の底に響く様な音を立てて弾けるので、何時破られるか正直気が気でない!
こちらもアンが立て続けに豪炎槍を放っているのだが、尽く衝撃波で撃ち落とされイーヴィリアードにダメージを与えることすら出来ずにいた。向こうの魔力量がどれだけ有るか見当もつかない今、このまま膠着状態になるのは避けたい──よし!
「ファウスト、爪撃破だ!」
そう言いながら俺もファウストの攻撃に合わせて空裂斬を放つ! 更にそのタイミングでアンが今までで一番巨大な豪炎槍を放った!
幾重にも重なった攻撃の奔流がイーヴィリアードに迫ると、イーヴィリアードの前に淡く輝く障壁が張られ俺達の攻撃を防いだのだ──魔法障壁だって?! 本当に何でも有りだな!
「ふむ、今のは少し慌てたな。だが残念だった、我が障壁は強固でな…………」
そう言いながらまたもや笑みを浮かべるイーヴィリアード。こいつは本当に弱点が無いのか?!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『──マスター。お気付きになりませんか』
焦りが募る俺とは対照的に、コーゼストが極めて冷静に念話で話し掛けて来た。
『気が付きませんかって、何にだよ?!』
俺はイラついた気持ちのまま、コーゼストに当たり散らす様に答える。その間もイーヴィリアードからの攻撃が絶え間なく続いている。
『先程マスター達が攻撃を集中した時、イーヴィリアードは衝撃波による迎撃では無く障壁による防御を選択しました。つまりあの衝撃波には相手の攻撃を迎撃する攻撃力に限界があり、それ以上の負荷には障壁での防御一択にせざるを得ないと推測します』
!? な、成程。
『つまりあの障壁さえ突破出来れば勝算があると言うんだな? だがアレはかなり固いぞ?』
『いえ、突破する方法は存在すると思われます』
『!?! 何だって?!』
驚く俺に対してコーゼストは平然と言って退ける──どういう方法だよ?!
『イーヴィリアードがマスター達の一斉攻撃を受けていた時、あちらからの攻撃が一切ありませんでした。つまり障壁による防御時には攻撃する事が出来ないと推測します。一人では大盾と槍を同時に構えられないのでしょう』
──成程、そいつは正しく盲点だった! ならば──── !
『皆んな、そのまま聞いてくれ。俺に考えがある』
第八階層の守護者──ラミアのイーヴィリアードがその姿を現わし激戦を繰り広げていますが、間違いなく強者です!
思えば初のネームドモンスターですが、些かモ〇娘のミ〇アに姿が似てる気がします(故意ではありませんが)
そして次回、決着がつく──予定です!
*焔矢…………鏃に魔法の火を着ける火属性魔法。掛けた魔力に応じ魔法の火の燃焼時間と火勢が変化する。
*竜咆衝撃波…………圧縮した魔力から産み出される衝撃波。指向性を持たせる事により狭小範囲に攻撃を絞る事が出来る。魔法では無く魔術に分類される。
*魔術と魔法…………どんな生命にも存在する根源的な力を魔力と言い、自然界にも魔力は存在する。その魔力を用いる技術が魔術と魔法であり、魔術とは古に創り出された魔力を用いる技術の事を指す。対して魔法とは自然現象及び物理的現象を魔力を用いて法則を書き換える方法である。
*イーヴィリアード…………琥珀色の鱗に覆われた蛇身を持つ半人半蛇の魔物・ラミアである。ぱっと見、赤金色の腰までの髪の美人であるが、瞳は金色で縦長の瞳孔を持ち正に蛇である。体高159セルト、蛇身は3メルトあり、バストはEカップ。
☆イーヴィリアードのイラストはイラストレーターのnyazさん作です!nyazさん、ありがとうございました!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




