The eighth level 〜前哨戦〜
本日、第五十八話を投稿します!
いよいよ第八階層探索開始ですが、だいぶ様相が変化しているみたいです。
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『──転送完了。第八階層に到着しました』
案内と共に転移の光が薄れ、視界がハッキリして来る。あのあと俺達は更なる戦闘を数度行い、罠に遭遇する事なく無事に第七階層を突破する事が出来たのだ。
「さて、問題の第八階層だが────」
アンもルアンジェもファウストも俺の方を向き直り、俺が次に何を言うのかジッ……と見ている──そんなに注目しない様に! 俺は軽く咳払いをすると自分の考えを開陳した。
「えっとだな、俺の考えとしては2つあるんだ。ひとつはこの先に進んでこの階層を踏破攻略するか、あとひとつは一旦地上に戻り休息を挟んでから第八階層の探索を再開するか──どちらが良いと思う?」
この言葉に意外にもアンが真っ先に反応した。
「一旦地上に戻りましょう! その方が気持ち的にも余裕を持てますし!」
やたら必死なアンさん。やはり今回みたいな1ヶ月も緊張の連続する迷宮内で過ごすのは心労が溜まるのだろうな──俺もだが。まぁそれに今までも1ヶ月潜って10日休息を取るのはしていたし、構わない……かな? 俺は視線をルアンジェに向けた。
「私は別にどちらでも構わないけど、アンの意見に賛成する。休息は大事」
……意外と気を使える子である。自動人形なのを忘れそうになる。
『私も今までの戦闘記録をゆっくり解析したいですし、何より効率面から言っても地上に帰還するのに賛成です』
コーゼストもこう言っている事だし、今回はルーティン通りに地上に戻る事にしよう。久々に柔らかいベッドで寝れる………… 。
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「ん〜〜〜〜〜、はぁ……」
第八階層から地上に戻り、『蒼眼の新月』のベッドと料理で英気を養い、目減りした分の食糧を買い足したりして5日後──改めて第八階層への再探索に向かっている最中である。今日は雲ひとつ無い青空が拡がり、その下でアンが大きく伸びをしていた。
このあとまた迷宮に潜らなくはならないのだし、今のうちに外の世界を満喫しておかないとな………… 。
やがて俺達は「魔王の庭」の入り口の門をくぐり、広間に設置されている管理端末を起動させて第八階層の待機所に立っていた。何となくだがアンさんから元気が無くなった……気がする。さて………… 。
「それじゃあ、第八階層の再探索と行こうか」
俺の声に気を取り直したアンとルアンジェが頷き、待機所から通路に出た。広く感じるな──コーゼストに測って貰うと縦横3,5メルト四方あったのだ。今までの通路は大体2,5メルト四方だから意外と大きい。
『恐らくは──この階層に出現する魔物は寸法が大きいのかも知れませんね』
「若しくは出現する数が多い可能性もあるな……」
俺とコーゼストが話している傍で、アンとルアンジェが辺りをキョロキョロ見回している。
「け、結構広いんですね」
「ん、しかも真っ直ぐな通路」
そうなのだ。この第八階層は更に整然さが増して、整備された建物がそのまま朽ちた感じなのである。これは何か存在するかもしれない。
「……よし、ここから隊列を変える。前衛は俺とファウスト、直ぐ後ろにはルアンジェ、その後ろにアン。ルアンジェは今まで通り遊撃、アンは弓による援護に徹してくれ。デュークは配下ゴーレムを5体召喚、俺とファウストと共に前衛に2体、後衛に3体を配置してくれ。デューク自体はアンの守護に──いいな?」
『では私は感覚端末を全起動しておきます』
アン達に指示を出し、コーゼストも警戒態勢になり準備は整ったみたいである。
「よし……行くぞ」
俺は水晶地図板で進む方向を確認すると号令を発し、全員で慎重に進み始めたのだ。
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第八階層は本当に建物内に居る錯覚に捕らわれる。それほど通路もそして部屋も整然とそこに存在していたのである。尤もこの辺りはルピィに聴いた情報には無かったのだが── 。そしてこの整然さは俺達には少々厄介事として表れたのである。
「シャーーーーー!」
威嚇音と共に俺達に牙をむく五頭大蝮! 胴回りだけでもひと抱えもありそうな大きさのが、しかも通路いっぱいに横並びで4匹もである!
「デューク、配下に押さえさせろ!」
俺の声に反応してデューク配下の星銀ゴーレムが五頭大蝮を押さえ込む! そのゴーレム達目掛けて5つの頭から、それぞれ毒を吐きかける! 白い煙を上げるゴーレム── だが星銀製の身体は毒に対して耐性が高いらしく、煙を上げたが表面には傷ひとつ付いていなかった。どうやら五頭大蝮にとって星銀ゴーレムは天敵なのかも知れないな……等とチラリと考えていたら、星銀ゴーレム達が一斉に巨大な金属槍で五頭大蝮達の身体を串刺しにし、その身を大きく裂いたのだ!
だがコイツらはこんな攻撃では倒せない筈──! 案の定傷口が再生し、怯む事無く襲い掛かって来る五頭大蝮達!
「ッ──こいつ等は一度に5つの頭を全て潰さないと倒せないぞ!」
俺の叫びにアンとルアンジェ、そしてファウストが呼応して行動に移す! アンが3本の矢を番えて放ち、五頭大蝮の頭3つを同時に射抜く! 残りの2つの頭はタイミングを合わせたかの如く、ルアンジェが素早い剣捌きで纏めて刈り取った──まずは1匹!
ファウストは五頭大蝮を威嚇しながら端に追い込み、相手が一列に並ぶタイミングを見定めて爪撃破を放ち、10の首と頭を膾切りにしたのである──これでまとめて2匹!
残りの1匹は星銀ゴーレム達が身体から豪猪の棘の様な無数の金属槍を生やして5つの頭全てを穿ったのだ! まるで重装兵の槍衾みたいだな!
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結局通路を塞ぐ形で襲い掛かって来た五頭大蝮は短時間で殲滅され、光の粒子に変わり消えていったのである。
思えばこの階層は大帽蛇を始め、大竜蛇に上位種錦蛇、果ては祖竜までと殆ど蛇系魔物ばかりだったのだが、ことごとく返り討ちにしていた。
格にしても平均55、順位も全てAランクと割と高レベルだったのだが…………うちの面子は本当にどれだけ強いんだろうか? お陰で今の所、回復薬の使用量も僅かで済んでいるが……この先に存在すると言う守護者の情報が断片的過ぎて心許ない以上、油断は禁物だな……………… 。
そんな思いに耽っていた俺の篭手に誰かが手を掛けてきた。ふと手元を見るとルアンジェが傍らに来ていて
「ウィル、怖い顔しているけど大丈夫?」
と心配気に俺の顔を覗き込んでいた。そんなに心配しなくても大丈夫だが………… 。
「五頭大蝮の魔核は全て回収しました。問題無ければ……先に進みませんか……?」
アンも近付いて来ながら、何やら不安気である──俺、そんなに怖い顔をしていたのか?
『怖い顔と言うか……1人で凄く難しい顔をしてましたが』
コーゼストはそう指摘して来るが……俺の場合、難しい顔=怖い顔と言うのは間違い無いんだよ…… 。
久しぶりに自分の顔が怖いと言う事実を突きつけられた気がして、軽く凹みながら「……すまん、考え事をしていた」としか返せない俺がそこに居た。
『マスターは見た目より繊細なのですね』
──何だ、コーゼスト! 見た目よりって?!
俺は言いたい文句をグッと呑み込み、水晶地図板を確認して皆んなの方を見やると
「よし……それじゃあ先に進むぞ。そろそろこの階層も終点みたいだし、気を引き締めて行こう」
と改めて皆んなに注意を促した。アンとルアンジェは黙って頷き、ファウストは「ヴォン!」と元気に吠え、デュークは──相変わらず無言である。ゴーレムだしな。
『そう言えば──マスターはお気付きになられてない様ですが』
唐突にコーゼストが話し掛けて来た──何だ?
『マスターには今まで保有していた技能以外に「指揮」技能が新たに付与されています』
「?! 何だって?!」
確かに最近は皆んなに指示を出す機会が増えたんだが、ここに来て新しい技能とは! これは喜んで──良いのか?
まぁ今更増えても仕方ないんだが、とりあえず喜ぶ事にしよう──禍災転じて僥倖を為すとも言うし。
想定外な事があったが俺達は再び隊列を組み、この階層の終点を目指して歩みを進めるのであった。俺の心配が取り越し苦労で済む事を考えながら──── 。
そう言えば技能は兎も角、さっきは全然活躍しなかったな── !
遂に問題の第八階層まで到達したウィル達一行。
次回はいよいよ第八階層の守護者との戦闘が始まります!
そしていつの間にか増えた技能に素直に喜べないウィルでありました。
*五頭大蝮…………体長2.5メルト程の蛇の魔物。5つの頭を持つ所謂ヒュドラの亜種。腐食性の猛毒を吐きかける、もしくは相手に噛みついて毒を体内に流し込む攻撃を仕掛ける。幾ら深手を負わせようと傷が直ぐ再生してしまい厄介である。5つある頭を同時に破壊されると再生する事が出来ず死んでしまう。
*大竜蛇…………体長2メルト程の蛇の魔物。身体を堅い鱗で覆われ、まるで竜の如き姿をしている。毒は無いが代わりに強力な顎での噛みつきが厄介。
*上位種錦蛇…………体長3メルトもある大蛇。巻き付いてからの締め付けで相手を窒息させて捕食する。
*祖竜…………体長1.8〜2メルトの下位竜。一応竜種ではあるが知能は極めて低く、また竜種の咆哮は使えない。ただ鱗は一応竜種である為極めて強固であり頑丈である。
*禍災転じて僥倖を為す……災い転じて福となす
いつもお読みいただきありがとうございます。