The seventh level 〜考察は程々に〜
続けて第五十七話です!
ここからは第七階層の探索です!
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「……漸く、か」
あの後、数度の戦闘を経て第七階層への転移陣がある待機所まで到達した。
この「魔王の庭」は現在確認されているのは第九階層迄で、うちのギルマスとネヴァヤ女史の『煉獄』が第八階層を初めて攻略してから15年も経っているにも関わらず、未だ1階層しか進展していないのだ。
しかもその第九階層の情報は偶然の産物で、第七階層からの強制降下の罠で到達したと言う冒険者にとって不名誉な記録付きなのである。
それともう1つ──過去何十組ものパーティーが第八階層の完全攻略を目指して挑戦しているのだが、第八階層最後の部屋に居る守護者がえらく強いのだそうだ。
実際闘った冒険者達の話しでは巨大な蛇らしき魔物と言う事までは記録にあるのだが、実像は皆目見当がつかないらしい── 。
「……と言うのがルピィから聴いた情報だ。特に第八階層の守護者に挑戦する冒険者はここ数年居ないらしい」
『つまり放置状態である、と』
コーゼスト……そう言うな………… 。
『ですが──これでひとつ疑問が解消されました。そうした事情で第八階層の地図が不完全なのに第九階層の地図が充実していたのですね』
「そう言う事だ。これもルピィから聴いた情報だが出現する魔物も、この先の第七階層からかなりの強さになるらしい。あまり楽観視はしない方が良いと言う事だ。気を引き締めて行こう」
この言葉にアンが神妙な面持ちで首肯する。ルアンジェは相変わらず微妙な反応だが── 。
『ですが今ひとつ疑問が残ります。現在攻略されているのが第九階層までなら、何故この迷宮が全十八階層構成だと言われているのでしょうか?』
「それは嘗て第八階層を攻略した『煉獄』が、迷宮内にはあった「遺跡」で入手した情報だと聞いているぞ。それが本だったのか、何だったのかは知らないが──」
『成程、良くわかりました』
漸くコーゼストが納得したみたいである──やれやれ。
「それじゃあ、転移陣を起動させるぞ」
俺は第七階層への転移陣の管理端末の水晶に手を当てた──── 。
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第七階層は今までの階層とは少し、いやだいぶ様相が違っていた。通路内部はあちこち傷んで荒れているが、整然と整っている感じがするのだ。まぁ元々は古代魔族が創り上げた『実験場』の跡だから当然と言えば当然なのだが…………万全を期してコーゼストには提供された情報と照らし合わせて、地図制作して貰った。
とりあえず地図が埋まってない地点を重点的に探索する事にした。そして────
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「アン、そっちに行ったぞ!」
『やはり格50を超すと容易にはいかないですね』
俺とファウストの隙をついて巨猪人がアンに迫る! オークと言っても第六階層で遭遇したのとは違い、色々な面が増強された強化型巨猪人である。力は勿論、素早さもそして──
「ブフゥゥゥ、オトコはゴロセ! オンナはヅカまエて……グヘヘヘヘ」
……知能もそれなりにあるみたいであるが、そんなに簡単には行くと思うなよ?
「グブフフ、エるフだ! ダーくえルフだゾ!」
「マデ! ソいヅハ俺ノ獲物ダ!」
「そうは行かない。止める」
猪面を歪めながらアンに迫る2匹のウルクの前に、ルアンジェが鎌剣を構えて立ちふさがった! 今回ルアンジェには遊撃として立ち回って貰っている。
「なんだ?! 子供カ?」
「俺ハ、コイツでも構わナイゼ!」
「お断り」
そう言うが早い、姿勢を低くしたルアンジェの姿がブレる!
「ウガッ?!」
「ギャ?!」
次の瞬間、ウルク達の間を抜けて後ろに鎌剣を構えて立つルアンジェと、両手斧を持つ手を切り飛ばされたウルク達の姿があった!
武器を奪われたウルク達は哀れ、アンが放った矢を額に受け、デュークの金属槍で纏めて串刺しになったのである。どうでも良いがルアンジェの素早さが上がってないか?!
『ルアンジェも少し本気を出したみたいですね』
コーゼスト先生の評価を念話で聴きながら、俺は正面を見据える。目の前ではあまりの出来事に言葉を失ったボスらしきウルクの姿があった! 猪顔は表情が判りにくいが………… 。
『この個体は格54あります。順位はAランク』
「な……何ダ、おマえ達は?!」
驚愕が張り付いたみたいな声で誰何するボス。何だと言われても…… 。
「俺達はタダの冒険者だ── !」
そう言いながら長剣を縦に鋭く一閃する俺。ドゥイリオ特製の剣はウルク・ボスの兜を断ち割り、軽鎧ごとその身体を切り裂いたのである!
武技『兜断』──久しぶりに使うな!
真っ二つに切り裂かれたウルク・ボスは断絶魔の叫び声を上げる事も無く、光の粒子になって消えていった。他の倒されたウルク達も同様に消えて、後には大振りな魔核が残されたのである。
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「やれやれ……情報以上だな…………」
ウルク達が残した魔核を回収しながら、俺は独りごちた。
「そうですね……強化型巨猪人以外に醜巨人に鬣狗人に……」
『あとは梟熊に女鬼族でしたね』
アンが俺の独り言を引き継ぐ形で言葉を続け、更にコーゼストが締め括る。
「改めて見直すと、殆ど亜人種が多い階層だな」
『しかも上位種に遭遇する頻度が確実に高くなっていますね』
今なにか聞き捨てならない事を聞いた気が…… 。
「……何か引っかかる物言いだな、コーゼスト」
俺はコーゼストを問い質した。
『マスターは第四階層で遭遇したAランクの鬼族の話を覚えていますか?』
「随分と唐突だな……勿論覚えているぞ。確か因子とやらを弄って造ったって話だろ? あとは確か、この迷宮の何処かに冷凍保存か生産設備が生きているんじゃないかと言う────って、おい! まさか?!」
アンも思い出した様に吃驚の表情を見せている。ルアンジェは──首を傾げている。
『そのまさかの可能性があるかもと言う事です。この階層内部の構造体の保存状況からの推測ですが。恐らくはこの階層もしくは下層に存在する可能性があると思われます』
ちょっと待て! あの時の仮定の話が現実になるかもしれないって事か?!?!
「ちょっ、おまッ!?」
『飽くまでも可能性の問題です。但し高確率ではありますが』
ひたすら冷静な意見を述べるコーゼスト。その冷静さが逆に怖い………… 。
「ちょっと待って。私にも判る様に説明して」
横合いからルアンジェが聞いて来た──少し不機嫌……なのか?
『ではルアンジェ、必要な情報を提供します──***──**──****──』
「────・・・──・・──・・・・──うん、受け取った。そう言う事なの」
ひとり納得するルアンジェ──しかし自動人形と言うのは本当に便利だな!! まぁお陰でいちから説明する手間が省けたけどな!
「と、兎に角だ! この先は更に注意深く進む事にしよう」
「そ、そうですね! そうしましょう!」
「理解した」
気が滅入りそうになるが、アンと共に気合いを入れて先に進む勇気を無理矢理捻り出す。ルアンジェはいつも通りではあるが── 。
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『この先からの警戒水準は、最大値まで引き上げておきますので御安心を』
先に進み始めるとコーゼストが、俺とアンを安心させようと気を使ってくれるが……気休め程度にしかならない気がする…………はァ。
「この階層もあと少し……ファウストは何か少しでも異常を感じたら直ぐに教えてくれ」
「ヴォン!」
「デュークは配下ゴーレムを召喚、護りに徹してくれ」
「…………(コクッ)」
「アンは魔法を出来るだけ使わない様に心掛けてくれ。特に魔力の残量には注意を」
「はい! 任せて下さいね!」
「ルアンジェはこのまま遊撃に専念。その場に即した対応に徹してくれ」
「ん、わかった」
皆んなに役割を振ると、俺は大きく息を吐いた。
『あの──』
コーゼストが何か言ってきた。
『──私には何か言う事は無いんでしょうか』
「──勿論コーゼストには期待しているぞ。特に罠の類いには気を付けてくれ」
何となく不服そうなコーゼストの物言いを聞いて、即座に持ち上げる俺──また拗ねられても困るからな。
『何か取って付けたような感じがしますが……まぁ良いでしょう』
「いや、本当に期待しているからな?」
そう言いながら俺達は第七階層を奥へ奥へと進んでいったのである。
結局また、貧乏くじを引き当てそうで怖い── !
徐々ではありますが遭遇する魔物も強く手強くなって……来ているのですが、このパーティの前では無意味みたいですね(苦笑)
そして今回は以前立てたフラグの上にフラグを建て直しました!
*強化型巨猪人…………巨猪人の最上位種。体高2メルト程。貴位巨猪人への進化一歩手前でかなり手強い。単純に巨猪人が強力になっている。人語を理解し使う事が出来るが、知能は高くない。
*醜巨人…………所謂巨人族の一種。体高3メルト。見た目は爛れた皮膚を持つ巨人で多少の傷はすぐ再生してしまう。力は強いが知能は低く殆ど破壊衝動で行動している。
*鬣狗人…………狗人の進化種。体高180セルト程。集団で狩猟行動を取り連携プレーが得意。一部の者は人語を使う事が出来る。
*女鬼族…………鬼族の雌種。雄種より小柄であるが魔法を行使してくる。
*武技「兜断」…………剣士・騎士が使う剣技のひとつ。所謂兜割り。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。