魔道具のうっかりと天使の昇級
本日、第五十四話を投稿します!
問題を起こした人を追求している内に、自分に火の粉が掛かってきた事ありません?
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「ギルマス、これはどう言う事なんだ?」
執務机に座るギルマスに詰め寄る俺──オルティース達『デュミナス』のメンバー共々訓練場から場所を変え、毎度の如く執務室に来たのだが、これはこれで滅多に見られない構図である。むぐぐと言葉に詰まると、ギルマスは観念したみたいに口を開いた。
「……そもそもはお前達がやらかしたのが始まりだが……ギルド本部に判断を仰いだら、ルアンジェの能力を見定めて昇級させる為の特別試験官をこちらに派遣する事になったんだ……」
「それが『デュミナス』だったんだな」
俺の確認の言葉に、ギルマスは銅色の短髪を撫で付けながら
「まさか到着早々に挨拶にも来ず、お前達に会っちまうとは……」
と溜め息混じりにボヤく。この件に関しては俺は悪くない──多分。
「いや〜、全くすまん!」
一方のオルティースは口では謝罪しているが、全く悪びれた様子が無い。またもやギルマスは三重苦に見舞われそうである。
『──何ですか、その三重苦とは?』
コーゼストが疑問を念話で投げ掛けてくる。
『──胃痛と血圧と抜け毛だな』
『マスターに弄られるギルマスも可哀想ですね……』
ギルマスはそんな話しを俺がコーゼストと念話でしているとは知る由もない。
「本当に……うちの馬鹿がすいません…………」
一方のベルナデット女史はギルマスに平謝りしていた。これが日常──なのか?
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ギルマスは大きく息を吐くと、椅子の背もたれにどっかり寄り掛かりながら
「……まぁ、既に起きた事を言っても仕方ないんだが…………それでお前達の目から見て、ルアンジェは合格か?」
試験の合否を確認する。まぁそちらが本来の目的だしな。
「うん! 直接剣を交えてみて判ったが文句無く合格だな! 力もある!」
「私も途中から見ていましたが、敏捷性・瞬発力・反応速度・適応力・技のキレは申し分無いかと。弱点としては体重の軽さ……でしょうか」
オルティースは自らが感じた感覚で、ベルナデット女史は客観的に見た感想を伝えた。中々の高評価である。
「ふむ……すると昇級試験の結果は文句無しの合格で良いんだな?」
オルティースとベルナデット女史、そしてバルドとゼラフィーネに問い掛けるギルマス。全員が黙って一様に頷き、オルティースがそれらを纏める様に
「俺達4人全員、Aクラス冒険者パーティ『黒の軌跡』メンバーのルアンジェのAクラスへの昇級を認めるものとする。確かSクラス冒険者3人以上が是と見なした場合は合格として認める……だったよな?」
と、にこやかに宣言をしたのだが…………ちょっと待て、今Aクラスって言ってなかったか?! ルアンジェがか?!?
「おいおい! いきなりAクラスとか有り得ないだろ?!」
事態の大きさに思わず大きな声を上げる俺。
「俺が言うのも何だが、ルアンジェは冒険者登録されてまだ1ヶ月経ってないんだぞ?! それなのにいきなりAクラスとか、大丈夫なのか?!?」
「……まさかお前に常識を疑われるとは思わなかったぞ…………」
明らかに不機嫌な表情を見せるギルマス──いや、だって、なぁ?
『ギルマス、マスターは常識が無い訳ではありません』
コーゼストが援護してくれるが──
『ただ常識に疎いだけです』
──ほっとけ! 何つー言い方だ!!
俺はひとり憤慨しながらふと横を見ると、『デュミナス』のメンバーが固まっていた──何だ、どうしたんだ?
「い、いま喋ったのは…………?」
ベルナデット女史が恐る恐る誰何して来る。
おっと、コーゼストの事を話すのをすっかり忘れてた──── 。
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「はぁ……有知性魔道具、ですか…………」
ベルナデット女史が俺の言葉を反芻する様に呟く。一方のオルティースは俺の左腕を掴み腕輪をしげしげと見ているし、バルドとゼラフィーネはオルティースの後ろから興味津々とばかりに覗き込んでいる。
全く……俺は見世物じゃないんだが?
「ええっと、聞きたい事はあるだろうが──この事は他の奴には吹聴しないでおいて貰えると嬉しいんだが……」
まぁ結構ウワサにはなっているみたいではあるが、悪目立ちしたくは無いからな…… 。
『私もうっかりしていました……』
珍しくコーゼストが落ち込んでいるみたいであるが、ついうっかりとか勘弁して欲しい………… 。
まぁしかし、これでルアンジェがヒトでは無く自動人形だと教えたら、それこそ大混乱になるだろうなぁ……口が裂けても言わないが。
ふと見るとギルマスが執務机で両手で頭を抱えているし……なんかすんません。
「……すると、俺と仕合った時に見せられたのは本来の実力じゃ無かったのか…………」
オルティースが心底残念そうに呟いた。
『いえ、オルティース様。私はあの時は一切の補助をしていません。間違い無くマスター・ウィルの実力です』
意外にもすぐさま反論を口にしたのはコーゼストだった。どうでも良いが、何でお前がムキになるんだ?
『私のマスターが他人から低い評価を受けるのは看過出来ませんので』
そうハッキリと言い切るコーゼスト。私のって何? 前にも言ったが何時からお前は俺の奥さんになったんだ?!
そんなコーゼストに抗議しようとした俺にはお構いなく、急にオルティースのテンションが上がった!
「おお、そうなのか!? アレが実力なら申し分無いな!」
……だから何が申し分無いんだ? オルティース………… 。
俺の疑問が聞こえたのか、オルティースが急に真顔になってとんでもない事を口走った!
「なぁウィル! あんたSクラスへの昇級試験を受ける気は無いか?! あんたの実力なら絶対に──ッ!?」
そこまで言って急にスパコーン!! と音が響いて台詞が途切れ、後ろ頭を抱えて蹲るオルティース。その後ろには、短杖を振り抜いた姿勢のベルナデット女史が立っていた。
「全く……貴方と言うヒトは…………馬鹿だ馬鹿だと思ってましたが、ここまで馬鹿だとは思いませんでした!」
何やら怒りに満ちた低い声で、とんでもなくキツい台詞を口にするベルナデット女史
──そんなに馬鹿呼ばわりして良いのか?!
「痛っっっっっ……おい、ベル! いきなり殴るなよ!? コブが出来たぞ!」
殴られた後頭部を片手で押さえながら抗議の声を上げるオルティース。あの短杖で殴られて瘤だけとか……どんだけ頭が頑丈なんだ?! そして抗議するのはそこじゃない気がするんだが………… 。
「いいんです! これで貴方の寝惚けた頭脳もキチンと目覚めたでしょうし!」
ベルナデット女史が言い返し、まるで犬と猫の喧嘩みたいにギャイギャイと言い合いを始める2人。
──何なんだ、この構図?
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「──2人とも、ケンカは駄目」
周りの誰もが、2人の口喧嘩を止めるタイミングを逸していたら、よりにもよってルアンジェが2人の間に入って止めたのだ。
「ケンカは良くない。仲良くして──ね?」
ルアンジェの海碧色の瞳がジッ……と2人を見詰め、オルティースとベルナデット女史は気まずそうにお互いの顔を見やると、いきなりガッチリ握手を交わして
「いやいや、ルアンジェ。俺達は喧嘩をしている訳じゃないぞ! ちょっと巫山戯あっただけなんだ! いつもこんな事していないからな! な、なぁベル?」
「そ、そうよ! これは唯のお巫山戯なのよ。だから安心して、ね?」
ルアンジェの純真無垢な瞳に気圧される様に、慌てて取り繕う2人。バルドとゼラフィーネは呆れ顔だ。
「あー、ゴホン。話しを進めて良いかな?」
ギルマスがわざとらしく咳をして話し始めた
──そう言えばすっかり忘れてた。
「兎に角だ。ルアンジェのCクラスからの二階級特進と言う事で良い訳だな?」
改めて話しを戻して再確認をするギルマスにベルナデット女史は「あ、はい。それで構いません」と答える。オルティースも大きく頷いている。
「よし、ならばその内容でギルド本部には報告する。急いで必要書類を書くので『デュミナス』全員で、あとで署名しておいてくれないか? 大至急本部に転移陣で送らなければならないからな」
そして俺達の方に向き直り
「では改めて『黒の軌跡』は、明日ここに来てくれ。ルアンジェのAクラス冒険者の認識札をその時に正式発行する──」
そこまで言うと、どっと疲れた顔をして椅子に深く座り込むと
「話は以上だ……すまんが皆んな執務室を出ていってくれないか?……頼むから…………」
虚ろな目で訴えるのだった。一気にギルマスが老け込んだ様に見えた──あとで何か差し入れるか── 。
これ以上ギルマスを老け込ませる訳にも行かず、俺達と『デュミナス』のメンバーはそそくさと執務室を後にするのだった。
そう言えば、さっきのオルティースの真面目な台詞に突っ込むのを忘れていた──── 。
ルアンジェも無事(?)に二階級特進でAクラスになりました! これからの活躍をお楽しみに!
オルティースは脳筋の割には一応リーダーっぽく見えますが……何も考えていません! だって脳筋ですから(笑)
それにしてもウィルは何気に因果応報かと………… 。そしてギルマスはいつも苦労人……(爆笑)
いつもお読みいただきありがとうございます。




